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JR北海道、経営危機で「施設と運行分離」説…災害のたびに復旧しない路線累積

文=山田稔/ジャーナリスト
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JR北海道、経営危機で「施設と運行分離」説…災害のたびに復旧しない路線累積の画像1日高線・鵡川駅

 この夏、日本はまさに災害列島と化した。

 6月中旬の「大阪北部地震」、西日本を襲った「平成30年7月豪雨」、9月上旬の「台風21号」被害、そして9月6日の「北海道胆振東部地震」。2カ月あまりの短期間に、列島各地で想像を絶する大きな被害が出た。

 一連の災害で露呈したのが、社会インフラの脆弱さである。関西ではタンカーが橋に衝突したことで、関西国際空港が一時閉鎖に追い込まれた。災害時に孤立化が懸念された海上空港の弱点が、意外な事故によって現実のものとなってしまったのだ。

 北海道を襲った地震では、天井落下や水漏れで新千歳空港が、やはり一時閉鎖に追い込まれ、発生当日の9月6日だけで200便超が欠航した。

 関空、新千歳ともに訪日外国人の利用が多い人気空港だけに、「災害に弱い空港」という印象を旅行者らに与えたダメージは大きい。

 北海道の地震では、なんといっても大規模停電(ブラックアウト)を招いた電力供給システムの問題が深刻だ。長期間に及ぶ停電、電力供給不安定の影響は、酪農から医療現場まで、ありとあらゆるところに及んだ。公共交通網への影響も深刻で、200万人近い人口を擁する大都市・札幌の道路で信号が長時間にわたって機能しないという、あり得ない事態が生じてしまった。

 JR北海道も地震発生直後から全面運休となり、ホームページさえ更新できない状況に陥った。その後、各路線は徐々に運転を再開し、HPも更新されたが、節電が続くなか、11日現在も特急の間引き運転など、全面復旧にはほど遠い状況が続いている。

災害による復旧長期化で存続の危機に

 今回の地震で、JR北海道は千歳線、日高線、石勝線、室蘭線の一部区間で線路が歪んでいる箇所が50カ所以上見つかったと発表した。室蘭線の安平駅構内では電柱が傾く被害も出たという。

 その後、11日になってHP上に「再開見込み情報」を掲載した。12日予定の富良野線から29日予定の根室線(富良野~東鹿越)などバラつきがあるが、日高線(苫小牧~鵡川)は未定となっている。

 災害による運休、復旧は鉄路の存続にかかわってくる問題だ。現に北海道では、2016年8月の台風で被災した根室線は東鹿越~新得間が、15年1月の強風・高波で被災した日高線は鵡川~様似間がいまなお運休中だ。両線とも輸送密度が低く、運休区間はJR北海道が16年11月に発表した「単独では維持困難」な10路線13線区に含まれ、復旧の見通しは立たず、バス代行輸送を実施中だ。

JR北海道、経営危機で「施設と運行分離」説…災害のたびに復旧しない路線累積の画像2日高線、代行バスの案内

 日高線(鵡川~様似間)についてJR北海道は、沿線自治体との協議のなかで路線廃止とバス転換を提案。沿線自治体は線路と道路の両方を走るデュアル・モード・ビークル(DMV)や鉄道敷地跡の専用道にバスを走らせるバス高速輸送システム(BRT)などを検討してきたが、DMV、BRTともにコスト面から断念したという。

 今回の地震で線路等の被害が見つかった石勝線、室蘭線、日高線は、いずれも輸送密度が低く、一部の線区は「単独維持困難」に含まれている。仮に復旧が長期化するような事態になれば、その先はどうなるかわからない。

国交省が400億円の投入を決めたばかり

 JR北海道の17年度決算は、連結営業損益が416億円の赤字。分割民営化時に国から受け取った経営安定基金(7615億円)の運用益は255億円にとどまり、最終的には87億円の最終損益となり、2期連続の赤字となった。

 18年度についても、140億円の最終赤字を見込んでいる。鉄路を維持するための修繕費や除雪費に巨額の費用がかかる一方で、鉄道事業で採算が取れているのは人口が集中する札幌圏のみという状況では、好転は期待できない。新幹線ブームも去ってしまった。

 こうした厳しい経営環境下で、国土交通省は7月下旬、経営支援策として19年度と20年度の2年間で約400億円を投入することを発表。合わせて、JR北海道に対して経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう監督命令を出した。これでなんとか一息ついた格好だが、今後、JR北海道が単独で経営改善を図り、実行していくことが果たして可能だろうか。

 北海道では7空港民営化の動きや、高速道路をはじめとする高規格幹線道路網の整備が着々と進んでいる。鉄道だけが老朽化した設備を抱えたまま、札幌近郊圏以外は輸送密度も下がる一方だ。鉄道運賃収入も1996年度の800億円をピークに減少し、新幹線開業前には600億円台にまで落ち込んでいた。新幹線開業で16年度は727億円(新幹線運賃収入は103億円)まで盛り返したが、17年度は728億円(同79億円)と微増にとどまった。

 注目は国交省・森昌文次官の発言だ。9月10日配信の「文春オンライン」のインタビューのなかで「道路に税金を使って鉄道には使わない。それはおかしいと思いますよ」と税金投入に肯定的な考えを示す一方、線路など施設(下)は国が、運行(上)は民間が行う「上下分離方式」についても「JR北海道にしても『上』の部分は観光列車に特化するとか、あるいはJR北海道に代わる運営母体が使用することだって考えられます」と述べている。

 もはやJR北海道単独にこだわる必要はないだろう。インバウンド急増の時代である。オール北海道で鉄道のあり方を再度協議し、航空・空港をはじめ他の公共交通機関、道路網整備と合わせた交通インフラ全体の将来構想を打ち出す時期ではないだろうか。

 鉄道問題は、命名から150年の節目を迎えた北海道の未来ビジョンの最重要項目のひとつである。
(文=山田稔/ジャーナリスト)

山田稔/ジャーナリスト

山田稔/ジャーナリスト

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。

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