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胃がんは防げる、患者の99%は胃の中にピロリ菌…専門医はバリウム検査より内視鏡を推奨

文・構成=編集部
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胃がんは防げる、患者の99%は胃の中にピロリ菌…専門医はバリウム検査より内視鏡を推奨の画像1ピロリ菌の電子顕微鏡写真(「Wikipedia」より/Zvesoulis)

“ホリエモン”こと実業家の堀江貴文氏が、史上初のピロリ菌検査キット付き書籍『ピロリ菌やばい』(ゴマブックス)を4月に上梓した。同書で、堀江氏は「胃がんは防げる」「大事なことは、治療じゃなくて予防」と提言しており、胃がんを防ぐための有効手段としてピロリ菌の検査・除菌をすすめている。

 ひとりでも多くの人がピロリ菌検査を行い、菌がいる場合はきちんと除去すれば、胃がんは劇的に減らせるという。

 同書の監修を務める予防医療普及協会の鈴木英雄氏(筑波大学附属病院つくば予防医学研究センター副部長)に、ピロリ菌と胃がんの実態や予防医療の意義などについて聞いた。

胃がん患者の99%に生息するピロリ菌

――「やばい」とされるピロリ菌ですが、どんな菌なのでしょうか。

鈴木英雄氏(以下、鈴木) 正式名称はヘリコバクター・ピロリ菌で、胃に生息する細菌です。WHO(世界保健機関)は1994年に「ピロリ菌は胃がんの原因である」と認定し、2014年には「胃がん対策はピロリ菌除菌に重点を置くべきである」との発表を行っています。

 いろいろな毒素を出していますが、日本や韓国、中国のピロリ菌は特に毒性が強く、「世界で最悪の菌」ともいわれています。日本人のがん死亡数の3位は胃がんです。胃がんの患者さんの胃の手術標本を調べたら、99%にピロリ菌が確認されました。

 ピロリ菌は唾液などを通じて感染し、約8割が母子感染と言われています。感染率は60代以上で60~70%ほど、40~50代で30~40%ほどです。衛生環境の改善に伴い、若年層ほど感染率が下がっており、中学生では3%ほどです。

――検査を受けて陽性(菌がいる状態)だった場合、どうすればいいのでしょか。

鈴木 抗生剤2種類と胃酸を抑える薬を1週間ほど飲めば、ピロリ菌を除菌することができます。一度除去してしまえば、基本的にはその後は感染することはありません。副作用として、抗生剤の服用中は軟便になったり味覚異常が生じたりする可能性があります。

 また、除菌すると、胃酸が出やすくなり胸やけや食道炎を生じることもありますが、一過性の場合がほとんどです。治療費は数千円で、検査費を入れても1万円程度です。除菌により胃がんのリスクは6割ほど減らせますが、完全になくなるわけではないので、定期的な検診などは必要です。

――健康診断ではバリウム検査(X線検査)や内視鏡検査(胃カメラ)がありますが、それらではピロリ菌の有無はわからないのでしょうか。

鈴木 ピロリ菌に感染している胃は、ひだがなくなったり太くなったりしているので、バリウムでもベテランの検査技師の方であれば、すぐにわかります。ただ、今までは胃がんの検診なので、「がんの有無」しか回答せず、わざわざ「ピロリ菌がいましたよ」とは教えてくれませんでした。去年からガイドラインが変わり、ピロリ菌が原因であることが多い「胃炎」がみられる人にも、「胃炎の疑いがある」と通知するようになりました。

 内視鏡検査でも、専門医であればすぐにわかります。内視鏡の場合は、その場で胃の組織を一部取って、すぐにピロリ菌の検査に出すこともできます。

――ちなみに、バリウム検査と内視鏡検査はどちらのほうがいいのでしょうか。

鈴木 圧倒的に内視鏡です。精度が全然違いますから。胃がんの発見率は、バリウムでは0.1%ですが、内視鏡は0.3%です。

 エビデンスが揃ってきたことに伴い、近年は自治体検診でも内視鏡検査が認められるようになりました。ただ、内視鏡については検査できる医師が必要なので、そこがネックです。「内視鏡はつらい」という印象を持つ人もいるかもしれませんが、今は鼻から入れる検査もあり、圧倒的に楽です。X線検査では被ばくの問題もありますし、内視鏡のほうをすすめます。

――検査の結果、陰性であれば、それ以上は検査する必要はないのでしょうか。

鈴木 検査に絶対はないので、たとえ陰性でも一度は内視鏡検査をやって、画像検査でも確認したほうがいいでしょう。ピロリ菌がいる人は、毎年検査をしたほうがいいです。

大腸がんや子宮頸がんも「防げる」可能性

――日本のピロリ菌対策は進んでいるのでしょうか。

鈴木 除菌にも健康保険が適用されます。当初は胃潰瘍の人が対象でしたが、胃炎でも適用されるようになりました。保険を使って実質すべてのピロリ菌感染者に安価に除菌ができるのは日本だけで、海外の医師からは「うらやましい」と言われます。治療の環境が整ったので、あとは「胃がんの原因はピロリ菌であり、除菌により予防することができる」ということを、いかに周知させるかが重要です。

――そこで、予防医療の普及が必要なのですね。予防医療普及協会は、どのような経緯で誕生したのでしょうか。

鈴木 堀江さんが自身のポータルサイト「ホリエモンドットコム」で、ピロリ菌研究の第一人者である上村直実先生(国立国際医療研究センター理事、国府台病院長)と対談した際、「胃がんは感染症であり、防げるがん」ということを知って衝撃を受けたそうです。もともと予防医療に興味があったそうで、共通の友人がいた私も含めて、2016年に予防医療普及協会を設立しました。

 最初の活動として、クラウドファンディングで資金を募ったところ約1400万円が集まりました。ピロリ菌の有無は尿検査でわかるのですが、リターンとして、どこよりも安く尿検査ができるようにしました。通常は5000~6000円かかるのですが、検査会社とコラボレーションすることで3000円強でできるようにしたのです。

――今回、検査キット付きの書籍を出したのはなぜでしょうか。

鈴木 インターネット上だけでなく、書籍というかたちで流通することで、より多くの人の目に触れてもらうことができます。別途、検査費用(2500円)はかかりますが、自宅で採尿して郵送すれば完了です。近々、書店だけでなく一部のコンビニエンスストアにも置いてもらえることになりました。普段はあまり健康を意識していないような人にこそ、手に取ってほしいと思います。

――予防医療普及協会では、ほかにどのような活動をしていますか。

鈴木 「防げる病気を防ごう」ということで、最初に胃がん、次は大腸がんに取り組みました。近年、大腸がんは増加傾向にあり、女性のがん死亡者ではもっとも多くなっています。がん検診で便潜血を調べる方法が有効なのですが、受ける人が少ないのが実情です。予防医療普及協会では、大腸がんの検査キットも展開しており、ピロリ菌と同じように郵送で結果がわかります。

 また、子宮頸がんも防げるがんであるということで、予防の啓発に取り組んでいます。子宮頸がんはHPVウイルスが原因で、主に性交渉で感染します。ワクチン接種で予防が可能ですが、日本では副反応が問題となり、厚生労働省は「積極的な勧奨」を中止しています。そのため、日本は先進国で最低の接種率です。この状況に対して、WHOや日本産科婦人科学会が一刻も早い再開を求める声名を出しています。

 ただ、政治的状況もあり、なかなか中央では再開しそうにない。そこで、「自己採取キット」の普及を推進しようと、クラウドファンディングを実施中です。11月が期限ですが、現在は目標額の6割ほどの達成率です。

韓国でがん検診の受診率が上がった理由

――予防医療はどのようにあるべきでしょうか。

鈴木 日本では各種がん検診として安く受けられますが、やる人とやらない人が二極化しがちなのが実情です。病気になって苦しい思いをしないと、予防の大切さに気づかないわけです。

 国は、がん対策基本法でがん検診の受診率を50%以上にしようとしていますが、なかなか広がりません。韓国では、「がん検診を受けないと医療費を上げる」という制度をつくったところ、受診率が大幅に上がりました。以前、日本でもある政治家が「検診を受けた人の医療費を安くする」という提案をしたのですが、「検診を受けない人を差別するべきではない」という反対意見があったようです。

 また、実は予防医療だけでは医療費の抑制にはならないといわれています。長生きすれば、そのぶん医療費も長期間にわたってかかることになるからです。ただ、社会に対する貢献も長きにわたってできるようになる。何よりも、残される家族のことを考えると、ぜひ検診を受けてもらいたい。著名人にも若くしてがんで亡くなる方が少なくないですが、なかには防ぐことができたケースもあったかもしれません。

 ちなみに、子宮頸がんは“マザーキラー”とも呼ばれていて、30~40代で亡くなる方が多いのです。まだ子どもが小さい時期ですよね。

――堀江さんは、どのような思いで予防医療を普及する活動をしているのでしょうか。

鈴木 堀江さんは超合理的なものの考え方をする方で、とにかく無駄なことが嫌いなんだと思います。言葉は悪いかもしれませんが、我々と一緒につくった最初の予防医療の本は『むだ死にしない技術』(マガジンハウス)というタイトルでした。これには、さまざまな意見もいただきましたが。

「堀江さんが予防医療をやっている」と聞くと、「ビジネスでお金儲けをたくらんでいるのではないか」という人がいます。しかし、我々も含めて無報酬でやっています。本の印税も、すべて協会の活動に充てられています。我々も、自分たちだけでは限界があったのが、堀江さんとやることで、より多くの人に声が届けられることを期待しています。
(構成=編集部)

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