「国民の2人に1人ががんになる」と厚生労働省も警告を発するなか、近年増加しているがんに前立腺がんがあります。前立腺がんには、さまざまな治療法がある一方、治療後の再発がかなりみられるともいわれています。
そんななか、高リスク前立腺がんの患者さんでも5年後のがん再発率が5%以下という、極めて優れた治療実績を残し、国際的にも注目されている滋賀医科大学前立腺癌小線源治療学講座特任教授の岡本圭生氏に、前立腺がん治療について聞きました。
――前立腺がんが近年増加しているといわれています。実際には、どのくらいの増加なのでしょうか。
岡本 前立腺は男性にしかありませんので、男性に限りますが、部位別では肺、胃などとほぼ同数の発症が最新のデータでは確認されています。
――男性にとっては決してマイナーながんではないということですね。
岡本 はい。日本でも顕著に増加傾向にあります。前立腺がんは、初期段階では自覚症状がほとんどありません。がんが進行すると、排尿障害(おしっこが出にくい)や、骨転移による腰痛など自覚症状が現れます。
――どのような検査で前立腺がんは発見が可能なのでしょうか。
岡本 血液検査によるPSA(prostate specific antigen:前立腺特異抗原)の値で評価します。PSAの値が高いと前立腺がんの可能性が高いと疑われます。ただし、前立腺肥大などでもPSAの値が上がることがありますので、より正確な診断のためにはエコー検査や直腸からの触診で精密な検査を行います。がんの疑いが高ければ前立腺の細胞を採取し、がん細胞が前立腺に存在するかどうかを調べます。
――検査の結果、前立腺がんと診断された場合には、どのような治療法があるのでしょうか。治療を選ぶ際に、患者はどういったことに気をつけておくべきでしょうか。
岡本 転移がない状態、つまり根治が可能な段階で前立腺がんと診断された場合、前立腺全摘手術、放射線治療には外部照射療法、密封小線源療法などがあります。不幸にして転移してしまっている場合は、ホルモン療法が主体になります。転移のない状態で前立腺がんが発見されたら、「再発の起きにくい」治療法を選択すべきでしょう。米国研究グループによる治療法別成績を示した報告があります。低リスクがんでは、いずれの治療方法でも比較的高い根治率(がんが再発しない割合)が示されています。しかしながら、低リスクの前立腺がんは転移を起こしにくく、進行も非常に遅いと考えられています。ですから低リスク前立腺がんの患者さんには、「監視療法」と呼ばれる治療をすぐに行わない経過観察が主流になりつつあります。