篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックオーケストラが、リハーサル終了時間を“絶対にオーバーしない”理由


 1930年代にニューヨーク・フィルハーモニックの指揮者を務めていたイタリアの指揮者、トスカニーニは癇癪持ちとして有名でした。リハーサル中であっても、奏者のことが気に入らないと、英語があまり得意ではないこともあり、「アウト」の一言でその奏者をクビにしてしまうほどでした。

 しかし、それでは楽員のほうはたまったものではありません。そこで、楽員も自分たちで組合を結成して、指揮者や事務局と闘争することになりました。

 その結果、一度オーケストラで職を得れば、定年まで勤められるようになり、予定されたリハーサル時間を超えることなく、安心して仕事をすることができるようになったのは、一般の社会の方々と同じです。

 ただ、オーケストラには、一般の会社員の方々のような急な残業がありません。どちらかというと、比較的決められた時間内で仕事をする工場勤務に近いかもしれません。しかし、曲や内容、進行状況によっては、終了時刻までに終わらない場合もあり、それを「オーバータイム」と呼びます。もちろん、手当てが付くので喜ぶ楽員もいますが、その後の予定を立てている楽員も多いので、通常は時間ピッタリに終わらせるのです。

 だた、オーケストラでは、本番でもリハーサルでも演奏中はずっと緊張を強いられ続けるので、終了時刻ともなると楽員はみんなクタクタになっています。指揮者から見ても、オーケストラは大変な仕事だと思います。

 最後に、遅刻は厳禁とされる楽員たちは、集合時刻よりかなり早くホールに来ることはありますが、演奏会が終わった後に帰るのは、ものすごく早いのです。観客たちが拍手を終えて、「良いコンサートを聴いた」と笑顔でホールを後にし、駅のホームで電車を待っている頃には、すでに前の電車に乗っている楽員も多いのです。
(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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