お年寄りを狙ったオレオレ詐欺のみならず、我々も日常的に多種多様の詐欺または詐欺まがいの事態に遭遇する。
筆者のスマートフォンにも大型連休開けの5月9日、これまでただの一度も利用したことのないアマゾンから詐欺メッセージが届いた。「料金未払いにより、法的措置を取った」とのメッセージだったが、アマゾンはこれまでもこれからも絶対に利用しないサービスなので、筆者にはすぐ詐欺であることがわかった。インターネットでも念のために検索してみたが、アマゾンをかたる同様の詐欺行為がいくつもヒットした。これも架空請求詐欺の一種なのだろう。
こうした架空請求詐欺であれば完全に無視すれば済むが、契約書が介在する詐欺の場合は、やっかいである。「無料キャンペーン」と銘打った求人広告サイト詐欺もそのひとつで、日本全国の中小企業で被害が続出している。被害に遭った企業の求人担当者に話を聞いた。
「最初に電話があったのは、3月25日でした。内容は『当社が運営している求人サイトで、掲載無料のキャンペーンをやっているので、無料期間だけでも広告を載せてくれないか』というものでした。うちはハローワークに求人を出していたんですが、それを見て電話していると言っていました。運営会社名は名乗らず、『ジョブサーチ』というサイト名でした。
そのあと、求人広告掲載申込書がFAXで送られてきて、『3カ月プラン』か『30日間無料キャンペーン対象プラン』を選ぶチェック欄があって、それで30日間無料キャンペーンプランにチェックを入れ、社判を押して、メールアドレスと電話番号等を記載して送り返したんです。運営会社がアシストという東京・渋谷にある会社だとわかったのは、その時です。
FAXでは、チラシと「求人サイトへの募集掲載に関する契約条項」という書面が送られてきて、そこには確かに掲載終了7日前までに解約を申し出ないと自動更新されますよということが書かれていて、送り返し用のFAXにも小さい文字で別紙の契約条項を確認し、それが適用されることを了承したうえで送信しますという文言も入っていました」
だが、当該担当者はキャンペーン終了1週間前までに解約の手続きを取らなかった。すると、4月17日付の消印で「32万4000円を支払え」という請求書が送られてきたのである。
警察「詐欺としての立件は困難」
「契約書をちゃんと確認しなかったのですが、おそらくそこを見落とすようにつくられていると思います。それが手口なのでしょうが、確認不足については、こちらの落ち度でもあります。掲載期間は4月23日までの契約でしたが、4月16日までに解約の申し出をしないと自動更新される契約内容だったので、契約が自動更新されたということで請求書が送られてきたんです。
実際、解約期限までに用紙は届いていたんですが、これも非常にわかりにくい書式で書かれていて、表は別のキャンペーンの広告がでかでかと載っていて、書面裏の一番下に小さく1行、『無料掲載終了後は有料掲載となっていますので、更新をしない方は必ずチェックをしてください』と書いてあった。おそらくそれにチェックして送り返さないといけなかったんでしょうが、封書を開けた瞬間、ただの営業のチラシだと思って、そのまま放置してしまったんです。
どういうことかとクレームの電話を入れて、やりとりをしていくなかで、相手の口調とか態度から、これは詐欺的な会社で、自分がだまされたんだとようやく気づきました。最初は契約が継続してしまったので、32万4000円を支払うようにということでしたが、向こうも途中から、『そちらにも言い分があるでしょうから、半額の16万2000円にする』と変わってきました。それでも納得いかないと告げると、『更新手数料の10万8000円だけでも払え』と言われたんです。
その後も、アシストからの電話はかかってきて、やりとりをしていたんですが、事務所にもばんばん電話がかかってくるようになったので着信拒否をしていたら、非通知の電話でヤクザみたいな口調の脅迫めいた電話がかかってきて、その非通知の電話も鳴りやまなくなったので、業務妨害として警察に相談して、これまでの経緯をお話ししました。
契約書を綿密につくり上げているので、警察にも詐欺としての立件は難しいと言われました。非通知の電話についても、アシストからの電話かどうか判断できないので動けないということでした。うちは多店舗経営をしているので、非通知の電話が事務所以外の店舗にかかってくるとやっかいだなと思って悩んでいるところです。
結果的に、求人情報を掲載したジョブサーチを経由した応募は1件もありませんでした。すべてハローワークの求人からの応募で採用が決まり、すでに募集も終了しているので、ジョブサーチでの求人効果はまったくありませんでした。ジョブサーチのサイトにはうちの求人広告がまだ掲載されているので削除するように要求しているのですが、削除されていないというのが現状です」(前出の担当者)
同様の手口を行う求人サイトは多数存在
渋谷にあるアシストという会社に電話をかけてみたが、「おかけになった通話は、現在お取り扱いしておりません。番号をお確かめになってお掛け直しください」というメッセージが流れ、すでにつながらなくなっていた。
ネットで検索したところ、アシストという運営会社とジョブサーチというサイトのほか、13の運営会社と名前の異なるサイト名に関して、同様の被害に遭った人たちが、昨年8月頃から、該当の電話番号も掲示しつつ警鐘を鳴らすメッセージを発信していることがわかった。以下にその一部を示す。
「株式会社アシスト。実態のない会社です。『3週間無料キャンペーン』で勧誘し、その後、自動契約更新で有料契約になり、多額の請求がきます」
「詐欺会社です。支払いはしない旨を通知し、一切無視しましょう」
「悪質詐欺会社! 『無料求人サイト3週間無料掲載』と約束しておきながら、必ず有料期間に移行されるようになっていて高額の請求書がきます。ジョブサーチと騙っていますが、とんでもないインチキホームページ。本物のジョブサーチ(パソナ)さんも迷惑な話ですよね。逮捕してほしい!」
「ハローワークに求人を出すと必ず電話がかかってきます」
「メディアプロモーション株式会社の『まいじょぶねっと』は、昨今の人手不足につけこんだ悪質な求人広告会社です。個人店舗や中小企業の人手不足を悪用した非常に悪質かつ迷惑な企業です」
「横浜市のメディアプロモーション、とんでもない詐欺師。警察や消費者相談センターでは、これ以上話が展開しないことを逆手にとって、悪事を働き続けている。早く捕まってほしいです」
詐欺まがいとして名指しされている求人広告サイトは、以下の通り。ジョブサーチ、ジョブランド、ジョブグッドナビ、ジョブグラム、アスクナビ、ワンビズネット、甲信越アットワーク、まいじょぶねっと、ジョブウォーリー、じょぶハウス、ジョブディア、マイジョブネット、WHITE Works、WORK WORK。
10連休が明けて、従業員が出社しない、辞めてしまったなど、急に従業員が足りなくなるケースの対応に苦慮している事業所は、どれくらいあるのだろうか。地方であれば、とりあえず地元のハローワークを頼るしかないが、その求人情報はネットで誰もが簡単に閲覧可能だ。ある日突然、不審な求人サイトから無料広告掲載依頼の電話がかかってくるかもしれない。くれぐれもご用心を。
(文=兜森衛)