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西宮市の解体工事でアスベストまき散らす…市は当初「ない」と強弁、市民が中皮腫の恐れ

写真と文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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意義のある判決内容

 工事は終わっており、差し止め請求もできない。訴訟では原告それぞれが5万円ずつの賠償金を求めたが、具体的に病気になったわけでなく、「精神的な将来への不安」に対する賠償となる。これについて判決は、測定結果で具体的な数値が出ていないことから「社会生活上受任すべき限度を超える程度に至ってはいない」とした。室谷弁護士は「もう少し踏み込んでほしいけど、真相解明や市の問題点を明らかにしてくれた」と評価した。

 原告団の代表の医師、上田進久(のぶひさ)氏(ストップ ザ アスベスト西宮代表)は言う。

「レベル1の建材が使われていたと知り、凍りつく思いだった。それでも西宮市は最初、アスベストはないと強弁したのです。判決理由では、原告が主張していたことが認められており、今後のアスベスト飛散防止に向け、大きな礎になることも明記されていた。しかし飛散の程度から健康被害の立証はできないとされ、慰謝料を請求する我々とは大きな溝がある。アスベスト問題は、20年から50年先の健康被害を予見する想像力を必要とし、将来予想から現状の危険を排除する対策が求められるが、その特殊性ゆえに難しい」

 ちなみに原告団は「敗訴だが判決内容は意義がある」として控訴しないことに決めたが、ここでいう特殊性とは、「静かな時限爆弾」アスベストの潜伏期間にほかならない。アスベスト特有の病気である中皮腫は、潜伏期間が20年以上とされる。

国の責任

 アスベスト対策の遅れた日本は、04年の「含有量1パーセント以上」から12年の全面禁止まで段階的に輸入や使用を禁止したが、遅すぎた。高度経済成長期から世界一の量を輸入し、1970年代は年間平均30万トンを超え、その8割は建材や水道管、その他の多くは断熱用の吹き付けなどに使われた。

 夙川学院短大の建物も65年ごろから建築されているが、最も危険な形状である吹き付けアスベストが禁止されたのは75年である。少しアスベスト史と照合するだけでも西宮市は容易に危険を推測できたはずだが、なぜ「アスベストはない」になるのだろうか。「立ち入り調査」は単なるアリバイなのか。

 今、各地でこうした古い建築物の解体が進むが、「密閉して負圧にする」ような現場をほとんど見ない。実施すれば金も時間も相当かかる。本当に安全な解体工事が行われているとは考えにくい。

 弁護団の池田直樹弁護士は「判決は、将来、仮に原告住民などが発症すれば、業者や西宮市の違法性を問い、賠償を求める大きな礎になる」とするように今回の判決は20年、30年先の被害についても現在の関係者らが責任をとるべく根拠を明示したといえる。実害が出ないうちから「想像力」で警鐘を乱打した、70代の上田医師をはじめとする西宮市の原告団と弁護団に敬意を表したい。
(写真と文=粟野仁雄/ジャーナリスト)

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