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片山修のずだぶくろトップインタビュー 第16回 小西工己氏(名古屋グランパスエイト社長)

名古屋グランパス、J2降格から平均観客数歴代1位へ復活遂げた“トヨタ式経営”

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
名古屋グランパス、J2降格から平均観客数歴代1位へ復活遂げた“トヨタ式経営”の画像1小西工己(こにし・こうき):名古屋グランパスエイト 代表取締役社長。1959年山口県生まれ。82年に東京外国語大学フランス語学科卒業後、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。2007年広報部長、12年常務役員、14年技術管理本部長、15年ミッドサイズビークルカンパニーエグゼクティブバイスプレジデントなどを経て、16年12月名古屋グランパスエイト顧問、17年4月から現職。

 今日、スポーツビジネスに注目が集まるなか、サッカーJリーグの名古屋グランパスエイトは昨年、リーグ戦平均入場者数2万4660人と歴代1位を記録した。トヨタ流の経営が成果をあげている。

 17年4月に、グランパスの再建を託されて、社長に就任した小西工己氏に、前回に引き続きグランパス再建の要諦を聞いた。

片山修(以下、片山) サッカーは、野球には、まだ勝てないんですか。

小西工己氏(以下、小西) まだ、一桁違いますね。お客さまの関心度合が違う。プロ野球のいいところは、どんどん取り入れたいと思っています。

片山 福岡ソフトバンクホークスの「鷹の祭典」を見学なさったと聞きました。

小西 うちの部長たちが見にいきました。「鷹の祭典」と、カープで盛り上がる広島市は、すごい。試合がない日にも、ユニフォームを着ているファンが大勢いる。いい意味で、カッコイイとか郷土愛とか、いろんな意識が混じっている。ヨーロッパでもそういう都市が多いですよね。

 10年、20年かかるかもしれませんが、いま始めないと始まらない。まだ、中日ドラゴンズさんの足元にも及びませんから、努力しないといけません。

2つのKPI

片山 シーズン後、親会社であるトヨタの豊田章男社長に報告はされたんですか。

小西 去年は、J1残留決定の翌日がトヨタさんの社内駅伝の日だったんですよ。トヨタスポーツセンターに、トヨタの役員は大勢集まる。グランパスの事務所の隣ですから挨拶にいきました。みなさん「よかったね、おめでとう!」といってくださいましたが、私自身はギリギリの残留に忸怩たる想いが強く、「本当に申し訳ございません」と、まずお詫びです。

片山 そりゃ、そうだよなぁ……。

小西 ただその後、「まあ、そうはいってもナァ……」といいながら、慰労していただきました。非常に温かい、激励、慰労の言葉をかけていただきました。「とにかく強いチームにしてくれ。仕事をしていても、頭の隅に弱いグランパスがおって、気持ちが晴れなかったからな……」と、社長にいわれて。

片山 キツイね、それはまた。

小西 でも、あれだけ忙しい方に、それだけ関心を持っていただけるのは、本当にありがたい話です。「とにかく、早めに相談してくれよ」といわれました。

名古屋グランパス、J2降格から平均観客数歴代1位へ復活遂げた“トヨタ式経営”の画像2

片山 小西さんご自身が、トヨタで鍛えられた成果は、生かされていますか。

小西 無理難題を意図的に設定して、課題をつくって取り組むことでしょうかね。標準作業があって、改善をして、効率化したお金と時間をつかって新しいことに取り組むというサイクルは、トヨタと同じです。グランパスの目指す姿は、(1)「観て楽しいサッカー」、(2)「町いちばんのクラブ」、(3)「優勝争いのできる安定的経営基盤」のスパイラルアップですが、このビジョンは、トヨタのビジョンそのものです。

片山 トヨタも、「町いちばん」とか、「安定的経営基盤」といいますね。

小西 私は、トヨタで35年間、学ばせていただくばかりでアウトプットがほとんどなかった。

片山 いやいや、そんなことはない(笑)。

小西 いま、ようやくほんのちょっとお返しできる入口のところにきたというイメージです。結果がわかりやすいですので、やりがいはあります。グランパスの場合は、事業のKPI(重要業績評価指標)と、チームのKPI、2つあるんですよ。

片山 事業としては、黒字ですか。

小西 去年は黒字でした。3年連続赤字、もしくは、一年でも債務超過になったらJ1ライセンスは剥奪となります。

片山 厳しいんですね。そのなかで、3年目の挑戦が始まりました。

小西 1年目はJ1復帰が至上命題。2年目はJ1ぎりぎり残留。ここまではプロセスで、今年は結果を求められる年です。

片山 3位以内に入るとおっしゃっています。新しい選手もどんどん加わっていますが、いかがですか。

小西 3位までに入って、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)に出る。十分、可能性はありますね。選手層が厚くなりました。もちろん、本心は3位以内ではなくて「優勝」ですが。

片山 入場者数は、いかがですか。

小西 当初、48万何千人とかの目標が上がって来たんですよ。「まだ違うな~」と思って(笑)。トヨタさんなら切り上げすると思います。

片山 50?

小西 50ですよ、50万人です。キリが悪いじゃないですか。メンバーは、またキョトンとして、「社長がまた誤作動した」みたいな顔をしていましたけどね。あえて、1万数千人はメドなし。メドがあるほうが安心するんでしょうけど、面白くない。“メドなし”だから、燃えるし、エキサイティング。

片山 ははははは。小西さん、いつもお元気で明るいですから。このお仕事に向いているんじゃないでしょうか。

小西 かなり頻繁に現場をウロウロしていると思います。イベントには必ずいっていますし、ホームタウン活動も好きです。

片山 トヨタの現場主義だね。

小西 そうですね。

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小西さんの素顔

片山 好きな食べ物、嫌いな食べ物はありますか。

小西 好きなのは寿司。嫌いなものはまったくない。お酒は、ビールとシャンパン、ワイン系ぐらいですね。

片山 ストレス解消法はなんですか。

小西 チームが勝つこと。

片山 最近読んだ本はありますか?

小西 塩野七生さんの『ローマ人の物語』。

片山 ご自分の性格を一言でいうと。

小西 オプティミスティック(楽観的)。ポジティブシンキング。

片山 ごもっとも。

小西 前しか見たくない(笑)。

片山 行ってみたい場所、再訪したい場所はありますか。

小西 今回、ジョアン・シミッチというブラジル人選手をポルトガルから獲得したんですが、それもあって、ポルトガルに行きたいですね。仕事っぽい話ですが、ジュニアの育成が充実しているし。あとは、いい意味で田舎で、魚も肉も、ワインも美味しいですからね。

片山 最後に、マネジメントとは何ですか。

小西 メンバーに、イキイキと働いていただくことですね。適材適所。

(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

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片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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