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立命館大学、なぜ大企業への就職に強いのか?大学1年次からの先進的キャリア教育が大きな成果

文=林夏子/ライター
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 景気回復と人手不足で売り手市場といわれている就職市場。しかし、2020年の東京オリンピックを終えた後の景気を不安視する声もあり、この先も売り手市場が続く保証はない。

 そんな不安定な時代だからこそ、就職力が大学選びの重要な要因のひとつとなっている。高校の進路指導教諭が選ぶ「就職に力を入れている大学」ランキング【※1】の上位常連校で、大企業に強いと定評がある立命館大学。同大学の就職力の高さの理由と、特色あるキャリア教育について取材した。

就職氷河期にいち早くキャリアセンターを開設

「太陽の塔」を擁する万博記念公園からほど近い、立命館大学大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)のキャリアセンターにお邪魔した。立命館大学は3万人以上の学生を抱える、関西地区一のマンモス校だ。衣笠(京都府京都市)、びわこ・くさつ(滋賀県草津市)、大阪いばらきの各キャンパスに、それぞれキャリアセンターとキャリア教育センターを設置している。

 キャリアセンターは、全キャンパスあわせて40名以上のスタッフが学生の相談に応じて助言やサポートを行う体制を整えている。大規模大学ならではのネットワークを利用して、多様な業界で活躍する卒業生を学内に招へいしセミナーを行う。また、4回生以上の就職内定者をジュニア・アドバイザーと認定し、後輩への助言・援助を行っている。これらのネットワークが立命館大学の就職支援の大きな柱となっている。

 昨年度、民間企業に就職した学生の割合は卒業生全体の88.2%。そのうち52.4%が従業員1000人以上の企業に就職し、大企業に強いのも特徴だ。また、マンモス校ながら進路把握率は98.4%と高い。キャリアセンターのきめ細かい支援が数字となって表れているといえよう。

 立命館大学は1999年、他大学に先駆けてキャリアセンターを開設している。99年といえば、就職氷河期の真っただ中。世界規模の企業再編が進み、日本企業も厳しい経営環境が続いていた時代だ。キャリアセンターの東美江次長は当時を振り返り、こう語る。

「本学の学生たちが高いハードルを超えて希望の進路を切り開いていこうとするなら、入学直後から自分の生き方や職業について真剣に考え、それを実現するために、目的を持って4年間の学生生活を送ることが何よりも大切だと考えました」

 限られた大学生活で目的を持って学業に専念する学生が、就職の段階でも評価されることは疑う余地はない。

「進路から見た学生実態調査でも、本学の優秀層は自ら目標設定と教学プログラムを活用しきる力量を有し、単位認定の対象である正課に加え、それ以外の課外活動も積極的に取り組んでいることがわかりました。そういった学生は、自身の就職への満足度も高かったのです」(東次長)

 学生実態調査の結果、希望の進路を切り開いていくのは、学業のみならず、海外留学やサークル、ボランティアなどの課外活動にも積極的に取り組む学生だったという。そこで、就職斡旋だけだった支援を、「社会・職業観」を育成し「進路(職業)選択力」の形成につながるような支援に変えた。支援内容の変更に合わせ、キャリアセンターに改組。各学部と協力し、学部別・分野別のプログラムに取り組んできた。現在はどの大学にもキャリアセンターが置かれ、キャリア支援を行っているが、就職斡旋が主流だった当時では画期的な改組だった。

 このように、同大学では20年前から学校を挙げて就職問題について本気で取り組んできたという沿革がある。

社会が求める「キャリア教育」とは?

 18年12月の提言で、日本経済団体連合会は「学生が自らの就職・進路を見据えて、目的をもって大学で学ぶようにするためには、大学入学から間もない時期にキャリア教育を実施することが重要」と指摘している【※2】。

 そもそも、経済界から要請されている「キャリア教育」とはなんだろうか。文部科学省の中央教育審議会はキャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義している【※3】。

「キャリア教育」という言葉自体は浸透し、大半の大学でなんらかの支援が行われている。しかし、エントリーシートの記入方法や面接対策など就職活動支援の延長にとどまるものも多い。

 立命館大学でも、キャリアセンターでそれらの支援を行っている。それに加え、08年にキャリア教育センターを新設し、全学部共通の教養科目としてキャリア発達段階に応じた講義・演習・実習科目が体系化された「キャリア教育科目」を開講。受講生の主体性等の育成を目指している。

 立命館大学のキャリア教育は、正課(単位認定の対象)として、キャリア教育センターで提供しているキャリア教育科目、各学部での専門科目を通じたキャリア教育が位置づけられる。さらに、課外のさまざまなプログラムもキャリア教育としてとらえられている。

 大阪いばらきキャンパスでキャリア教育科目を担当する長田尚子准教授(キャリア教育センター)は、「進路を検討する時期が近づくと、『試験に合格すること』『大手企業に就職すること』が目的になりがちです。しかし、決してそれが人生のゴールではないはず」と話す。

「キャリア教育科目」では、講義を通じて自分と向き合い、専門性の異なる他学部の学生とグループワークやPBL(Project based learning)を通じて社会とのかかわりを学ぶ。その過程で学生はより主体的に学び続ける意義を見いだし、多様性や協働性を育んでいくのだという。

半年かけて現実の課題に取り組む

 キャリア教育センターでは、企業での実務経験があり、関連分野の研究業績と教育実績が豊富な教員が各キャンパスに配置され、すべての授業を担当するとともにカリキュラムの設計や改善を行っている。多様な学部の学生が参加する大教室の授業であっても、グループワークなどのアクティブラーニングがきめ細かく実現されている。

 キャリア教育センターが提供するキャリア教育科目の特徴として、学部3年次以上と大学院生が履修できる「コーオプ演習」がある。これはインターンシップの先進地である欧米で数多く展開されている産学連携教育プログラム「コーオプ教育(Cooperative Education)」をモデルとして、日本の総合大学の中では先駆的に導入・推進されてきたプログラムである。

「コーオプ演習」は課題解決型の産学連携PBLで、学部・研究科5~8名がチームとなり、企業・団体から提示された現実の課題に取り組み、半年間で調査や企画立案を行う。提示される課題は、戦略立案、新サービスや新商品の検討、新規顧客の創造など多岐にわたる。いずれも通常の産学連携プロジェクトと変わらない内容とも思える。

 しかし、プロジェクトそのものの達成が目的となる通常の産学連携と異なり、あくまでも学生の「総合的な人間力」と「社会的能力」の育成のための教育プログラムだ。長田准教授をはじめ教員は直接指導せず、学生が考えるための支援に徹するという。学生が提案した企画が実際に課題提示企業・団体で採用された事例も少なくない一方、企業・団体との約束の期日までに提案がうまくまとめられないチームもある。それでも学生は、その経験を学びに変えていく。

「このプログラムと就職活動の関係を検証するのは難しいです。しかし、授業アンケートでは、高い満足度と自己の成長を示す学生が多いといえます」(長田准教授)

 キャリア教育センターでは、入学後間もない時期からの本格的なキャリア教育の実現を目指して、実際のビジネスを想定した課題に取り組む「FSP講座」【※4】を16年度から先行開講してきた。20年度からは、「社会と学ぶ課題解決」という1年次向けの科目としてクラス数を増やして開講する予定である。本格的な専門教育に入る前に自分に足りない力を自覚することで、その後の学びを主体的なものに転換させられるという。

生涯にわたって学び続けられる人材を育成

 外国人労働者の増加や人工知能の普及で、産業構造が大きく変化していく時代。終身雇用・年功序列が崩れ始め、大企業に就職することがゴールではなくなった。

 先の経団連の提案にも表れているように、実践的で専門的な知識やスキルを持つ人材であるとともに、時代の変化に合わせ学び続けることのできる人材が求められている。立命館大学のキャリア教育プログラムが目標とする「生涯にわたって学び、社会に貢献できる人材の育成」は、まさにその期待にこたえるものである。

 キャリア教育科目の設置と就職力の高さを関連付けるのは難しいが、玉石混淆のキャリア教育を牽引する存在であることは間違いなく、今後の展開に期待したい。
(文=林夏子/ライター)

【※1】
最新版「就職に力を入れている大学」ランキング』(東洋経済オンライン)

【※2】
今後の採用と大学教育に関する提案』(一般社団法人日本経済団体連合会)

【※3】
キャリア教育とは何か』(文部科学省)

【※4】
一般社団法人Future Skills Project研究会が、学生の主体性を引き出し、大学4年間の学びを有意義にすることを狙いとして開発した産学連携講座。1年次前期に実施され、学生が5~7人のチームとなり前後半で2企業からの課題に取り組み、解決を企業に提示する。

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