三菱重工業が社運を賭けて取り組んできた国産初のジェット旅客機を開発している三菱航空機は6月17日、世界最大の航空見本市「パリ国際航空ショー」で、受注拡大に向けた新たな戦略を打ち出した。
名称を「MRJ(三菱リージョナルジェット)」から「スペースジェット」に変更。世界のLCC(格安航空会社)向けの新型機「スペースジェットM100」を披露した。70席タイプで、2023年の市場投入を目指す。
MRJプロジェクトは、もともと開発費を国が一部補助し、愛知県を中心とする航空部品サプライヤーを使うなど“初の国産ジェット”を開発するという意味合いが強かった。
だが、実態は三菱航空機の親会社である三菱重工が6000億円を超える開発費を投入。これまでに5度も納入延期を繰り返してきた。18年には三菱航空機の1100億円の債務超過を解消するため、三菱重工が2000億円規模の金融支援に踏み切った。
初の国産ジェット機という錦の御旗を降ろし、現実路線に転換する。名称を変えるだけでない。ボンバルディア出身のアレックス・ベラミー氏を最高開発責任者に据え、米市場向けに追加機種を開発し、米国生産も検討する。
米国ではパイロット保護の労働規制があり、地域間を飛ぶ小型機(リージョナルジェット、100席未満)の座席数に制限が設けられている。76席以下というのがひとつの基準。これは中大型機の市場を小型機に奪われないための参入障壁だ。
三菱重工は規制の緩和を想定し、90席タイプの開発を08年から始めた。だが、米国での規制緩和はなかなか進まず目算が外れ、70席型を主力にする方針に事実上、転換した。
現在、世界で運航される小型機(60~99席)は約3600機。ブラジルのエンブラエルの「Eシリーズ」が5割強(約1900機)、カナダのボンバルディアの「CRJ」が4割弱(約1300機)を占める2強体制だ。米ボーイングがエンブラエルの小型機部門を19年末に事実上、買収する。欧州エアバスは18年7月、ボンバルディアの中型機事業を買収した。
三菱重工によるボンバルディアの小型機「CRJ」事業の買収交渉が突如、浮上した。ボンバルディアは開発費の増加などで旅客機部門は18年12月期で4期連続の赤字。最後に残ったCRJ事業を手放し、鉄道事業などに経営資源を集中させる。
三菱重工がCRJを買う理由は、メンテナンス要員の不足を補うのが目的だ。航空機はメーカーが納入して20年以上飛び続ける。買い替えまでの期間は長いため、機体のメンテナンスなど顧客サポートで稼ぐ。MRJで小型機事業に参入した三菱重工には、そうしたメンテナンス要員がいない。欲しかったのは顧客サポート部門だけだったが、ボンバルディアは「丸ごと買ってくれ」と逆提案してきた。