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年間35兆円?無駄な保険に入り過ぎる日本人…営業マンの“商品乗り換えさせ”商法

文=横山渉/ジャーナリスト
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「Getty Images」より

 大手保険会社が続々と「健康増進型保険」に参入している。昨年3月から発売されている第一生命「ジャスト」の「健診割」、昨年7月に住友生命が南アフリカの金融サービス会社と組んで開発・発売した「バイタリティ」、そして今年4月に発売開始した明治安田生命「ベストスタイル 健康キャッシュバック」などがある。

 健康増進型保険とは、加入契約後に運動するなど健康になるよう努力して、健康診断の結果が改善したりすると、保険料の割引やキャッシュバックが受けられる保険だ。これまでも、非喫煙や血圧、BMI値で保険料が割引されるタイプの保険はあった。そうしたタイプは「リスク細分型」と呼ばれる。健康な人は一般的に、そうでない人に比べて、死亡・病気入院するリスクが低いので、同じ保険料では不公平という考え方で考案された保険料率だ。損保ではゴールド免許保有者の保険料のほうが安くなるのはもはや一般的で、それは事故のリスクが低いと考えられているからだ。

 健康増進型は、リスク細分型のように契約時だけでなく、契約後も継続して健康状態をチェックしていくタイプのものが多い。健康診断を受けなかったり、健康診断の結果が悪くなったりすると、保険料が高くなるタイプのものもある。

 保険会社が健康増進型を開発するきっかけをつくったのは、自民党衆議院議員の鈴木隼人氏だ。国民医療費の約3分の1が生活習慣病関連だが、鈴木氏が経済産業省の課長補佐だった頃、経済界からのアプローチとして構想した対策が健康増進型保険だった。

「このサービスを開発するパートナー探しで、複数の大手生保に話を持ち込んだものの、当時、大手はどこも及び腰だった。そんななか、アイアル少額短期保険が協力することになり、経産省の委託事業というかたちで開発に携わることになった」(鈴木氏)

 ただ、実際の商品化は健康年齢少額短期保険のほうが早く、2016年6月に保険料が健康年齢に連動する医療保険を発売した。

 では、健康増進型は本当に人気商品なのだろうか。健康年齢少額短期保険の大橋宏次社長は「苦戦している」と本音を漏らす。同社の保険は1年更新で、1年後に健康年齢が若くなっていれば、保険料はさらに安くなる。少額短期保険だから、保険料は月々数百円からとかなり安い。

「最近は大手も参入してきたが、どこも思ったほど伸びていないと聞く。従来なかった新しいタイプの商品であり、マーケットに浸透するにはまだ時間がかかるのではないか。自分の健康年齢を知りたいという人は多いはず。当社のサイトで健康年齢を調べることができるが、その先の契約にまではつながらない」(大橋氏)

 都内保険ショップの相談員は次のように話す。

住友生命のバイタリティ、うちでは1件の成約もない。発売当初、住生の担当者が熱心に説明していったが、我々がその熱量についていけなかった。お客さんもピンとこない様子だった。実務的には、ウエアラブル端末を含めて説明するのが大変。大手は保険料の格安競争を続けてきたが、そこから離れたかったのではないか」

 別のショップの相談員もこう言う。

東京海上日動あんしん生命の『あるく保険』が売れていない。1日平均8000歩以上歩くのを2年間続けるのは大変そうという声も多い。また、2年後にもらえる健康増進還付金もモチベーションにするには少ないという意見もある」

 あるく保険は、主契約である既存の保険商品に「健康増進特約」を付けることで「あるく保険」になる。還付金の額は加入する保険の種類によって変わってくるため「◯◯◯◯円」と一言で提示することはできないが、保険料1カ月分程度と考えればよい。

 東京海上日動あんしん生命企画部の担当者は、個別商品の販売状況は回答できないとしつつ、「本商品はお客様を生活習慣病などの重篤な疾病から未然にお守りできる商品であり、将来は、こうした健康増進型保険のマーケットが拡大すると考えています」とのことだった。

健康増進型は本当にトクか

 健康増進型保険に懐疑的な総合保険代理店ファイナンシャルアソシエイツの藤井泰輔代表はこう指摘する。

「大手生保の商品は、もともとの保険料が高すぎるので、健康増進型で保険料が2~3割安くなったり給付金が支払われたりしても、割安感がまったくない。新商品を出して切り替えさせようという相変わらずの販売手法だ」

 中高年齢層で第一や住友、明治安田の保険に入っている人の多くは、若い頃に契約した商品かもしれない。そういう昔の保険商品に健康増進特約を付加することはできない仕組みなので、これから健康維持・改善して保険料を安くしようと思ってもできない。ファイナンシャルプランナーの高野具子氏は健康増進型のニーズについてこう話す。

「たとえば、肥満でたばこを吸うけど何かやらなきゃとモヤモヤしているような人には、背中を押してくれる商品になるかもしれません。ただ、保険販売の現場を見ていると、健康増進型を求めて相談に来る人はいない。また、保険会社にとっては、日常的に健康維持努力している人のほうが保険金支払いリスクは低い。死亡リスクが低ければ、それだけ長く保険金を払い続けてもらえる」

 健康維持に積極的な人は優良顧客であり、そういう人たちを囲い込みたいという保険会社の思惑も透けて見えてくる。しかし、気力も体力も充実している若い頃は得てして健康に無関心なもので、アルコールを減らすなど自分の体を気遣うようになるのは40代からという人は多い。その世代から新規で保険に入ろうとすると、大手の保険料はかなり高いものになる。

 健康増進型を検討する場合、将来的に健康維持のモチベーションが続くのかどうか、自分に問いかけてみる必要がある。ジム通いでも散歩でも、ある程度時間に余裕がないと難しい。藤井氏はこう話す。

「公的保険制度が充実しているにもかかわらず、日本人は余計な保険に入りすぎ。年間35兆円も払っている。大手生保の社員らは自分たちが販売しているものに入らず、格安でお得なものに入っている。高齢者は保険を見直して整理する年代であり、健康増進型に限らず、新たに考える必要はない」

 現在、かんぽ生命の不適切営業が大きな問題となっているが、軽々しく新しい保険商品に飛びつくようなことだけはしないように。

横山渉/フリージャーナリスト

横山渉/フリージャーナリスト

産経新聞社、日刊工業新聞社、複数の出版社を経て独立。企業取材を得意とし、経済誌を中心に執筆。取材テーマは、政治・経済、環境・エネルギー、健康・医療など。著書に「ニッポンの暴言」(三才ブックス)、「あなたもなれる!コンサルタント独立開業ガイド」(ぱる出版)ほか。

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