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年金、3割減のシナリオも…“単身”下流老人の増加必至、国民年金のみでは生活成り立たず

文=林美保子/フリーライター
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「Getty Images」より

 8月27日、厚生労働省公的年金の見通しを示す財政検証を公表した。「夫・会社員、妻・専業主婦」というモデルケースでは、2019年度の年金給付額は月額22万円。現役世代の平均手取り収入額35万7000円に対し、所得代替率は61.7%になる計算だ。財政検証では、経済成長の度合いによって6通りの所得代替率を予想しているが、その中間にあたるケースⅢでは、2047年には50.8%まで下がり、経済成長率が低いケースⅣからケースⅥになると50%を下回ってしまう(ただし、2004年の年金改正法では50%の給付を保証している)。現在の22万円でも、2000万円の自己資金が必要という試算が出ているというのに、かなり厳しい結果となった。

マクロ経済スライドとは、年金受給額が減っていく仕組み

 なぜ、これだけ下がっていくのか。その原因は、少子高齢化が進むなか、年金制度の安定を図るべく、「物価スライド」から「マクロ経済スライド」(現役人口の減少、平均寿命などの社会情勢に合わせて年金給付額を抑制する仕組み)に変わったことにある。この試算では、2047年度には、厚生年金では約2割、国民年金になると約3割減になるという。物価も賃金も現在と同じと仮定すれば、国民年金の満額は6万5000円から4万7000円に減る計算になる。

 6月19日の党首討論で、日本共産党の志位和夫委員長がマクロ経済スライドの廃止を迫った際、安倍晋三首相は「廃止には7兆円の財源が必要」と答弁した。事実上、不可能だという意味合いだ。これに対し、日本共産党は「高額所得者の保険料増額」「年金積立金の計画的取り崩し」「賃上げ・正規雇用拡大」という3つの改革で7兆円を捻出する案を掲げているが、実現はなかなか難しいところだろう。

 一方、財政検証では、所得代替率を上げるために、厚生年金の加入者拡大、保険料の支払い期間の延長、受給開始時期の選択肢の拡大などを提案して、オプション試算も公表している。たとえば、厚生年金の適用を拡大して最大1050万人増えた場合には2047年の所得代替率は50.8%から55.7%に、国民年金の保険料支払い期間を60歳から65歳までに延長した場合には26.2%から30%に上がるという。

課題は、下流老人の年金対策

 そもそも、単身世帯が増えてきている今、なぜ会社員の夫と専業主婦の妻というパターンのみをモデルケースにするのだろうか。現時点においても、国民年金のみを受給する夫婦の年金額は、前述のモデルケースの約半分になる。しかも、遺族年金のない国民年金では、どちらかが亡くなると、さらに半額になり、1人では生活は立ち行かなくなる。

 前述のマクロ経済スライドの廃止に必要な7兆円の大部分が、実は基礎年金=国民年金だ。財政検証で示したケースⅢでは、2047年度には所得代替率が厚生年金の報酬比例部分では3%しか下がらないのに、基礎年金部分は約3割も下がる。よって、将来的には厚生年金受給者と国民年金受給者の格差がさらに広がることになる。

 これでは政府は単に、年金制度という枠組みを安定させるために力を注いでいるだけで、国民の老後の生活を支えるという本来の目的を果たそうとしていないのではないか。

 全日本年金者組合では、2015年から国を相手に「年金引き下げ違憲訴訟」を全国規模で展開しており、今もなお続いている。マクロ経済スライドによる年金給付は、憲法で保障している「生存権」や「財産権の保障」などに抵触するという主張だ。国民年金などで爪に火を灯すような生活を強いられている年金生活者にとって、年金額をさらに減らされることは死活問題になるからだ。

もっと声を上げよう

 6月3日、「年金だけでは老後資金が2000万円不足する」という金融庁審議会による報告書が公表された。月5.5万円不足するため、30年で計2000万円になるという試算で、資産運用の重要性を強調している。「こういう数字を出したのは初めてです。投資に振り向けさせるのが狙いなんですよ」と、全日本年金者組合東京都本部の田端二三男・副執行委員長は語る。

 国は、老後資金づくりの一助としてiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)を奨励する。しかし、同本部の芝宮忠美・副執行委員長は、「『iDeCoで投資したのに、元本割れしてしまった』という相談が相次いでいる。ここ最近で、3倍ほどに増えた印象です」と語る。筆者はNISA枠で購入した3社の株を持っているが、どれもマイナスの状態に陥っている。

 これから、間違いなく独り身の下流老人が増えていくだろう。もちろん若いうちから少しずつ投資をして資産を増やす人もいるだろうが、生活をしていくのに手いっぱいという人が投資に手を出すとは思えない。困窮とは無縁に生きてきた二世・三世が多い現内閣の面々を見ていると、年金がどれほど庶民の命綱になるかということが実感として湧かないのではないかという気にもなる。

 2000万円問題は大きな反発を呼び、35歳の会社員男性のツイートがきっかけで、「暮らせるだけの年金を払え」「2000万円貯めて、と丸投げするな」などと憤った若者たち2000人のデモにまで発展した。「こうして若い世代が声を上げたのは、いままでにはなかったことです」と言う田端さんの声にも力が入る。

 芝宮さんは1990年代、仕事でスウェーデンに赴任していた。

「当時のスウェーデンは日本と同じような基礎年金と所得比例年金である付加年金の2 階建ての制度体系だったのですが、1990年から10年かけて、所得比例年金のみの1 階建て、低所得・無所得者には最低保障額を保障するなどの大改革を敢行して、国民の不満の解消に成功したのです」

 超高齢社会の到来で年金給付金額が膨らんでいくことを考えれば、長く働くということは致し方ないことかもしれない。自助努力も必要になるだろう。しかし、年金制度の抜本的な改革がなければ、焼け石に水になりかねないのではないだろうか。

(文=林美保子/フリーライター)

林美保子/ノンフィクションライター

林美保子/ノンフィクションライター

1955年北海道出身、青山学院大学法学部卒。会社員、編集プロダクション勤務等を経て、執筆活動を開始。主に高齢者・貧困・DVなど社会問題をテーマに取り組む。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)、『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』(さくら舎)。

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