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住宅ジャーナリスト・山本久美子「今知りたい、住まいの話」

前入居者が孤独死でも告知は3割?事故物件の知られざる実態…不動産会社により対応バラバラ

文=山本久美子/住宅ジャーナリスト
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「Getty Images」より

事故物件」や「訳あり物件」といわれるものがある。

 事件や事故で居住者が死亡した住宅には、あまり住みたくないという人が多いだろう。そのため、事故物件は賃料などが安く設定されることになる。最近では、賃料の安さを魅力に感じる人もいるため、不動産情報サイトでキーワード検索ができたり、事故物件だけの情報サイトなども登場している。

 どんな物件がいわゆる事故物件に該当するのだろう? そもそも契約前に、事故物件かどうかを知らされるものなのだろうか?

キーワードは「心理的瑕疵(かし)」に該当するかどうか

 事故物件かどうかは、「心理的瑕疵」に該当するかによる。瑕疵とは、隠れた欠陥のことなので、心理的瑕疵とは「心理的に嫌悪するような隠れた傷がある」ということになるだろう。なぜ「心理的瑕疵」を持ち出したかというと、宅地建物取引業法(以下、宅建業法)に起因する。

 宅建業法では、賃貸借契約を締結するまでの間に、仲介や代理を行う不動産会社は、入居予定者に対して賃借物件や契約条件に関する重要事項の説明をしなければならないと定めている。したがって不動産会社は、どんな物件をどういった取引条件で借りるかについての重要な項目を説明する義務がある。中古住宅などの売買の場合も同じだ。

 この重要な項目のなかに「心理的瑕疵」も含まれるとされている。心理的瑕疵のある物件については、契約前に告知義務があるというわけだ。大家や不動産会社がそれを知っているにもかかわらず告知しなかった場合、宅建業法に違反することになる。

 では、心理的瑕疵に該当するのは、どういった物件だろう?

 実は、明確な基準はない。一般的には、自殺や他殺、孤独死などで人が亡くなったり、暴力団事務所などの嫌悪・迷惑施設が近隣にあったりといったことが挙げられる。とはいえ、それにも程度がある。どの程度なら心理的瑕疵になるかは、人によって判断が異なる場合もある。

調査結果に見る、事故物件の条件とは?

 事故物件に関する2つの調査結果を紹介しよう。

 まず、株式会社GoodServiceが、不動産会社従事者を対象に事故物件に関するアンケート調査を行った結果を見よう。

「事故物件に当てはまるもの(複数回答)」を聞いたところ、「自殺や火災などの事故が起きた」(62.4%)、「殺人事件が起きた」(48.1%)、「孤独死」(33.4%)などが上位に挙がった。ただし逆に言えば、孤独死があった場合でも3社のうち2社は告知しない、とも読み取れる。

 次に、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(以下、日管協)総合研究所が実施した「第22回賃貸住宅市場景況感調査『日管協短観』(2019年度上期)」の結果を見よう。今回の調査では、新たに「心理的瑕疵物件における重要事項説明」に関する質問項目を追加した。

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出典/日管協総合研究所「日管協短観」(2019年度上期)

 事故物件の対象となる亡くなり方としては、「室内で自殺」(74.6%)、「室内で病死/損傷や異臭の発生あり」(69.4%)、「室内で他殺」(64.9%)、「室内で自殺/損傷や異臭の発生あり」(64.2%)、「室内で他殺/損傷や異臭の発生あり」(61.2%)、「室内で病死及び事故死」(59.7%)となり、こうした亡くなり方の場合に多くの不動産会社が事故物件として告知をしていることがわかる。

 また調査結果から、告知するのは該当住戸への入居予定者だけ(65.7%)でなく、該当住戸の周辺の住戸などに告知する場合があることもわかった。

事故物件ならば必ず契約前に知らされるのか?

 さて、心理的瑕疵のある=事故物件の場合、宅建業法上で告知をする義務があるといっても、事故があってからいつまで告知し続けなればならないのだろう?

 実は、期間についても特に定めがないので、ケースバイケースということになる。先ほどの日管協の調査を見ると、「入居者1回入れ替え」が最多の35.1%で、「入居者2回入れ替え」(14.9%)を合わせると半数に達する。事故事例があった後に、入居者が1回または2回入れ替わると、事故については告知されない可能性が高いということだ。

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出典/日管協総合研究所「日管協短観」(2019年度上期)

 また、告知義務があるのは、大家や不動産会社がそのことを知っていた場合だ。賃貸オーナーが入れ替わったり、担当する不動産会社が入れ替わったりして、事故事例について知らなかったという場合はそもそも告知することができない。

 また、不動産会社が所有する賃貸物件を大家として貸す場合には、そもそも宅建業法の適用対象外となる。したがって重要事項を説明する義務もないので、入居予定者のほうから事故物件ではないかを確認する必要もある。

事故物件なら避ける? あえて借りる?

 では、あなたなら事故物件を避けるだろうか?

 先ほどのGoodServiceの調査を見ると、「事故物件と呼ばれる住宅に借り手や買い手はつくか?」と不動産会社従事者に聞いたところ、61.9%が「はい」と回答している。かなり高い割合だ。その理由として「相場より安い」(64.6%)が最多で、「リフォームや清掃が行き届いている」(23.2%)が続いた。

 リフォームや清掃については、事故事例によって部屋に損傷や異臭が発生する場合があり、次の入居者のためにリフォームや特別清掃を行うからだ。賃料が安かったり、リフォームされていたりするなら、事故物件でもかまわないという人がいるということだ。

 霊感が強くてどうしても事故物件を避けたい人もいれば、それより賃料の安さが魅力的に見えるという人もいるだろう。借りようとする人によっても判断が異なるので、事実確認をしたうえで、借りるか借りないかの判断をすればよいだろう。

 事故物件については、このように基準があいまいな点もあって、不動産会社によってあるいは担当者によって判断が分かれる場合も多い。住宅業界としても判断基準が必要だと、国土交通省に要望している。いずれは一定の基準ができるのかもしれない。
(文=山本久美子/住宅ジャーナリスト)

山本久美子/住宅ジャーナリスト

山本久美子/住宅ジャーナリスト

早稲田大学卒業。リクルートにて、「週刊住宅情報」「都心に住む」などの副編集長を歴任。現在は、住宅メディアへの執筆やセミナーなどの講演にて活躍中。「SUUMOジャーナル」「東洋経済オンライン」「Yahoo!ニュース」などのサイトで連載記事を執筆。宅地建物取引士、マンション管理士、ファイナンシャルプランナー等の資格を持つ。
【資格】宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、ファイナンシャル・プランナー(AFP・FP技能士2級)、住宅ローンアドバイザー、SHLCシニアライフプランナー(高齢者の住まい選び専門員)
山本久美子オフィシャルサイト

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