神戸市では神戸大医学部付属病院と並んで市の中核となる2つの大規模病院で、勤務する医師や看護師に新型コロナウイルスの感染者が出て麻痺状態に陥っている。一つは海岸際のHAT 神戸(中央区)にある神戸赤十字病院。ここでは内科の医師4人と看護師、看護助手の計6人の職員が新型コロナウイルスに感染した。院内感染の可能性があるため4月13日から外来診療や救急の受け入れを完全に停止した。4月11日に感染者の対応をしていた看護師の感染が確認されたため、患者と接触した職員にPCR検査(遺伝子検査)を実施し判明した。
もう一つが、人工島ポートアイランド(同)にある神戸市立医療センター中央市民病院(以下、市民病院)だ。神戸新聞などによると、軽症の新型コロナウイルス感染者約30人が入院していた病棟で、4月9日、別の疾患で入院していた70代の女性の感染が確認された。15日には重症病棟で働く看護師の感染が判明。さらに17日には別の一般病棟などでも感染者が出た。市は「新たに看護師、さらに70代の男女の入院患者ら計6人の感染が確認された」と発表した。男性患者は重症だという。看護師ら3人は自宅待機中に発熱などの症状が出ていた。
これで同病院での感染者は4月20日現在、計26人となった。内訳は医師1人、入院患者7人、看護師13人、看護助手ら5人。全18病棟のうち8棟で感染者が確認される明らかな院内感染で、医師や看護師らの自宅待機者は約200人となってしまった。
市民病院は兵庫県内で新型コロナの重症者を受け入れる中心的病院の一つ。コロナの重症者だけは受け入れを続けるが、救急受け入れも外来診療も停止、手術も一部を除きすべて停止した。脳卒中や心疾患などに対応する救急は当面、市内の別病院などが引き受ける異常事態になっている。医療崩壊が懸念される事態に井戸敏三知事は「中心的な病院で大きな患者の固まりが発生したのは残念。(他の病院も)収容しきれなくなれば医療が持続できなくなる危険がある」と危機感を表した。
同病院の木原康樹院長は「市民の最後のとりでで院内感染が発生してしまった。深くおわびします。国際的なガイドラインに従い、衣服の交換や感染防御をしてきたのだが」などと話した。ウイルスが外に漏れないよう気圧を低く保てる部屋に新型コロナの軽症者約30人を受け入れ、看護師らは出入りのたびに防護服を脱着していた。看護師3人のうち2人は軽症のウイルス感染者を受け入れている病棟で勤務し、患者2人は感染者と同じ病棟で入院していたという。木原院長は「(患者に接した職員が)防護服を脱衣した後のプロセスに問題があった可能性がある」と話し、現在、病床から出て防護服を脱衣した時の手順などを調べている。
税金を使い、市民にメリットのない病院移転
市民病院は「ポートピア博」が開かれた1981年、市が反対論を押し切ってそれまで生田区にあった病院施設を人工島のポートアイランドに移転させた。しかし、阪神・淡路大震災(1995年1月)で連絡橋の三宮側の乗り入れ部分が大破して車が通行できなくなったことや、橋の水道管落下による断水で麻痺状態に陥った。このため、救えるはずの多くの命も救えなかったのだ。震災の被害は人工島内よりも神戸市の旧市街などのほうがはるかに甚大だった。
それに飽き足らず、2011年には人工島の中でモノレール駅2駅分、病院施設すべてを南へ移転している。市民にとってなんのメリットもない移転の背景には、ポートアイランドの「神戸医療産業都市」をスーパー特区として、従来の規制から免れる場に変え、保険適用外の混合診療の場にして海外に提供しようとしている神戸市が、市民病院などを「医療ツーリズム」に使いたい思惑があった。アラブの富豪らに保険外の自由診療をさせて儲けるのだ。神戸空港はそうした海外客のチャーター便にも使う目論見だった。
中核病院を南へ移せば空港には近くなるが、大半の市民から遠くなる。ツーリズムに使えば市民のためのベッド数も減る。そんなことお構いなしの構想には三井物産などの商社や海外企業が絡むが、なかでも「薬漬け国民」の日本人を狙ったアメリカの製薬会社がバックにいた。
結局、神戸市が巨額の税金を使って恩恵を与えたいのは神戸市民ではなく、こうした関係業界や土建業なのだ。震災時同様、機能麻痺に陥りかけている市民病院はそれを象徴している。