木村花さん急死…ごく少数が執拗に粘着する炎上の実態、いつでも逃げられる匿名の加害者
恋愛リアリティー番組『テラスハウス』(ネットフリックス)に出演していたプロレスラーの木村花さんが、5月23日に亡くなった。木村さんの死因は公表されていないが、番組内での木村さんの言動が「炎上」につながり、木村さんのSNSには非難や誹謗中傷の書き込みが続き、それらの攻撃は木村さんの母親にまで及んでいた。
木村さんは精神的に追い詰められていたと思われ、最後のインスタグラムの書き込みは「愛してる、楽しく長生きしてね。ごめんね。」というメッセージが添えられていた。炎上の実態と問題点、そして、それにどのような対策が取られているかについて、あらためて考えたい。
「炎上させるのはごく少数」の実態
以前、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)の著者の山口真一氏に炎上について話をうかがった。山口氏は2014年、16年に炎上の調査をしており、炎上加担者は「男性」「年収が高い」「主任、係長クラス」が多いという共通した傾向が出ていたという。「金も地位もあるのに不機嫌な男性がネットで偉そうにしている」という、確かにそういうおじさんネットで見たことある、という頭が痛くなるような状況だ。なお、この特徴は店舗などへのクレーマーの特徴とも一致するらしい。
一方で、山口氏が炎上関連の複数の弁護士に聞いた話によると、炎上の被害者から訴えられ、書類送検までされるケースでの加害者は、ほぼ無職の若者だという。失うものが少ない、いわゆる「無敵の人」だ。
何より、山口氏によれば、炎上参加者はネット利用者のごくごく一握りだ。14年に2万人を対象とした調査では、「過去1年間で炎上について書き込んだことのある人」は全体の0.5%(200人に1人)しかおらず、視聴者のコメントが画面上に流れる「ニコニコ動画」で大荒れしているように見える動画も、そのうちの「数人のコメント」を消せば炎上は消えるという。
炎上参加者はごく少数しかいない。ただ、そのごく少数は、時として書類送検されるほど執拗に書き込みを繰り返す。彼ら彼女らは「暇とガッツ」が並外れているのだ。匿名下のネット環境なら、1人の人が時にIDなどを変え、あたかも何人もいるように見せかけることだってできる。
人数も演出できるが、人格も演出できる。検察庁法改正反対を求めたSNSデモをまとめた峯岸あゆみ氏の記事では、検察庁法改正に反対意見を表明した芸能人に対し「ファンだったのにがっかりした」というリプライをした人のそれまでの書き込みを見たところ、その芸能人に対し何かコメントしていた形跡がなく、別にファンでなかったのでは、と示唆されている。
ネット社会において、顔や名前(ハンドルネームでも)などを公表していて特定できるユーザーと、匿名で嘘もつけていつでも逃亡できる非特定の「ネット民」の傘の下に隠れられる匿名ユーザーなら、後者のほうが圧倒的に強い。ネット世界は平等ではなく、「より持たない」人のほうが強い。
一般人も抱える炎上の恐ろしさ
「有名人だから炎上する」とも、今は限らない。ツイッターで「誹謗中傷 損害賠償 裁判」で検索すると、実際に裁判を起こした一般の人たちの体験談がいくつも読める。
今、SNSをまったくしていない人のほうが少ないだろうし、誰でも見られる場所に発信をしている以上、一般人とて「見られる」対象になり得る。匿名掲示板サイト「5ちゃんねる」には「ネットwatch(通称ヲチ)」という板があるが、そこのコンセプトは「言動に迂闊なところのある素人を観察する」というものだ。
各スレッドのタイトルを見ると「痛い育児ブログをヲチ」「【晒し】フリマアプリ」「着物界隈SNSの痛い人ヲチ」「エレガンス系ブログ・インスタヲチ」などで、このタイトルだけで雰囲気は察せられると思う。
こちらも構造は木村さんのケースと同じで、「ハンドルネームや顔写真などを公開している、特定できる1人のユーザー」対「(大勢のように見えるが、おそらく実際は少人数の)いつでも逃げられる匿名ユーザー」という構図だ。
なお、ネットwatch板ではウォッチ対象を直接誹謗中傷したりなど接触を持つのはルール違反としているが、罰則など当然なく、匿名環境なので、稀にだが本人に「突撃」をする人も出てきたりする。こういう人が1人いるだけで、対象者は自分がネットwatchスレで観察されているという、知りたくもない事実を知ってしまうのだ。
こういったヲチスレッドを見ると「アンチとて、いないよりマシ」という考えはネットが普及する前の常識であり、今の時代にはそぐわないとも思う。SNSやブログや動画の発信で「食えるほど儲けられる」人など、ごく一握りだ。金にもならず、誹謗中傷にさらされるリスクのほうがよっぽど高い。
しかし、SNSなどネットで発信をすることで承認欲求や所属欲求、自己顕示欲が満たされて気持ちいい、という快楽には強烈なものがある。さびしさを埋めるツールとして、ネットは日進月歩の進化を遂げている。これらを一度味わった人が「じゃあ、やめます」とするのも難しいことは、実体験としてよくわかる。ましてや、すでにフォロワーが大勢いる人が、少人数の中傷に対し、それまで積み上げてきたフォロワーという財産すべてを手放すのはとても難しいだろう。
次回は、ネットの誹謗中傷への立ち向かい方や、手軽にできてしまう誹謗中傷の罪深さについて、検証したい。
(文=石徹白未亜/ライター)
【参考記事】
『ネット炎上を起こすのは「7万人に1人」…東急電鉄とサントリーの広告“炎上”はなぜ起きた?』
『節ネット、はじめました。 「黒ネット」「白ネット」をやっつけて、時間とお金を取り戻す』 時間がない! お金がない! 余裕もない!――すべての元凶はネットかもしれません。
『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい。 会話術を磨く前に知っておきたい、ビジネスマンのスーツ術』 「使えそうにないな」という烙印をおされるのも、「なんだかできそうな奴だ」と好印象を与えられるのも、すべてはスーツ次第!