加齢とともに、細かい字が読みづらくなった、距離が違うものにピントを合わせるのに時間がかかるようになったなど、「老眼」の症状に悩まされる人は多い。早い人では40代から進行が始まるともいわれている老眼だが、最近はスマートフォンやパソコンの普及により、若い世代にも老眼と似た症状が出てしまうケースが増えているという。二本松眼科病院の平松類氏に、「スマホ老眼」のメカニズムや対処法を聞いた。
目の中で何が起きているのか?
50代以降になると、ほとんどの人が発症する老眼。加齢が原因のため、若い世代には関係がないと思われがちだが、最近は加齢が原因ではない老眼も増えてきているという。
「『スマホ老眼』という、スマートフォンの見過ぎにより老眼と同様の症状が起きる現代病が増えています。目のピントは『毛様体筋』という筋肉を使って水晶体の厚みを変えることで調整するのですが、この毛様体筋が衰えることでピント調節能力が落ちてしまう状態が老眼です」(平松氏)
加齢による老眼もスマホ老眼も、この毛様体筋の衰えが関係しているという。
「加齢による老眼は筋力低下が原因です。一方、スマホ老眼は毛様体筋が痙攣している状態なので、数日スマホの使用を控えれば治る場合がほとんど。スマホ老眼により物が見えづらくなる症状は、改善も予防も可能なのです」(同)
集中してスマホの画面を見続けることで、毛様体筋は常に力が入った状態となり、その状態が長期化することで痙攣を起こす。そして、一時的に毛様体筋の機能が低下するというわけだ。
新型コロナウイルスの流行により、家で過ごす時間が増えた人は多いだろう。おうち時間のお供に、スマホでゲームや動画鑑賞を楽しんでいる人は要注意だ。
「紙媒体やPC画面を見続けても目は疲れますが、紙より光っている液晶モニターのほうが見ていて疲れやすいですし、PCよりスマホのほうが目と画面の距離が近いので、スマホの使いすぎが目に与えるダメージは大きいです。人は1分間に、何もしていないときは30回、紙媒体を見ているときは15回程度まばたきをするといわれていますが、スマホを見ているときは5~6回と激減する。スマホを見続けることは、思っている以上に目を酷使するわけです」(同)
スマホ老眼、ブルーライトとの関係は?
至近距離で物を見ることがスマホ老眼を引き起こすわけだが、モニターから発せられているという「ブルーライト」は老眼の症状に影響しないのだろうか。
「スマホ老眼の原因でいうと、ブルーライトは関係がありません。しかし、ブルーライトそのものはトラブルのきっかけになり得ます。たとえば、就寝前までブルーライトを浴びることで睡眠の質の低下、その結果として、生活リズムの乱れやドライアイを招いてしまいます。また、黄斑変性という病気はブルーライトの浴びすぎで発症率が高まるといわれているので、避けたほうがいいのは確かでしょう」(同)
黄斑変性は失明原因の第4位に挙げられる、非常に危険度の高い眼病だ。スマホ老眼が黄斑変性のような重大な疾患に発展する可能性はほぼないが、脳への影響は危険視されているという。
「目からの情報が入ってきづらいということは、脳で情報の処理をしなくなるということ。脳が情報処理の機会を失い続ければ、処理能力が衰え、思考力や判断力が低下していきます。すると、仕事のパフォーマンスが低下し、生産性を大幅に下げてしまうのです」(同)
さらに、情報判断の機会が減ることで脳の認知機能も低下してしまう。
「情報処理能力が低下すると、認知不全症を引き起こしかねません。目と脳は密接に関係しており、目を酷使することは、脳を酷使することと同義なのです」(同)
疲労が蓄積することで脳がうまく休めなくなり、寝ても疲れが取れにくい状態になってしまうという。その弊害として、頭痛や肩こりといったトラブルを招いてしまうのだ。
スマホ老眼の改善法&有効な食事とは
スマホ老眼は決して甘く見てはいけない眼病だが、原因が一時的な筋肉の痙攣であるため、簡単な方法で症状を緩和できるという。
「目を温める方法です。毛様体筋が痙攣しているというのは、筋肉に乳酸などの疲労物質が溜まっているということ。ですから、温めて血流を良くし、疲労物質を取り除くことが有効的な治療法といえます」(同)
ホットアイマスクやホットタオルなどを目にのせるだけで、眼精疲労を軽減し、毛様体筋の機能が回復する効果があるそうだ。アイテムを用いずに同様の効果を得る、オフィス向きの方法もあるという。
「手のひら同士をこすり合わせ、温かくなった手でまぶたを覆うだけでも、症状が緩和されます。また、温めるよりも簡単な対処法は、遠くを見ること。目を使いすぎたと感じたら、2m以上先にある物を10~15秒見るだけで、疲労軽減の効果がありますよ」(同)
予防の観点からいえば、スマホの画面を目から30cm以上離して使用する、意識的にまばたきの回数を増やすといった方法が効果的といわれている。さらに、スマホ老眼は食事でもケアができる。
「ほうれん草、ケール、ゴーヤ、ブロッコリーなど、緑色が濃い野菜は眼精疲労に有効な『ルテイン』を多く含んでいます。昼食にこれらの野菜が入った料理を食べたり、グリーンスムージーを飲んだりすることもおすすめですよ」(同)
ルテインは目のみに集中して作用するため、目に良い食べ物の代表とされるブルーベリーよりも、眼精疲労に特化して効果を発揮するという。
目は疲弊していても見た目にはわかりづらく、無理がきいてしまう部位だ。そのため、誰もが無意識に酷使しているという。自分が思っている以上に、目や脳は疲れているのだ。日頃のケアを心がけるだけで、知らぬ間に頭痛や肩こりが改善され、さらには仕事の成果向上にもつながるかもしれない。
(文=ますだポム子/清談社)