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藤和彦「日本と世界の先を読む」

リーマンショック超える世界的金融危機の兆候…コロナ禍で米国の都市部不動産市場に異変

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
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「Getty Images」より

 米商務省が7月30日に発表した2020年第2四半期のGDP速報値は、年率換算で前期比32.9%減となり、統計を開始した1947年以来最も大きな落ち込みとなった。その理由は4月から経済活動が停止したからである。ステイホームを求められたことから、飲食店や工場をはじめ多くの事業が閉鎖を余儀なくされた。その後、多くの州で経済活動の再開が試みられたが、早期に再開に踏み切った州の多くで感染が再び拡大に転じ、経済を再度停止せざるを得なくなっている。

 米国経済で苦境が続くなか、人々の生活スタイルにも変化が生じている。ピュー・リサーチ・センターが7月9日に公表した調査結果(米国人の約1万人を対象)によれば、回答者の3%が「新型コロナウイルスパンデミックを受け、一時的又は恒久的に引っ越しをしている」ことがわかった。約3人に1人が「自身の感染リスクを減らすため、都会の生活からより良い環境へ移る」ことを検討している。18~29歳の世代でこの傾向が最も顕著であり、回答者の9%がすでに引っ越しを済ませた。実際に引っ越しをしているのは、裕福な人々であることもわかっている。

 米国で裕福な人々が生活しているのはニューヨークであるが、ニューヨーカーの約40%がすでに域外に「脱出」したようだ(7月28日付ニューヨークタイムズ)。これにより同地区の賃貸住宅市場は大打撃を受けている(7月9日付ブルームバーグ)。6月のマンハッタン地区のアパート空室率は2006年8月以降初めて3%を突破し、物件在庫が急増したことから、家賃は6.6%減と大幅に下落した。

 大都市で生活することのデメリットは、新型コロナウイルスの感染リスクだけではない。新型コロナウイルスの第2波が襲来した7月下旬から全米各地で暴動が再燃している。ギャラップが7月28日に発表した調査結果によれば、国民の約3分の2が、ミネソタ州で黒人男性が白人警官に首を圧迫されて死亡した事件をきっかけに全米に広がった抗議デモを支持しているが、トランプ政権は強硬姿勢を強めている。バー司法長官は7月28日、下院司法委員会の公聴会で、「暴徒と無政府主義者が平和的なデモを乗っ取り、罪のない人々に対して無分別な騒ぎと破壊行為を繰り返している」と主張した。

 各地で実施されているデモを鎮圧するため、連邦治安要員を投入するなど取り締まりを強化しており、これが人々の怒りに火をつけている。トランプ政権の姿勢は、対立を鎮めるのではなく、むしろ煽ることで自らの支持者から喝采を得ようとしている印象が強いが、これでは社会は行き詰まる一方である。

米国、都市部の住宅価格が下落か

 米国では、身の安全に対する懸念から、銃の売り上げが急増している(7月27日付BusinessInsider)。警察の予算削減を求める声などを背景に、人々は身の安全を心配しているからである。銃器の販売業者の推計によれば、販売の40%は初めて銃を購入した客が占めている。「米国の主要都市は戦場と化し、11月までに終わることはないだろう」という悲観的な見方が出ている(7月27日付ZeroHedge)。

 このような状況が続けば、ますます「都市離れ」が進んでしまうだろう。米抵当銀行協会の住宅ローン申請件数は7月に入り減少に転じるなど、米国の住宅市場は再び逆風にさらされている。

 ノーベル賞経済学者であるロバート・シラー氏は、7月13日に行われたCNBCのインタビューで「今後、都市部の住宅価格が下落する」と予測した。その理由は「レストランやミュージアム、劇場など都市部が提供してくれるベネフィットは、パンデミック下で、得ることが困難になっている」からだが、2007~08年の不動産バブル崩壊を予測したことで知られるシラー氏のコメントは気になるところである。

 富裕層向けの住宅用不動産市場以上に心配なのは、商業用不動産市場である。米国の商業用不動産ローン担保証券市場は、今年3月下旬から「破綻の瀬戸際にある」との認識が広がっていた(3月23日付ブルームバーグ)。ニューヨーク市マンハッタン地区ではパンデミック以前から不動産家賃の高騰に耐え切れずに老舗のデパートが次々と閉店していたが、足元の状況はさらに深刻となっている。

「8~9月はリスク資産の危険ゾーン」

 不動産バブル崩壊の危機は米国にとどまらない。今年上半期の世界の不動産投資は、新型コロナウイルスのパンデミックの悪影響から前年比33%減となった。長年不動産バブルが続いてきた中国では、5月下旬から住宅ローンの返済不能件数が急増しており、いよいよXデーが近づいているとの観測が高まっている。

 ドイツでは、好景気と低金利に支えられて住宅価格は過去10年で1.5倍となったが、「右肩上がりを信じ、ますます買い手が増える」という不動産神話が崩れようとしている(5月25日付日本経済新聞)。日本でも不動産市場を心配する声が出始めている。

 パンデミック以前から過剰債務を抱える「ゾンビ企業」が世界的に問題になっていたが、その代表例は不動産開発企業である。中央銀行のパンデミック支援策によりかろうじて延命しているものの、今や資金繰りはパンク寸前である(7月30日付ニューズウィーク)。

 モルガン・スタンレーは「8~9月はリスク資産の危険ゾーンとなる」と警告を発しているが、パンデミックにより変調をきたした世界の不動産市場でバブルが崩壊すれば、リーマンショックをはるかに超える規模の金融危機が生じてしまうのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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