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藤野光太郎「平成検証」新型コロナパンデミック 第4回

菅義偉政権でも安倍政治の検証が不可欠…新型コロナ感染症対策でも次々露呈する粉飾と隠蔽

文=藤野光太郎/ジャーナリスト
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9月14日午後、自民党総裁選で新総裁に選出された菅義偉官房長官(当時/写真左)(写真:Getty Images)

7年8カ月の疲労と苦悩は誰のためのものだったのか?安倍内閣と政権シンパが誇示する“功績”を総括する

 本稿執筆時の9月14日、党員を外す形で行われた自民党総裁選で、同党両院議員総会が菅義偉氏を選出した。同16日の首相指名選挙を経て新首相が誕生する。菅新首相は来秋まで残る安倍晋三首相の任期を務める。

 安倍首相が持病の「潰瘍性大腸炎」を理由に突如として辞意を表明したのは、新型コロナ感染症の蔓延とそれによる経済危機で世界中が大混乱する最中の8月28日。首相動静の詳細をたどれば、決して苦痛の日々が続いていたわけではないことがわかるが、少なくとも辞任会見では疲労困憊した表情が読み取れた。

 人は仕事をまっとうすれば疲れるものだ。ただし、政治家に対する評価基準は「何を目的として、誰のためにどういう仕事をしたか」である。「チーム安倍」の7年8カ月を振り返ってみて、その疲労と苦悩が本当に一般庶民のためだったのかといえば、それは限りなく疑わしい。

 数字の粉飾・偽装で狡猾を極めた「労働法制」各種。例えば、辞任会見で成果を誇示した「400万人超の雇用実現」の実態が非正規労働者の濫造だったことは、国会の質疑応答でも露呈している。

 また、米軍の本格的な自衛隊組み込みに応じつつ、現行法で軍人とは認められない自衛官を改憲前に外戦地に送り出す準備も進め、並行して人々を抑圧する特定秘密保護法や共謀罪を強行採決するなど、無謀で危険極まりない「安保法制」各種の制定。なし崩し的な参戦への危惧から世論は猛反発した。米軍払い下げの巨額軍需を安請け合いしてきた事実も記憶に新しい。

 加えて、長い年月に農家が守ってきた《種》をやすやすと外資に開放するなどの法制定を連発。日本農業を多国籍巨大農業資本の傘下へと押し込んで《食》と《健康》の安全を脅かす法的環境を整える無責任かつ無謀な「農業法制」各種。それらの法整備は現在進行形で動いている。

 さらには、民間賭博を外資含みで法的に認め、あろうことか国を挙げて人々にギャンブルを奨励するなど正気を失ったとしか思えない「IRカジノ法」の強行採決。空気と同じく生命維持に必須の《水》を、「コンセッション方式」で事実上“民営化”し、競争市場に隔離する「改正水道法」等々――。世論を無視した法整備には枚挙に暇がない。

 したがって、憲政史上最長の安倍政権が、結果的に一般庶民ではなく国内外の巨大外資を潤わせるための法的環境づくりと、反発世論を抑え込むための法整備に邁進した政権だったことは消しがたい事実である。重要な指標となる公表数値を巧妙に粉飾/偽装し、不都合な事実も改竄したり黒塗りで隠蔽してきた。公表文書の黒塗りの多さを「のり弁」と揶揄されるような恥ずべき行政行為は、もはや民主主義国の振る舞いとはいえない。庶民が評価すべき“功績”などほとんど見当たらないのだ。

 おまけに、かつて地盤である山口県下関市の安倍事務所に投げ込まれた「火炎瓶事件」に、実は公職選挙法等に抵触する行為の裏事情があったことは、法廷の文書を見れば一目瞭然だ。行政組織内部から自殺者まで出した「森友学園問題」。得体の知れない計画をはらみつつ無理筋で認可されたと騒がれた「加計学園問題」。「桜を見る会」「検察庁への人事介入」、安倍批判を行っていた議員潰し――。表面化したこれら数多のスキャンダルと立ち消えとなった疑惑の数々を抱えつつ、そのどれもが白黒判定を免れて法的処分を受けぬまま、歴史に残る首相在任最長記録を打ち立てての「辞任」である。

 この顛末に納得する国民がどれほどいるだろうか。ありもしない功績を称賛するほうがどうかしている。度重なる嘘と詭弁の“実績”をあえて捨象し、仮に「持病の悪化」という辞任理由を信じたとしても、そうであればできるだけ早く快復していただき、あらためて国会の証人喚問に応じてもらいたいと願うのが、埋もれつつある世論の声であり、それを強く要請し追及するのがメディアの責務である。

 なぜなら、このまますべてを立ち消えとしてしまえば、「莫大な国庫金損失」「危ぶまれる法の制定」「スキャンダル免罪の前例」が近い将来、この国の存立と民権に深刻な影響を及ぼすことにもなりかねないからだ。

次々に露呈する新型コロナ感染症対策での粉飾と隠蔽、秘密主義に走る行政の施策はパンデミックを抑制できない

 いま、安倍政権下でなされた新型コロナ感染症の国内状況に関する行政機関の発表に重大な疑義が提起されている。それにもかかわらず、これさえ問題視されぬまま世の中は新首相誕生の騒ぎで賑わい始めている。

 周知のように、新型コロナウイルス感染症による世界の死者数は依然として一直線で増加し続けている。感染拡大からわずか半年後の本日9月14日午前6時現在(以下同)で、死者はすでに92万8000人超、月末には100万人に達しそうな勢いだ。

 直接的/間接的な原因を含む超過死亡概念でこれまで厚労省が推計・算出・公表してきたインフルエンザの年間死者数は、「世界で約25~50万人、日本で約1万人」。一方、新型コロナウイルス感染症による世界の死者は、まだ半年を経過したばかりなのに、すでにインフルエンザの2〜4倍にまで増えている。

 時々刻々と拡大する感染状況を可視化した統計ダッシュボードで、死者の絶対数が特に多い10カ国を確認すると、上から順に「米国・ブラジル・インド・メキシコ・英国・イタリア・フランス・ペルー・スペイン・イラン」と続く。これに対して日本は45番目だ。

 ところが、国立感染症研究所を含む研究班は8月末、日本における新型コロナウイルス感染症の超過死亡者数が、今年1〜5月までの政府公表値を大きく上回っていた可能性があることを明らかにした。

 今回、同研究班が採用した計算方法は、3〜4~5月の本連載でも言及した超過死亡概念に基づく「米国疾病予防管理センター(CDC)」と「欧州死亡率モニター(EuroMOMO)」の2種。報告書によれば、超過人数はCDC方式の計算で「最小208人~最大4322人」、EuroMOMO方式では「313人~6547人」が算出された(いずれも補正済みの数値)。当初から新型コロナを超過死亡で把握・公表せずに日本政府が国内状況を報告・発表してきたのであれば、数値に大差が生じるのは当然だろう。

 超過死亡による死因には、半強制的「自粛」で生活習慣が激変した結果の持病悪化や、病院の不受診など、他の原因で間接的に死亡したケースが含まれる。日本政府が発表した同期間中の累積公表値を前述のダッシュボードで確認すると、5月末の累計で死者891人。これに前述EuroMOMOの計算方法を用いた超過数の最小値を加えれば、最小でもこれまで公表されてきた数値の約1.4倍の1204人。最大で約8.3倍の7438人となる。

 仮に、これに準じて9月10日現在の公表死者数1393人を欧米と同じ基準で試算すれば、日本の死者数は最大1万1562人。その場合、多い順に上から45番目だった順位は一気に15番目となり、100万人当たりの死者数も138番目(11人)から62番目(91人)に跳ね上がる。

 もとより、人口比でいえば、アジア圏内で日本はかなり死亡率が高い。陽性と判断され感染者としてカウントされている人数自体も日毎に増えており、死亡は階段状ではあっても世界と同じく増加し続けている。事実、今年6月初旬から8月初旬にかけて横這いだった死者数が、以降、再び4~5月の増加勾配に近い勢いで増え始めているからである。また、危険な状態で入院治療中の重篤患者数も、9月の第2週時点で多い順に世界32番目(180人)となっている。

 ところが、この8月に入って、陽性者数・死者数ともに全国で群を抜く東京都では、この集計値の問題が露呈した。小池百合子都政が新型コロナウイルスの「重症者」定義を変更し、人工呼吸器などを使用していない集中治療室(ICU)の患者を重症者数から除外していたことが発覚したのである。その数値が全体に算入され、それが「日本の集計値」として世界の各種ダッシュボードに反映されてきた。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックで「補償なき自粛」を強いられてきた国民は、同時に基本的人権である「知る権利」さえ阻害されてきたのである。政府が秘密主義に走れば国民の理解と協力は得られず、パンデミックは抑制できない。「安倍自民党政権を踏襲する」と公言する菅義偉氏が総理大臣に就任するのであれば、国民はマスメディアが垂れ流す無根拠な「安倍政権の功績」を厳しく見据え、その行政運営を踏襲する新政権から騙されないよう注意せねば、同じことは永遠に続けられる。

国内病床数と感染症法における新型コロナの法的分類について、安倍政権はこれまでどのような施策を講じてきたかの検証が必要

 以上、突然の「首相辞任→後任首相選出」で、連載の主題から少し遠回りになった。

 前回までに伝えたように、新型コロナパンデミックの発生当初、政府が全国の自治体と医療機関に「医師法に抵触しない文言での診療回避アドバイス」を事務連絡したために、まだ少なかったはずの「自覚症状がある受診者」もPCR検査への道が開けず、対策に必要な感染実態の把握もなされなかった。また、東京オリンピック開催をなんとか実現したいとの政治的思惑がパンデミック対策に不純な形で紛れ込んだせいで、感染対策は実効性が薄く非効率なものとなってしまった疑義もいまだ解消されていない。

 さらに、新型インフルエンザ改正特措法を根拠とした緊急事態宣言の発令/タイミング/運用/様子見などは、自民党改憲草案に盛り込まれた「緊急事態条項」を意識したものだ。筆者は、新型インフルエンザの改正特措法が閣議決定された3月10日と施行された同14日のSNSで、《安倍内閣が今後、宣言を当然視する空気の醸成に成功すれば、改憲の目玉の1つ「緊急事態条項」の足かせも緩くなる》《新型コロナの不気味さやリスクヘッジとコレは、国民が峻別すべき案件》《「緊急事態宣言は緊急事態条項の露払い」か》と指摘した。

 新型コロナウイルスにはいまだに謎が多い。すでに査読された学術論文で、「新型コロナウイルスが短期間で次々に変異してきたこと」は、連載当初の記事で報告した。今も、未査読の論文にきわめて興味深い新説が次々に出ている。さらに、世界の製薬大手が治験期間を超短縮したワクチンの接種にまつわるリスクの検証も必要だ。その前に、まずは医療危機の状況と展望を透視するための検証も必要となる。

 安倍政権は、国内の病床数と新型コロナウイルス感染症の法的分類について、どのような施策を講じてきたか。新政権は、それをどのように引き継ぐのか。次回、過去の議事録に基づいて検証する。

(文=藤野光太郎/ジャーナリスト)

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