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藤井聡太に勝利…羽生善治、無冠から50代で奇跡の復活、前人未到の通算100期へ王手

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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竜王挑戦を決めて会見する羽生善治九段

 レジェンドが久しぶりに脚光を浴びている。

 9月19日、将棋会館(東京都千代田区)で行われた将棋の竜王戦の挑戦者決定三番勝負。1-1からの第三局で羽生善治九段(49・永世七冠資格)が丸山忠久九段(50)を下し、初戦敗退からの逆転で豊島将之竜王(30)への挑戦を決めた。1996年に七冠を制覇した羽生は一昨年、広瀬章人八段(33)に敗れて最後のタイトルだったこの竜王位を失い、27年ぶりに無冠となった。その後はタイトル奪還には届かず、昨年はもう一歩という好機も逃しタイトル挑戦もなかった。

「五十代なりの将棋を」

 先手の羽生は初手7六歩を指すまで集中力を高めるためか少し時間を取った。とはいえコロナ感染防止対策のため、対局室で初手を見られるのは主催社(読売新聞社)など一部。筆者はAbemaTVを見ながら記者会見場に。勝者のみ会見が予定されていた。

 丸山得意の「一手損角換わり」という戦法を慎重な差し回しで受け止めた羽生の中盤からは優勢は動かなかった。AbemaTVでは夕方頃、「羽生さんの優勢は動かない。丸山九段が早く投げてしまうかもしれない」と解説していた。そんなに簡単ではなかったが午後9時半ごろ、99手目に丸山が投了、羽生が挑戦権を得た。局後、羽生は「難しい勝負だった。一手一手、丁寧に指そうと思っていた」と語り、丸山は「つまらない将棋にしてしまったかもしれない。方向性がおかしかったのか」などと悔いた。

 タイトル挑戦の最年長記録はいずれも故人だが、大山康晴十五世名人の66歳11カ月、升田幸三名人の53歳0カ月、土居市太郎名誉名人の52歳5カ月。とはいえ3人とも敗戦だった。これに次ぐ4位の羽生が豊島から竜王位を奪還すれば、米長邦雄(永世棋聖)のタイトル奪取最年長記録(名人・49歳11か月)を破り、新記録達成になる。ちなみに、タイトル奪取年齢で米長に次ぐ二上達也(棋聖・48歳11か月)は羽生の師である。

 羽生はこの竜王戦七番勝負の途中、9月27日で50歳になる。50歳を超えてのタイトル戦挑戦は大山康晴以来、30年ぶりである。

 30分ほど感想戦を行った後、会見室に現れた羽生はいつもと変わらぬ自然体。気負うことも奇を衒うこともなく淡々と質問に答えた。ほとんどの棋士は50代に入る前に衰えてしまう。そのせいか快挙についての質問は年齢に関するものが多かった。

「誕生日はまだですが」とせっかちな記者たちを笑わせながら、

「50代になってタイトル戦に出られたことは棋士として名誉なことです。満足ではなく励みにして前に進んでいけたら。今後の課題ではありますが、五十代なりの将棋を指していければ」

「タイトル戦にたくさん出ていた時期は1年もたてば忘れました。目の前の課題に集中するだけでした。ほかの棋戦では勝ち進んでいないので、挑戦できたのは幸運でした」

などと語った。筆者は羽生に50代以降の大山名人と自己を比較してのことを尋ねたく挙手していたが、指名されず会見はタイムアップ。50代、60代の大山の強さに比肩できる棋士はいまだに皆無であるが、羽生にはぜひ目指してほしい。

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二冠に戻した豊島将之

藤井聡太に初勝利

 その羽生、22日に将棋会館で行われた王将戦挑戦者決定リーグ初日に、いきなり藤井聡太二冠(王位・棋聖・18)とぶつかった。結果は羽生の勝利。非公式戦含めて藤井に4連敗していた羽生はようやく令和のヒーローに勝ち、「平成のヒーロー」では終わらない健在ぶりを見せた。

 一方、関西の将棋界が誇る豊島。一時期、三冠に輝いていたが昨年に棋聖、今年に入って名人を奪われ、タイトルは竜王一冠に後退していた。しかし永瀬拓矢叡王に挑戦していた叡王戦七番勝負では「持将棋」(双方の玉が敵陣に入って勝負がつかない)が二局も生じる異例の事態でなんと第九局にまでもつれ込んだ。9月21日に行われた第九局で豊島が勝利して4-3で叡王を奪い二冠に戻ったのだ。

「キュン」とか「トヨピー」とか、なんだか可愛らしいあだ名で呼ばれる豊島は「羽生九段は戦型が豊富なので幅広い準備をして七番勝負を迎えたい」(9月20日読売新聞)と話している。この豊島、王将戦リーグでも羽生とぶつかる。

 数々の栄誉を手にしながらもタイトルすべて失ってからは「九段」としか自称しない羽生はしばしば「10代、20代のころと違って、次にタイトル獲得のチャンスがある保証はない」と語っていた。まったく同じ言葉は今夏、初めて名人位を獲得した、羽生よりずっと若い渡辺明(36)が語っている。50歳になる羽生は「これが最後のチャンス」との覚悟で前人未到の通算100期(タイトル数が時代で異なるため単純比較はできないが2位は大山の80期)に臨むはずだ。注目の対局は10月9日から始まる。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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