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女性芸能人の偽アダルト映像で逮捕…ディープフェイクはニュースを捏造し歴史修正主義を広げる

文=編集部
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今回逮捕された男たちは、ネット上で「ディープフェイク職人」などと呼ばれていたという。(画像はイメージです/Getty Imagesより)

 最新テクノロジーを悪用した犯罪に対して警察による全国初の逮捕が行われ、大手芸能プロダクションが声明を出す事態に発展している。

 京都府警は10月2日、女優の顔を女性芸能人にすり替えたアダルトビデオを公開したとして、大分県の無職の男(30)を著作権法違反(公衆送信権の侵害、翻案権侵害)名誉毀損の容疑で逮捕したと発表。また同日、警視庁と千葉県警も、兵庫県のシステムエンジニアの男(47)と熊本県の大学生の男(21)を同様の容疑で逮捕したと発表した。

 前者の男は、昨年12月に女性芸能人の顔にすり替えたアダルトビデオ動画をウェブ上で公開したほか、今年4月にも同様の動画をTwitter上にアップした疑い。後者の大学生は、昨年12月から今年7月にかけて、同じくすり替え動画を自身の運営する有料サイトに掲載し、システムエンジニアの男も今年4月から7月にかけて、同様の動画を海外サイトに掲載した疑いがある。3容疑者達はいずれも、金儲けやネット上の評価向上のために今回の犯罪を行ったと供述しているという。

 カンテレの報道によればこの事件においては、11人の女性芸能人がこうした動画にみずからの画像を使用されたとして被害を申告しており、警察はそれを受けて捜査を開始した模様。逮捕後の2日には、芸能プロダクションでつくる業界団体、日本音楽事業者協会が顧問弁護士名でのコメントを発表。「被害は非加盟社の所属タレントにも及び、芸能界全体の問題として看過できない事態だ」などとした。

 また、ウエンツ瑛士、池田エライザなどが所属する大手芸能プロ、エヴァーグリーン・エンタテイメントも声明を発表。「アーティストに直接・間接的な被害をもたらす可能性がある全てのことに対し、専門の法務法人と共に、可能な全ての法的措置を講じる所存です」などとした。

今のニュースのみならず、過去の歴史的映像さえ改変・捏造され流通する可能性がある

 今回悪用された動画上の悪質なすり替え技術は「ディープフェイク」と呼ばれており、AI技術を用いて、自然な形で映像の改変が行えるというもの。AI技術の最大の特徴である「ディープラーニング」と「フェイク」を足した造語であり、上記事件の兵庫県のシステムエンジニアの男と熊本県の大学生は、ネット上で「ディープフェイク職人」などと呼ばれていたという。

 ディープフェイクのベースになっている技術は、もともとは米・スタンフォード大学が開発したとされ、合成CGが多用される映画業界で発展してきた。しかしソフトウェアが一般化するにつれ、アングラなポルノ分野で盛んに用いられるようになったわけだが、そもそもは上述の“語源”の通り、昨今世界的に問題となっている「フェイクニュース」においても欠くべからざるテクノロジーなのだという。

 あるフリーのシステムエンジニアはこう語る。

「このディープフェイク技術を用いたすり替えポルノ動画は、2017年ごろから米国のインターネット掲示板Redditのユーザーが投稿し、ちょっとした話題を集めていました。しかしこの技術の完成度の高さが知られるようになったのは、米国オンラインメディアBuzzFeedと俳優兼監督のジョーダン・ピールがこの技術を用いて作成し、2018年4月にYouTube上に投稿した動画がきっかけです。

 この動画は、ピールが『President Trump is a complete and total dipshit(トランプ大統領はすべてにおいて完璧に能なしだ)』と発言したものをオバマ前大統領の顔にすり替え、さもオバマが言っているように見えるというもの。途中で画面が二分割され、ピールがディープフェイクを用いて作ったフェイク動画であることがわかるようになっているのですが……。

 この動画によって、有名人や政治家の発言や行動が簡単に捏造されてしまうかもしれないということが、衝撃とともに知らしめられた。昨今世界的に問題となっている“フェイクニュース”が、いとも簡単に作成できることが白日の下に晒されたわけですから。

 この技術が怖いのは、“今”のニュースだけでなく、“過去”のニュースさえ改変可能だということ。NHKのヒットシリーズ『映像の世紀』で知られるようになった通り、人類は20世紀以降、多くの歴史的な場面を映像に収めてきました。そうした映像がネットでいとも簡単に入手可能となった現代社会において、例えば第二次大戦中のチャーチルやトルーマン、東条英機やヒトラーらの発言が改変され、それが“事実”だとして流通すれば……。歴史修正主義者がそうした偽造映像を利用し、政治的に利用すれば、それほど恐ろしいことはないでしょう」

「静止画と違って動画は嘘をつかない」との常識はもはや過去のもの

 ディープフェイクの問題は日本においても徐々に知られつつあるようで、今年3月に放送された人気ドラマ『相棒』(テレビ朝日系)最終回スペシャルでは、このディープフェイクがテーマとして取り上げられた。本作では、真犯人のアリバイを示す動画や、疑惑のかかった女性の性交シーンなどがこの技術によって捏造され、警察の捜査に混乱を招くさまが描かれている。現実にも、こうした問題が起こる可能性はゼロではないだろう。

 もちろん、こうしたすり替えを見抜く技術の開発も進んでいる。ニューヨーク州立大学オールバニ校のチームは、ディープフェイクによって作られた動画では、人のまばたきが極端に少ないという事実を発見。これを検出するAIのアルゴリズムを用いたところ、フェイク動画を特定することに成功したという。しかし、こうした技術も今後さらに巧妙なすり替え技術が開発されれば無効化される日が来るだろうし、そういう意味で正の技術と負の技術とは、常にいたちごっこなのである。

「静止画と違って動画は嘘をつかない」との常識は、もはや過去のものとなりつつある。動画においても、その真実性を常に検討するリテラシーが求められる世の中となっているのである。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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