日本学術会議が新会員として推薦した105名の研究者のうち6名が、内閣総理大臣により任命されなかったことに対して、学問の自由を損なう、言論の自由への侵害だという批判の声が上がっている。
しかし、普通に疑問が浮かぶ。日本学術会議の会員にならなくても、学問も言論もできるのだから。1949年に設立された日本学術会議の会員は国家公務員(特別職)であり、経費は国によってまかなわれ、会員210名に対し10億円強の予算となっている。筆者のような言論界の最末端のライターの場合、原稿料や印税よりも取材費などのほうが上回り、それをアルバイトをして補わなければならない場合もある。だが、そうして著した『罠』(サイゾー)は先日、水野美紀、鶴見辰吾、内山理名、内田朝陽らが演じて『実録ドラマ 3つの取調室 ~埼玉愛犬家連続殺人事件~』としてフジテレビ系で放映され、日本の司法に歪みがあることを国民に知らせた。アルバイトをしたのは、4半世紀にわたるライター専業で初めてのことだった。それはあとになって、契約の解除を言い渡しに来たサラリーマン編集者から「またコールセンターで働くんですか」と嘲られた。フリーのライターやジャーナリストは、似たような辛酸を舐めながら、言論の自由を実践している。
税金で賄われる学問とか言論とは、なんなのだろうか。こうした疑問に対しては、予算のほとんどは事務費であり、研究者の受け取る報酬はわずかであるということが言われる。日本学術会議がまとめた「各国アカデミー等調査報告書」を見ると、学術会議に相当する欧米のアカデミーのほとんどが、政府からの援助はあるものの独立民間非営利組織であり、会員は無報酬である。日本学術会議のように、政府機関の中に位置づけられているアカデミーは中国やインド、インドネシアなどに見られる。
郵政事業の民営化、道路関係四公団の民営化などを推し進めた小泉純一郎総理時代の「聖域なき構造改革」の時に、日本学術会議も民営化の俎上に上がった。当時の2003年2月26日に出された、総合科学技術会議の「日本学術会議の在り方について」では、「欧米主要国のアカデミーの在り方は理想的方向と考えられ、日本学術会議についても、今後10年以内に改革の進捗状況を評価し、より適切な設置形態の在り方を検討していく」と提言されている。それから17年も経っているわけだが、理想的方向にはなっていないというわけだ。
不思議な「軍事的安全保障研究に関する声明」
日本学術会議は、2017年3月24日に「軍事的安全保障研究に関する声明」を発している。それによると日本学術会議が1950年に発した「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」、1967年に発した「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を継承するとのこと。これだけ読めばもっともなことだが、よくよく読んでいくと不思議なことが書いてある。
「防衛装備庁の『安全保障技術研究推進制度』(2015 年度発足)では、将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ、外部の専門家でなく同庁内部の職員が研究中の進捗管理を行うなど、政府による研究への介入が著しく、問題が多い。学術の健全な発展という見地から、むしろ必要なのは、科学者の研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が尊重される民生分野の研究資金の一層の充実である」
防衛装備庁は、研究開発・調達・補給・管理を行う防衛省の外局。ひらたく言えば、自衛隊に関わる研究を行うなという意味だ。今の日本で、自衛隊は要らないと主張する人を見つけるのは、けっこうな困難を要する。護憲集会などに行っても、自衛隊は合憲だという解釈で護憲が語られている。自衛隊は違憲だとの主張は、日本国憲法第9条2項にある「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という文言が自衛隊の存在と矛盾するから改憲すべきだという内容がほとんどで、そのような人々は改憲集会で見いだされる。護憲集会でも改憲集会でも、自衛隊の存在は認められている。日本の社会で自衛隊が果たしている役割をごく普通に知っていれば、そうなるだろう。
自衛隊はさまざまな任務を遂行している。国家が崩壊してしまったソマリアから出没する海賊から、ホルムズ海峡を航行する船舶を護衛する任務を、海上自衛隊は2009年から行っている。筆者は第1次の派遣で指揮を執った五島浩司氏(当時・海上自衛隊1等海佐)にインタビューした。航行中は非番でも禁酒。自衛隊拠点のジブチにはろくな娯楽もなく、結局は艦艇で過ごすしかないという悪条件。それ以上に最も厳しいのは、日本の法律が守ってくれないということだ。海賊と戦闘になって射殺したら、罪に問われる可能性がある。
日本のホルムズ海峡依存度は原油で9割近く、天然ガスで2割。海上自衛隊の厳しい任務遂行があって、日本では平和で豊かな生活を享受できる。こうした簡単なことを理解できないとしたら、日本学術会議は、専門的な知識だけあって一般常識に欠ける「学者バカ」の集まりということになる。そういう意味では、任命されなかった6名はむしろ名誉と思うべきではないか。
自衛隊に関する研究を妨害
実際に起きた問題について、北海道大学名誉教授の奈良林直氏が、「国家基本問題研究所」のサイトに10月5日、文章を発表している。そこにはこう書かれている。
「北大は2016年度、防衛省の安全保障技術研究推進制度に応募し、微細な泡で船底を覆い船の航行の抵抗を減らすM教授(流体力学)の研究が採択された。この研究は自衛隊の艦艇のみならず、民間のタンカーや船舶の燃費が10%低減される画期的なものである。このような優れた研究を学術会議が『軍事研究』と決めつけ、2017年3月24日付の『軍事的安全保障研究に関する声明』で批判した。学術会議幹部は北大総長室に押しかけ、ついに2018年に研究を辞退させた」
日本学術会議は、自衛隊に関する研究を実際に妨害したのだ。これこそ、学問の自由の侵害ではないか。北大の研究は、民間の船舶にも転用できる内容だった。今一度、日本学術会議の「軍事的安全保障研究に関する声明」を見ると、こう書かれている。
「研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」
改めて言うまでもなく、ここでいう軍事目的というのは自衛隊に関することである。北大の研究は攻撃的なものではなかったが、日本学術会議は軍事研究と見なした。船舶、飛行機、ロケット、車輌、AI(人工知能)など、自衛隊が取り入れうる技術は無数にある。自衛隊員は外国語の学習を行い、体力の研鑽によってオリンピックにも選手を送り出している。音楽隊もある。
日本学術会議の理屈を当てはめれば、これは外国語学習、体力研鑽、音楽の軍事転用ということになるのではないか。「学者バカ」の手にかかれば、自衛隊の給養員が料理の腕を磨くのも、調理技術の軍事転用ということになるかもしれない。
震災時の復興増税を招いた張本人
2011年4月、日本学術会議経済学委員会は「東日本大震災への第三次緊急提言」を発した。これによって復興財源のために復興増税が行われた。これに怒りを露わにするのが、嘉悦大学教授の高橋洋一氏である。
「災害時に増税するなんて、古今東西見られない悪政です。私が主張したのは、日銀による国債引き受け。日本銀行が国債を引き受けて、お金を刷って対応するという施策です。これなら国債を発行して、国の借金を増やすことにもならない。震災などがあると、世界中どこでもやっていることです。私の主張に対して、日本学術会議は日銀引き受けはダメだなんて、バカなことを言った。私の批判に対して、日本学術会議からの反論はないから、学問の世界では私の勝ちのはずですが、現実には旧民主党政権で復興増税になりました」
国民は自分たちの税金がムダなことに垂れ流されていることに慣れてしまっているが、「学者バカ」の集まりである日本学術会議は即刻、廃止すべきだ。
(文=深笛義也/ライター、取材協力=高橋洋一/嘉悦大学教授)