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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

コロナ禍で「冬アイス」の動向はどう変わる?巣ごもり需要で“マルチパック特需”発生

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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コンビニのアイスクリーム売り場(2020年5月撮影)

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 2020年は何をするにも、新型コロナウイルスへの感染防止対策を考えながら行動する年となってしまった。もちろん、医療従事者の方のご尽力には敬意を表しており、その業務への使命感があってこそ、国内のコロナ状況が現状で収まっていることは理解している。

 メディアでは、「コロナで売れた商品・売れなかった商品」という報道もされた。想像がつくと思われるが、マスクや消毒剤などが売れた一方、口をマスクで覆う機会が多くなったことから口紅などは売れなかった。

家庭用アイス市場の動向

 筆者は、コロナ禍のなか、在宅で楽しむことも多い特定分野の商品を追いかけてみた。全国各地のスーパーやコンビニで買える「家庭用アイスクリーム」だ。

 かつてのアイス市場(以下の数字は業務用アイスも含む)は、記録的な猛暑だった1994年度の4296億円がピークで、それを上回る年は20年近くなかった。ところが2013年度に4330億円と記録を更新すると、毎年のように過去最高を更新。最近は5000億円規模で、2019年は「5151億円」(メーカー出荷ベース※)となった。
出所「一般社団法人日本アイスクリーム協会」の発表資料

 近年好調なこの市場は、2020年にどう動いたのか。コロナ禍の中で消費者はどんな行動をとったのか。取材ノートも参考に紹介したい。

春から夏に“マルチパック特需”が起きた

 春の「緊急事態宣言」によって外出自粛となり、各地の繁華街がこれまで見たことのないゴーストタウンとなった。商業施設や飲食店も「営業自粛」となり、消費者は近くのコンビニやスーパーなどで買い物を行い、日常の食生活を過ごした。

 嗜好品のアイスクリームは、4月は売れ行きが落ち込んだ。在宅勤務が続く見通しとなり、冷蔵庫内の冷凍スペースを「冷凍食品とアイスが奪い合う」現象も起きた。

 それが変わったのは、ゴールデンウイーク前からだ。

「5月中旬までは陽気の良い日も多く、家庭用アイス全体では対前年比で約120%の売れ行きとなりました。コロナの影響で、リモートワークなど在宅での仕事が中心となり、家庭で過ごす時間が増えるなか、アイスの売り上げは好調です」

 アイス業界の動向に詳しい、業界誌の編集長は当時こう語った。

 巣ごもり消費の影響で、業界では春から夏に“マルチパック特需”が起き、4~7月の市場全体は対前年比約102.9%(インテージデータ)を記録。マルチパックとは、複数の個数が紙箱や袋に入った商品を指す。

「マルチパックの伸びは、例えば小学生のお子さんがいる家庭なら、外出自粛期にご両親がリモートワークとなり、子どもも通学できない『家族で在宅』が続いたからだと思います」

 単品の首位ブランド「チョコモナカジャンボ」を持つ、森永製菓の担当者はこう話した。

夏は「濃厚」「旅行気分」のアイスが売れた

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4月8日、「緊急事態宣言」発令後の新宿

 2019年は、稼ぎ時の7月が記録的な冷夏で過去最大の落ち込みとなり、アイス市場全体の年間の数字は伸び悩んだ。今年7月も冷夏で梅雨明けが遅れたが、その後のアイスの売れ行きは好調だった。

 アイスの嗜好は人それぞれだが、一般的な傾向として、冬のアイスは濃厚な味が好まれる。逆に、夏はさっぱり系が人気だ。だが最近は、そうした消費鉄則が崩れてきた。

「この夏は『板チョコアイス』が8月でも売れました。ベルギー産チョコレートを用いてバニラアイスをはさんだ、パキッと割って食べるアイスです。秋冬の期間限定だったのを通年販売にしたのですが、予想を上回る売れ行きでした」(森永製菓)

 例年なら、夏は旅行需要も高まるが、それができなかった消費者の一部は「いながら旅行気分」も楽しんだ。

 そうした層に支持されたのが、北海道のコンビニとして知られるセイコーマートの自社PB商品「セコマ(Secoma)」の「北海道牛乳ソフト」や「北海道メロンソフト」だ。

「『北海道メロンソフト』は、道産の赤肉メロンを使い、2006年に発売。当初はメロン果汁1トンからのスタートでしたが、現在は100トン以上に拡大しています」(セコマ担当者)

 こだわるのは、メロンのおいしさに加えて、ミルクのおいしさ。「北海道クリーミーソフト」なども人気で、仕事仲間は「道内旅行で食べたソフトクリームのよう」と話していた。

「道内のサロベツ原野に育つ牧草を主食にした乳牛から絞る生乳を、近くの豊富町の牛乳工場で原料乳に加工。クルマで約1時間半の羽幌町の工場に低温配送しています。生乳から加工まで、製造工程で鮮度を閉じ込めているのも自慢です」(同)

「食べる時間」「買う時間帯」が変わった

 最近の執務状況を聞くと、「会社に行くのは週に1~3日(業務次第)。あとはリモートワーク」と話す人が多い。在宅勤務が中心となり、アイスを食べる時間も変わった。

 商品の人気に加えて、こうした喫食シーンの変化も手伝い売り上げを伸ばしたのが「アイスの実」(江崎グリコ)だ。

「以前の平日は帰宅後に食べることが多かったのが、自宅勤務となり、おめざとしてアイスの実を数粒食べたり、デスク作業やオンライン会議の合間に食べるなど、平日の日中に食べられる時間が増えたのも大きいと考えています」(江崎グリコ担当者)

 アイスを買う時間帯にも変化が出た。

「これまで目立たなかった『9~11時』『13~14時』に買う人が増え、逆に19時以降は減ったのです」(森永製菓)

 自宅なら、オンライン通信をしない時は“上司や同僚の目”からも解放される。通勤して職場で一緒に執務していた際には難しかった「息抜きアイス」となっているようだ。

「アイス消費日本一」は金沢市が返り咲き

 総務省統計局が発表する「家計調査」というデータがある。それによれば、「アイスクリームへの支出が多い」都市ランキング(都道府県庁所在地・政令指定都市)で強いのは、金沢市(石川県)と富山市(富山県)の北陸勢だ。

 2011年から2017年までの7年間で金沢市が首位になること5回、残り2回は富山市だった。寒冷地でも、冬に暖房を効かせた室内でアイスを楽しむ人が多い。2018年は大雪などの影響で金沢市は首位から陥落して浜松市(静岡県)が1位となったが、2019年は金沢市が首位を奪回した。

 2020年は現地に行けなかったので、前年に石川県内で聞いた話を紹介しよう。

「よく『金沢市民はアイス好き』と言われますが、当社の売れ筋でも裏付けられます。和洋菓子も含めて、他の地域と比べて売れます。もともと加賀百万石の城下町で和菓子文化が根付き、太平洋戦争の空襲を免れた金沢には老舗店も多くあります。そうした複合要因もあると感じています」(地元スーパーの商品部責任者)

 金沢では「アイス半額セールも多い」という話を地元の女性から聞いたことがある。2019年に同市内でスーパー店頭を回ってみたが、人気商品「パルム」(森永乳業)の箱入りアイス(マルチパック)も半額となっていた。

 パルムのマルチパックが半額なのは、首都圏ではあまり目にしない。こうした「箱×特売」も、アイス購入額を押し上げているのだろう。

「冬アイス」の売れ行きはどうなるか

 以前とは異なり、冬に楽しむ「冬アイス」の効果も大きく、データによっては「夏アイス65%:冬アイス35%」(夏アイスは定番商品+春夏向け商品、冬アイスは定番商品+秋冬向け商品が中心)の割合となり、冬アイスの売り上げが高まっている。

 前述の総務省の調査でも「1世帯当たりのアイスクリーム・シャーベット」の支出金額は、過去10年で15%増え、特に冬場の増加率が高くなっている。コロナ禍で過ごす今年の冬は、どんな状況を示すのか。

 本来なら家族や親戚、友人・知人など大勢の人が集まる年末年始に、家庭用アイスは「まとめ買い」されるケースが多かった。「帰省ができない年末年始」の需要は、まだ読めないが、同じように帰省が難しかった「お盆時期は好調だった」と話すメーカーもある。

 寒い地域では、降雪で買い出しに行けない日もあるだろうが、アイスクリームは保存のきく商品だ。

 コロナ禍で目立つ現象に、「自粛疲れによる憂さ晴らし的な消費」もある。通常のアイスは1個100円程度、高級アイスでも数百円なので、気分転換で買いやすいだろう。「身の丈消費」が続くご時世。引き続き、家庭用アイスの動向も見続けたい。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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