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野村直之「AIなんか怖くない!」

「日単位」実行サイクルが必要なコロナ対策、PDCAではなくOODAを実現するDXが必要

文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員
「日単位」実行サイクルが必要なコロナ対策、PDCAではなくOODAを実現するDXが必要の画像1
「Getty images」より

 新型コロナウイルスの遺伝子情報には約3万の塩基があります。この中のたった一つが置き換わった英国型や南ア型の変異株(501番目のアミノ酸残基がYのN501Y変異株ファミリー)を低コストで特定する迅速検査技術を日本の研究機関が開発しました。静岡で早速使われて濃厚接触者の変異株感染を発見。水際作戦の水漏れをふさごうとしています。

 かように、研究機関等、個々の現場が目覚ましい活躍をしているのは本当に素晴らしいことですが、それを見てすぐに全国展開したり、管轄の違う空港の検疫所に即時導入したりできないのはなぜでしょうか。

新型コロナウイルス対策でPDCAができていたか?

 政府の新型コロナ対策への不支持率は、各種調査によれば69~85%と、先進国で断トツに高いといわれます。海外動向がだだ漏れ、リアルタイムで伝わってくる時代に、次のような根本的な疑問がいくつも沸いてきます。これらが、きっかけとなり国や自治体の施策が最適とは到底いえないと、多くの国民が評価していると思われます。

・指数関数的に増大する敵に対抗するため、2020年1月末に中国が1000床の病院2つを10日で建設、稼働させたのを見習えたか?

・その後も、退役医師、看護師へのお願いを含む、あらゆる医療キャパ拡大にGo Toなみの予算を費やして実施したか?

・クルーズ船での失敗から学んで感染者と非感染者の徹底隔離を行い、院内感染が二度と起こらないよう再発防止策を立てたか? 

・2020年3月あたりから地域の総合病院に助成金を出してコロナ専門病院とコロナ患者を入れない病院に分けて、院内クラスターを未然に防いだか?

・過疎地では1つの総合病院内にコロナ患者を受け入れる減圧室を急いで設置する工事をするなど、ウイルスが他区域に漏れない対策を立てたか?

・無症状感染者が他人に感染させる史上初のウイルスへの対策のため、大量PCR検査の補正予算を2020年度の通常予算の審議終了を待たずに組んだか? 機密費をそれに充てたか?

 このように、きりがありません。筆者のFacebookやノートにも過去1年、多数のコロナ関連の話題、特に、低コストで大量実施可能な自動PCR検査や、安全デマを支えるトンデモ説への反論や新特措法の問題点、そして、それらへの代案、提言を書いています。

 国や自治体はもちろん、民間企業も会社法の定めにより、年度単位で予算計画を立て、実行します。そして、決算時にその評価を実施して次年度の計画に反映し、事業の改善を図ります(平時にはそうあるべきです)。これは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字をとったPDCAサイクルと呼ばれるものとおよそ合致し、継続的な業務の改善を促す技法です。

 PDCAでも、想像力と創造性があれば、前例のない施策でも実施可能です。しかし、「Check」がなければ、主に「改善」を意味する 「Act」は実行できません。そして、次年度など次のサイクルで、科学的にも経済面でも適切な「計画(Plan)」をすることは不可能です。新型コロナ対策について、元大阪市長の橋下徹氏の発言は、2020年4月7日に発出した緊急事態宣言のコロナ抑制効果、経済効果(悪影響)をきちんと評価、検証せずに2回目の緊急事態宣言を出したのは最悪であるとしています。まさにPDCAの「C」なしに次のアクションをとれないはず、との指摘といえるでしょう。

PDCAより桁外れに機動力あるOODA

 仮に、PDCAがそれなりにうまく回っていたとして、それで十分でしょうか? コロナ対策では、1年単位、あるいはそれを補完する補正が3回程度行われるとして3カ月(四半期)単位程度の見直しサイクルとなります。それでは到底間に合いません。数カ月の間に数千の変異が生じ、その一部は、非常に深刻なものになったり、それから、365日、昼夜を問わずクラスターが発生して、ある地域の医療が突然大幅なキャパ低下を引き起こしたりするからです。ITの活用などでリアルタイムで状況を監視し、即時対応することが求められているといえるでしょう。

 それに応えられるのがOODAです。OODAは、Observe(観察)、Orient(わかる)、Decide(判断)、Act(実行)の頭文字をとったもの。下表のように、PDCAと対比されます。

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 PDCAと同様に、1つのサイクルが完結したら、その結果を踏まえてさらに改善した次のサイクルに入るという考え方もあります。しかし、OODAでは、Decide(判断)の結果によってObserve(観察)が深まることもあるし、Actの時点で試行錯誤となることも多いので、それにOrient(わかる)を支える世界観、価値観が影響与えたりします。一方向のサイクルとは限らなないことを図解したOODAループもあります。

 PDCA が通常、年単位、せいぜい四半期単位からがんばって月単位であるのに対し、OODAは、もともと米国空軍大佐が提唱されただけあって、週単位、日単位はもちろん、時間単位、分単位、秒単位で回すこともできます。敵国の未知の戦闘機に空中で出会って、事前に入手したデータと異なる急上昇や旋回半径を眼前に、データシートの改訂依頼を待ってはいられない。 観察(Observe)した結果、その意味を把握(Orient)しつつ、新たな回避行動を即座に決断(Decide)し、行動(Act)しないと、撃墜されて死んでしまいます。

 日本には軍隊は関係ないという向きには、2021年1月7日の強風を思い出していただきたいと思います。瞬間風速21mの成田空港で着陸するシーンは恐怖の連続でした。地面に翼が着きそうになって着陸を中止して舞い上がり、羽田や仙台に向かった機が8便ほどあったようです。乗客の方、それ以上に操縦士の方々はとてつもない緊張を強いられていたことでしょう。予定通りに着陸を強行したらどうなっていたでしょうか? パイロットは、失敗をすぐ忘れてしまえる人でないとなれないといいます。「あ、ミスったか。はい、次いこ!」というナンパ師のような感覚だそうです。危機的状況では、秒単位のOODAを回し、あらん限りの知恵と工夫によって死亡事故を回避する必要があります。地上の責任者に判断を仰いだり許可をもとめたりしている暇はありません。

 新型コロナウイルスで、1月3日までの1週間に報告された通常インフルエンザの患者数が全国で69人と、例年の数百分の1に激減したといわれます。マスク、手洗いなど、一人ひとりの対策の成果でしょう(互いのウイルス干渉が起こるほど国民の何割もがコロナに感染したりしていませんから)。裏を返せば、新型コロナウイルスは、普通のインフルエンザの数百倍の速度で増殖し、秒単位とまではいかないまでも、日単位、たとえば、ある3連休で気がゆるんだら爆発的感染拡大に移行したりする。その対策には、OODAこそ、ふさわしいといえそうです。

 OODAは、PDCAよりもメタレベルのフレームワークという指摘があります。知識というよりメタ知識ということになります。特徴として、手順を重視するPDCAに対し、OODAでは人間的要素を重視する、想定内よりも想定外の状況に積極的に俊敏に対応できる、などがあります。ときに、規則違反、脱法行為や命令違反さえいとわないことで人々の命が救えることなど、杉原千畝さんのエピソードや、ハドソン川の奇跡のエピソードを用いて説明するOODAの書籍もあります。

 最後に、本稿のテーマである「お役所的PDCAから脱皮してOODAで俊敏に動けるようにするためのDX 」について一言記します。DX=デジタルトランスフォーメーションが、あらゆる業務、意思決定、そのための内外のコミュニケーションを大幅に加速することが期待されています。従来の紙の仕組み、稟議書にハンコを並べるのに何カ月もかけたり、年度単位で議論する旧態依然のプロセスをそのままデジタル化したりするのでは意味がありません。OODAを多くの関係者が実践できるようにDXを推進しましょう! これが今回の筆者からのメッセージです。

 戦闘機による空中の戦いでも、AIが人間に圧勝したという報告もありました。睡眠もとらず休暇もとらないウイルスに対抗するためにも、病院や保健所のスタッフなど人間の能力を大幅に補い、膨大なモニタリングや計算、過去の膨大な事例から処方箋を検索し、対策立案するなど、AIの出番です。

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員。


1962年生まれ。1984年、東京大学工学部卒業、2002年、理学博士号取得(九州大学)。NECC&C研究所、ジャストシステム、法政大学、リコー勤務をへて、法政大学大学院客員教授。2005年、メタデータ(株)を創業。ビッグデータ分析、ソーシャル活用、各種人工知能応用ソリューションを提供。この間、米マサチューセッツ工科大学(MIT)人工知能研究所客員研究員。MITでは、「人工知能の父」マービン・ミンスキーと一時期同室。同じくMITの言語学者、ノーム・チョムスキーとも議論。ディープラーニングを支えるイメージネット(ImageNet)の基礎となったワードネット(WordNet)の活用研究に携わり、日本の第5世代コンピュータ開発機構ICOTからスピン・オフした知識ベース開発にも参加。日々、様々なソフトウェア開発に従事するとともに、産業、生活、行政、教育など、幅広く社会にAIを活用する問題に深い関心を持つ。 著作など:WordNet: An Electronic Lexical Database,edited by Christiane D. Fellbaum, MIT Press, 1998.(共著)他


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