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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」

【総務省接待】幹部総退陣で通信業界に大打撃…元凶は菅首相長男のコネ入社、側近壊滅

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
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総務省のYouTube公式チャンネルより

「日本の通信業界は今後10年、世界から取り残される」――。

 携帯電話業界に詳しいあるアナリストは、菅義偉首相の長男・正剛氏が勤める放送関連会社「東北新社」から総務省の高級幹部が接待を受け軒並み処分された問題を受け、こう肩を落とした。特に菅氏の右腕として携帯電話料金値下げを主導してきた谷脇康彦総務審議官が今夏の人事で退官することが確実となったことが大きな影響を及ぼしそうだ。

農水省幹部の処分もあり、人事院はパンク状態だった

 総務省は24日、谷脇氏、吉田真人総務審議官、秋本芳徳前情報流通行政局長など11人に減給などの処分を下した。戒告以上の処分は給与にも影響が出てくるため、「次官に昇格させて給与を上げることができない以上、年次的に谷脇氏は退官せざるをえない」(同省関係者)。

 今回の接待問題が発覚したのは、今月4日発売の「週刊文春」(文藝春秋)の報道からだ。「文春オンライン」は内容を先行して前日3日に報じたが、先の関係者によると、4日には吉田氏は辞表を総務省側に提出していたが、人事院から「待った」がかかったという。関係者の解説。

「吉田氏は自分が辞表を出すことで今回の事態の幕引きを図ろうとしたのですが、人事院は鶏卵業界が絡んだ農水省の癒着問題での同省職員の調査もあり、パンク状態で、『とにかく調査を受けてから判断してほしい』と引き留めた。実際に総務省側は当初12日ごろに処分があるだろうと考えていたようですが、調査が長引き、24日までずれこんでしまった。人事院からすれば、ろくに調査もせずに“文春砲”で辞職する先例を簡単につくってしまえば、今後の行政に支障があると考えてのことでしょう。いずれにしろ、人事院の倫理審査委員会にこれほど世間を騒がせる案件が集中するのは前代未聞です」

谷脇ロスで携帯改革は停滞する

 今回処分された11人のうち、通信行政を担う高級幹部は谷脇、吉田、秋本の3氏だが、谷脇氏以外の評価は、吉田氏は「人柄で成り上がった人」であり、秋本氏は「菅氏の覚えがめでたいだけの人」というものであった。つまり、実務は谷脇氏が担ってきた面が大きいということになる。

 谷脇氏について、筆者は過去に「現代ビジネス」で記事を書いているので、ご参照いただきたいが、保守的な携帯業界の改革について、並々ならぬ情熱を傾けてきた。今年の夏の人事で次官に昇格し、「菅氏の威光を背景に向こう2年で改革は圧倒的に進むとみられていた」(全国紙記者)だけに、今回の不祥事で名前が上がったことで業界関係者に衝撃が走った。

 谷脇氏の悲願だった携帯料金引き下げは菅氏の強権で目先は達成したが、今後は次世代通信規格「5G」関連をはじめ、大手携帯キャリアが格安スマホ業者に回線を貸し出す接続料を引き下げる際の法令整備や、オンライン手続きの普及によって取り残される携帯電話販売代理店の問題への対応など課題は多い。

「谷脇氏は一つの国会で2、3本も法案をみれる怪物のような人だっただけに、5Gをめぐって世界各国が競争している現在は特に、日本の通信業界全体のダメージは非常に大きい」(冒頭のアナリスト)

 今回の処分で谷脇氏以下、電波行政を担う旧郵政系の幹部が一気に4人も抜けることになり、実務に支障が出るのは間違いない。次期次官候補としては、現在内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官の名前が上がるが、旧自治省系で電波行政の知見はゼロ。ある携帯大手の中堅幹部は「役所に法案のことを相談しようにも、そもそも話がわからない幹部ばかりになり、早晩途方に暮れるのは避けられない」と予測する。

政治家も官僚も「菅銘柄」は壊滅

 今回の接待問題の本質は、菅氏が正剛氏を東北新社にコネ入社させ、長男が接待係として同社でハバを聞かせる余地をつくってしまったことにある。「文春」側が事前に正剛氏の接待の日時と場所を把握していたことを考えると、東北新社側からのリークであることは間違いなく、社内で相当の不興を買っていたことは想像に難くない。

 正剛氏は40代の会社員だが、通常なら中央官庁の高級幹部が接待に会うことなどあり得ない。課長クラスがせいぜいというところだろう。背景には菅氏の威光があったことは明らかだ。人事権で霞が関を掌握してきた菅氏の長男に呼ばれたら、拒否することなどできるわけがない。官僚自身の脇の甘さもあるのは間違いないが、そうした環境を菅氏が用意してしまったことは否定できない事実だ。

 それにしても、菅氏の引きで出世した人間は政治家も官僚もほぼ壊滅状態だ。今回処分された総務省幹部は菅氏が総務大臣だったころに目を付けたメンバーだ。政治家にしても、2019年の参院選での収賄罪で起訴された河井克行被告や、菅原一秀元経済産業相は菅氏の側近中の側近だった。官房長官時代には「鉄壁のガースー」としてディフェンス能力の高さを評価されていたが、最高権力者になって逆風が強まり、馬脚を現したということだろう。

 菅氏は「秋田の田舎から出てきて出世した」という苦労人のイメージを振りまいてきたが、今回の接待問題で、長男のコネ入社など、本質的には「成り上がりのオヤジ」と変わらないことを露見してしまった。低迷を続ける菅氏は総選挙に向けて、ますます厳しい政権運営を迫られることになる。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

 

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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