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長谷十三「言わぬが花、をあえて言う。」

総務省接待、マスコミが追及に及び腰のワケ…官僚を最も接待しているのは新聞社とテレビ局

文=長谷十三
総務省接待、マスコミが追及に及び腰のワケ…官僚を最も接待しているのは新聞社とテレビ局の画像1
総務省のYouTube公式チャンネルより

 総務官僚と企業のズブズブの関係が次から次へと明らかになっている。

 菅義偉首相の長男を用いて39件もの接待攻勢をしていた東北新社が、外資規制に違反をしていたにもかかわらず、衛星放送事業の認可を取り消されなかったことがわかった。決裁の責任者は、東北新社から7万円のステーキをご馳走になった“ゴチ官僚”山田真貴子・前内閣広報官である。

 また、NTTも谷脇康彦総務審議官などに高額接待を繰り返していたことが判明した。これが、菅首相(当時は官房長官)が携帯電話料金の4割値下げという爆弾発言をしていた時期と重なり、その後のNTTによるNTTドコモ完全子会社化と大幅値下げの官僚側の責任者が、谷脇氏だったということから、これらの電波行政の重要な決定に接待が影響したのではないかという疑惑も持ち上がっている。

 まさしく総務省始まって以来の大スキャンダルという感じだが、マスコミは思いのほか盛り上がっていない。総務省の疑惑を徹底的に追及しようという姿勢はあまりなく、ワイドショーでも緊急事態宣言の延長や、メーガン妃の英国王室批判などを大きく報じている。

 なぜこうなるのかというと、あまりこの問題を深く掘り下げてしまうと、マスコミが国民にバレないように必死で隠し続けてきた、ある「不都合な真実」にもスポットライトが当たってしまう可能性があるからだ。

マスコミ記者から「接待取材」を受けている官僚

 それは、「官僚を最も接待している民間人はマスコミ」ということだ。あらゆる業界、あらゆる民間人のなかで、最も官僚と多く顔を合わせて、飲食を共にしているのが、テレビや新聞の「記者」であることに、異論を挟む者はいないだろう。

「それは取材のためだ」というのがマスコミ側の主張だが、本質的なところでいえば、マスコミ記者のやっていることは、官僚を飲ませ食わせしていたNTTや東北新社とそれほど大きな違いはない。

 日本は世界でも珍しい「記者クラブ」という制度が長く続いてきた弊害で、「役所の外でいかに官僚と非公式に会って特ダネをいただくか」ということを各社が競い合うことになっている。つまり、官僚のご機嫌をとって、口をすべらせるかという「接待取材」になっているのだ。

 その「醜悪な現実」を象徴しているのが、福田淳一・財務省事務次官(当時)によるテレビ朝日の女性記者へのセクハラ疑惑や、黒川弘務・東京高検検事長(当時)と朝日新聞社員(元検察担当記者)、産経新聞の検察担当記者らが仲良く卓を囲んだ賭け麻雀事件だ。

 前者の場合、女性記者は自宅でパジャマでくつろいでいても、財務次官に呼び出されるとタクシーで駆けつけていた。「胸触っていい?」などというトークで迫られても、その被害を訴えずに泣き寝入りをしていた。なぜこんな弱い立場なのかというと、次官のご機嫌をとって特ダネをいただくためだ。

 マスコミ側はこれを「夜討ち朝駆け」なんてもっともらしい呼び方をしているが、なんのことはない、得意先のスケベ社長を接待するため、女性社員に隣でお酌をさせて、「今度2人で食事でも行ってきなさい」なんて命じているのと変わらないのだ。

 後者の場合は、もっと露骨だ。国民に偉そうに「正義」を説く新聞記者らが、なぜコロナ自粛中に賭け麻雀なんて愚かな行動に走ったのかというと、検事総長の座を目前としていた黒川氏が無類の麻雀好きだからだ。そこにつけ込んで麻雀仲間になれば、記事でよく登場する「検察関係者」から内部情報を恵んでいただけるかもしれない。

 こちらもマスコミは「取材対象者の懐に入るため」とか苦しい言い訳をするが、やっていることは、大口契約が欲しくて、接待ゴルフにいそしむサラリーマンとほとんど同じだ。

 このようなズブズブの関係が「氷山の一角」であることはいうまでもない。福田氏や黒川氏という大物官僚なので、このような形で週刊誌にスッパ抜かれているだけであって、こうしている今も水面下では、霞ヶ関ではマスコミ記者からの「接待取材」を受けている官僚が山ほどいるのだ。

「波取り記者」

 基本的に官僚は、テレビや新聞の記者と役所外で会食をしたことなどを役所にいちいち報告などしない。「昨夜は朝日の記者と飲んでました」なんて馬鹿正直に報告したら、何か内部情報が漏れた際に真っ先に疑われ、キャリアにミソがつくからだ。

 このような「非公式な密会」だからこそ、賭け麻雀もできるしセクハラもできる。それはつまり、「いつも取材で世話になっているんで」などと言われ「ゴチ」になっている官僚もかなり存在するということだ。

 権力の監視をする「記者」という神聖な職業を冒涜するような話の連続に、不愉快になっておられる方も多いかもしれないが、「記者という立場を使って接待をする」というスキームをマスコミが発明し、その既得権益をフル活用してきたということ示す動かぬ証拠がある。

 それは、「波取り記者」だ。

 テレビなどの放送事業は総務省の監督下で、公共電波を使わせていただいているという弱い立場なので、何かと総務省の顔色を伺わなくていけない。そこで総務官僚に接近して、自社や業界の利益になるように働きかける、ロビイング専門の記者を示す言葉で、都市伝説でもなんでもなく実在する人々だ。

 なぜ「波取り営業」ではなく、「波取り記者」なのかということが、この問題のすべてを物語っている。「記者」という立場を利用すれば、官僚と好きな時に接触できて、好きな時に非公式な会食の機会をつくることができる。記者は「官僚接待」に最も適した職業なのだ。

 先進国の多くは、このように官僚のご機嫌をとって情報を恵んでもらうような「接待取材」のことを、「アクセスジャーナリズム」と呼ぶ。言論と表現の自由に関する国連の特別報告者、デービッド・ケイ氏が来日した際、日本のアクセスジャーナリズムを問題視して、その原因を「記者クラブ制度」として解体を求めたが、日本のマスコミは沈黙した。

 政権や官僚の不正のほとんどが週刊誌が暴いていることからもわかるように、テレビや新聞は「報道の自由」よりも「接待の自由」を重視している。この醜悪な事実に、日本人はそろそろ気づくべきだ。

(文=長谷十三)

長谷十三

長谷十三

フリーライター。政治・経済・企業・社会・メディアなど幅広い分野において取材・執筆活動を展開。

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