参院広島再選挙で自民党を破った“シングルマザー”宮口議員の危機管理が不安視される理由
国会議員秘書歴20年以上の神澤志万です。
4月25日に、3つの国政選挙と2つの市長選挙がありましたね。このうち、衆議院北海道2区の補欠選挙については書かせていただきましたが、最も注目されていたのは参議院広島選挙区の「再選挙」だったのではないでしょうか。
ここで豆知識ですが、「補欠選挙」と「再選挙」は違います。補欠選挙は、議員の死亡や辞職などによって議員が足りなくなったときに行います。衆院北海道2区は前職の元農林水産大臣・吉川貴盛氏の辞職、参院長野選挙区は羽田雄一郎議員の死亡に伴うものでしたから、補欠選挙となりました。
そして、参院広島選挙区の場合は、前職の河井案里氏が裁判で有罪となり、当選が無効になったことで「再選挙」となりました。めったにないことなので、耳慣れないですよね。総務省によると、国政選挙では1950年以降で衆院で3件、参院では2件のみ、直近では94年9月に新間正次氏の学歴詐称による当選無効に伴い、参院愛知選挙区で行われたようです。
ちなみに、案里氏が当選後に受け取っていた歳費や期末手当、文書通信交通滞在費の総額4942万6514円については、法律上は国庫への返納義務はないそうで、批判を浴びていますね。4月26日には、広島県の住民6人が、案里氏に対して歳費を国に返還させるよう求める訴えを東京地方裁判所に起こしました。これも注目ですね。
宮口氏の“シングルマザー”はイメージ戦略?
改めて、今回の再選挙を振り返ってみますね。
フリーアナウンサーで立憲民主党・国民民主党・社民党が推薦した宮口治子候補が自民党の西田英範候補らを抑え、初当選を果たしました。自民党は、岸田文雄前政調会長が広島県連会長として陣頭指揮を執ってがんばりましたが、痛恨の敗戦となってしまいました。岸田前政調会長は次期総裁選も狙っているので、なんとしても西田候補を当選させて勢いを取り戻したかったようです。秘書仲間によると、「なりふり構わないほどの応援ぶり」だったそうで、自民党支持者にはその熱意が伝わっていたと思います。
でも、熱かったのは岸田前政調会長だけではありません。今回の再選挙は大接戦、そして大激戦で、選挙陣営は一喜一憂の日々だったんです。だから、マスコミもどちらが勝利するのか、最後の最後までわかりませんでした。
とはいえ、「予定稿」を掲載してしまった毎日新聞の大失態は許されるものではありませんが、マスコミの裏事情が表に出てしまったと笑い話にしてあげてもいいかもしれません。毎日新聞が25日の投票終了時刻の20時より前に、宮口・西田両候補の当確情報を誤ってホームページに掲載してしまったのです。選挙や訃報などは「予定稿」といって、いくつかパターンをつくっておくのですが、それが出てしまったんですね。謝罪記事も出ていましたが、ちょっとおもしろかったですね。
マスコミといえば、初当選の宮口氏はアナウンサーとしての知名度とシングルマザーとしての経験をアピールポイントにしていましたが、実は結婚予定の交際相手がいることを“新潮砲”に暴露されていましたね。
一般的に、シングルマザーというと「なんか苦労していて、身近な問題も理解してもらえそう。お金にもクリーンな感じがする」というイメージもあるので、ウケを狙ったのでしょうが、ちょっと違うということです。
交際相手は森本真治参議院議員(立憲民主党)の公設秘書だそうで、シングルマザーは「イメージ戦略」でしたが、それでも当選したのですから、やっぱり「河井克行・案里夫妻のたたり」なのでしょうか。「政治とカネ」の問題に対する不信感が、予想以上に根強かったんだなと思いました。
それにしても、シングルマザーであることをアピールしているのに白無垢姿の写真が流出するなんて、危機管理は大丈夫なんですかね。参院議員として務まるのか心配になります。
総括すると、今回の3つの国政選挙は立憲民主党が得しただけです。参院長野の補選は急逝された羽田雄一郎前議員(立憲民主党)の後任として実弟の次郎候補が当選したので、いわばプラマイゼロです。衆院北海道2区の補選は立憲民主党の松木謙公氏が当選し、参院広島の再選挙も宮口氏が4月27日に当選証書を受け取り立憲民主党の会派に入ったので、プラス2となりました。
野党共闘で戦ったのに、国民民主党や社民党にどんなメリットがあったのでしょうか。支持率が1%未満と言われている国民民主党が、なぜ「右にならえ」で立憲民主党と共闘したのかもわかりません。それなら、最初から全野党が合流すればよかったのではないでしょうか。そういうところでまとまれないから、存在感がなくて支持率がアップしないのだと思うのですが……。
野田聖子の“公選法違反ツイート”が出た事情
また、毎日新聞だけでなく、自民党のフライングもありました。投票日当日の25日未明に、野田聖子幹事長代行がツイッターで自民党候補への投票を呼びかけてしまったんです。
もちろん、これは公職選挙法違反です。公選法では、投票日に特定の候補者への投票の呼びかけをツイッターなどで行うことを禁じています。野田議員の事務所は「秘書が誤って日をまたいで未明に投稿し、それに気付いた別の秘書が早朝に削除していたことがわかりました」と釈明しましたが、野田議員のツイッターの「中の人」の存在が思わぬ形で露呈してしまいました。
もっとも、政治家などの著名人はSNSを「中の人」が書いていることも珍しくないですよね。神澤としては、最後の最後まであきらめずに必死に応援していた証拠と評価したいです。
自民だけでなく、各党が「SNSなどで投票を呼びかけるように」と何度も通達を出していたので、秘書さんたちも思いが強すぎて、時間を確認せずにツイートしてしまったのかもしれません。あるいは、当日の特定候補者への投票の呼びかけが禁止されていることを知らなかったのかな、とも思いました。
公選法は細かすぎて難しいんです。たとえば、投票日に選挙事務所から「投票に行かれましたか? ぜひ投票に行ってくださいね」という電話がかかってきたり、SNSでもそのようなメッセージを見かけたりするかもしれませんが、これは違反ではないんです。
「投票してください」だけならOKで、特定の候補者名や政党名をつけてしまうとNGなんです。公選法を理解することは秘書たちの重要な仕事の一つですが、現場の経験で覚えることも多いです。ちゃんと理解していればあわてることもないですし、法定の範囲で最善の活動を検討できます。でも、本当に細かくて、いわゆるグレーの範囲もあるので、難しいんですよ。
それにしても、新型コロナで選挙も変わっていきますね。まず、感染防止対策で握手ができなくなりました。投票所で名前を書いていただくには、目を見て、握手をして、お話をするのがとても重要なんですが、別のアプローチを考えなくてはなりません。こうした社会の変化に柔軟に対応して、これからの選挙戦略を練るのも秘書の腕の見せ所です。
あと、一つご案内です。山尾志桜里衆議院議員の交際相手とされる弁護士の元妻が自殺していたことについて、インタビューを受けました。こちらもお読みいただけますとうれしいです。
(文=神澤志万/国会議員秘書)
『国会女子の忖度日記:議員秘書は、今日もイバラの道をゆく』 あの自民党女性議員の「このハゲーーッ!!」どころじゃない。ブラック企業も驚く労働環境にいる国会議員秘書の叫びを聞いて下さい。議員の傲慢、セクハラ、後援者の仰天陳情、議員のスキャンダル潰し、命懸けの選挙の裏、お局秘書のイジメ……知られざる仕事内容から苦境の数々まで20年以上永田町で働く現役女性政策秘書が書きました。人間関係の厳戒地帯で生き抜いてきた処世術は一般にも使えるはず。全編4コマまんが付き、辛さがよくわかります。