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乾汽船、新型の買収防衛策の導入を検討、市場で注目…濫用的な株主権行使に対抗

文=松崎隆司/経済ジャーナリスト
乾汽船、新型の買収防衛策の導入を検討、市場で注目…濫用的な株主権行使に対抗の画像1
乾汽船のサイトより

 投資ファンドから敵対的買収の脅威にさらされている東証一部上場の乾汽船が、新しい買収防衛策を打ち出した。乾汽船は、アクティビストで議決権ベースで31.5%を保有する筆頭株主のアルファレオホールディングス合同会社(アルファレオ)から3年間で13件の株主提案や修正動議のほか、8件の訴訟提起など激しい攻撃を受けてきた。

 これまで防戦一方だった乾汽船がここにきて、アルファレオとその関係者の特定の株主グループをターゲットとする新型の買収防衛策導入を、今月23日に開催される株主総会に諮る。株主の支持を得て、この新型の買収防衛策が導入されれば、アクティビストとの攻防が新たな局面を迎えることになる。敵対的買収が増加する日本の資本市場で、ひそかに注目を集めている。

 乾汽船では、2019年からは、敵対的買収行為を行う株主から「大規模買付行為」がなされた場合に発動される買収防衛策を取ってきた。いわゆる「事前警告型」の買収防衛策だ。今回、これを大きく変更し、アルファレオとその関係者という特定の株主グループだけに限定し、「大規模買付行為」と「濫用的株主権行使」がなされた場合に発動できる新型の買収防衛策に切り替える。有事導入ではない状況で特定の株主グループだけを対象にした買収防衛策の導入は、日本では初めてのことだ。

 乾汽船の乾康之社長は決算説明会の場で、新型買収防衛策導入の経緯を述べた。

「私どもは、上場会社です。株主の皆様の権利に制限を加えることを望んではおりません。そして、対話を重んじ、社会の公器であることに誇りを持っております。ただ、ここ3年の間、努めても理解しあえない特定の株主様とのやり取りを通じ、これでは他の株主様のためにはならないと思うようになりました。改めて振り返りますと、特定の株主様からの真意の掴みかねる多くの行為や、その対応に振り回されることで、経営への集中を欠くことにつながっていたのではないかと思います。これらの行為が、会社の体力を奪い、経営を支配するための準備行為なのではないか、というご指摘をステークホルダーの皆様方から、いただくようになりました」

 要するに、アルファレオ以外の株主から、アルファレオの執拗な攻撃に対処すべきという声が上がってきたということだ。そして、この新型買収防衛策を編み出したのが、企業防衛の第一人者である西村あさひ法律事務所の太田洋弁護士であることを明かした。

「ご縁がありました西村あさひ法律事務所の太田(洋)先生とお話しのなかで、『特定株主様との関係を適正のものに修復できる可能性が高いプランが考えられる』というお話をいただき、同事務所の先生方とお話を進め、今回の総会議案に至りました」(乾社長)

アルファレオの激しい攻撃

 この新型買収防衛策のターゲットとなるのは、アルファレオとその関係者。これにはアルファレオを実質的に保有・支配している東証一部上場のメルコホールディングスの代表で2代目社長の牧寛之氏も名指しされている。要するに、上場会社の社長でありながら、他の上場会社から「招かれざる株主」として名指しされている格好だ。

 メルコは、通信機器のバッファローや流水麺で有名なシマダヤの持株会社だ。アルファレオは当初投資目的で株を取得していたが、メルコ創業者の牧誠氏が他界した18年頃から2代目の牧寛之氏に代替わりし、アクティビストに豹変していく。

 その後、乾汽船への攻撃が激化する。18年6月には、乾汽船の定時株主総会で自社株買いの株主提案を行い、19年2月には帳簿の閲覧・謄写請求を行い、市場で株を買い漁り筆頭株主に躍り出た。

 19年6月の定時株主総会では、乾汽船は買収防衛策を提案。出席株主の過半数の賛成を得て承認されたが、これに対してアルファレオは同年9月、臨時株主総会の招集を請求し、(1)取締役の報酬引き下げ、(2)特別配当、(3)乾康之取締役の解任、(4)自己株式の取得、(5)買収防衛策の廃止を求めた。

 乾汽船の経営陣は、これらの株主提案のうち、(5)買収防衛策の廃止については適法性に問題があるとして臨時株主総会に付議しないことを決定。アルファレオは10月11日、「本買収防衛策の廃止」を議案とする臨時株主総会の招集許可申し立てを行った。

 会社側は、同年11月4日に開催された臨時株主総会には(1)から(4)までの議案を上程し、アルファレオ以外の多くの株主の賛同を得て、いずれも否決された。アルファレオは同年12月3日には、買収防衛策廃止の議案を株主総会に付議しなかったことを理由に、乾取締役の解任請求訴訟を提起。さらに20年3月6日には、買収防衛策の廃止を議案とする株主総会が裁判所により招集許可決定された。

 5月7日を開催日として、アルファレオによって臨時株主総会が招集されたが、新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に、総会の場に出席できる株主数をアルファレオ自身を含めて3名のみに限定し、さらにアルファレオ以外で出席できる2名については抽選で選ぶといった強硬手段に打って出た。つまり、会社側に賛同する委任状を持参する株主が実質的に総会に出席できない可能性が極めて高くなるというもの。

 これに対して、乾汽船の監査役は4月24日、アルファレオが行おうとしている決議方法に法令違反または著しい不公正があり、かつ、それにより乾汽船に著しい損害が生じるおそれがあるとして、臨時株主総会開催禁止の仮処分を申し立てた。

 最終的には裁判所から示された和解案でアルファレオと和解。5月7日にはアルファレオが招集し議長を務めるかたちで臨時株主総会が開かれ、「会社防衛策の廃止」が付議された。そして現経営陣を批判する動画まで制作し、来場した株主向けに放映した。翌8日には、「2020年5月7日開催の乾汽船株式会社臨時株主総会までの経緯をまとめた動画」というタイトルでその動画をYouTubeに公開、アルファレオは現経営陣に対する徹底批判を展開した。しかしながら、これほどまで工作をしながら、株主の過半数の賛成が得られず「買収防衛策廃止」の議案は否決された。

 これまで乾汽船はアルファレオから繰り返される株主提案や臨時株主総会招集請求に対応し、辛うじてしのいできた格好だが、今もなお取締役解任訴訟など複数の訴訟が継続中だ。

株主権濫用の動きがあれば、買収防衛策が発動

 こうした状況のなかで、乾汽船は「特定株主グループが濫用的な株主権行使を行い、また十分な蓋然性がある」と判断したという。M&Aに詳しい弁護士は、「アクティビストファンドでも、ここまで特定の上場企業に執拗な攻撃を繰り返すのは見たことがない」という。

 アルファレオは濫用的な株主権を行使する蓋然性があると乾汽船が判断した理由として、以下の点を挙げている。

(1)18年6月以降3年間で13件の株主提案や実質的動議を発動し、いずれも株主総会で否決されている

(2)東証の規定により「その他関係会社」に該当する決算内容の開示義務があるにもかかわらず、再三の要請を拒否し、乾汽船は有価証券上場規程違反の状態が続いている

(3)19年9月以降、約2年間の間に乾汽船に8件もの訴訟を提起しているアルファレオの代表社員であるマキスが会社法に基づく公告義務を履践しておらず遵法意識を欠いている

 新しい企業防衛策が導入されるかどうかは、23日の株主総会で決められる。仮に導入された場合、アルファレオに新たに株主権濫用の動きがあれば、買収防衛策が発動されることになる。果たしてアルファレオと乾汽船の攻防戦は今後どうなってしまうのか、まだまだ目が離せない。

松崎隆司/経済ジャーナリスト

松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。

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