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水道橋崩落の和歌山市、再開発には巨費投入…談合疑惑浮上、情報を不当に隠蔽か

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
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南海和歌山市駅駅舎(「Wikipedia」より)

 2018年11月、和歌山市駅の再開発事業の入札経過について、和歌山市内の市民団体が情報開示請求を行った。しかし翌月、市は文書の一部を黒塗りで開示。それに対して市民団体が行っていた不服審査請求の答申が、2年9カ月かけて今年8月末、ようやく出たのだ。

 5人の有識者で構成される審査会の結論は、「不開示は妥当」というものだった。だが、この決定の陰には、官製談合のどす黒い噂がつきまとっていた。昨年5月、開示された入札調書で黒塗りされていた会社名について、内部告発と思われるリークが筆者のもとに寄せられた。もし開示されて、そのリーク内容が裏付けられれば、官製談合の犯罪を市当局が自ら認めることになったはずだった。

 前編に続いて、公文書の黒塗り(一部開示)や不開示が相次いでいる和歌山市の不服審査請求についてレポートする。

 下の画像は、昨年5月に筆者のもとに寄せられた本件非開示に関するタレコミ(情報提供)である。

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 黒塗りされていた残り2社の社名を明らかにしたうえで、こう書かれている。

「この中でRIAは一番見積もりが高かったらしいが、南海で他社2社より低くなるよう交渉を行ったらしい」

「黒塗りの選定理由2行は、その経緯が書かれている。南海が知っていると思う」

 開札してみたら“RIAが一番見積もりが高かった”ので、“低くなるよう交渉”して、RIAが落札できるようにしたというのだから、もしこれが事実なら、不正な落札が行われたことになる。

 しかもこの事実を、再開発事業で南海電鉄と一緒に調整会議を行っていた和歌山市と和歌山県も知っていたとしたら、「一民間企業の不正行為」というだけでは済まない。再開発に巨額の補助金を出して公共施設の建設まで委託しているのだから、自治体も全面的に関与した官製談合であった疑いも出てくる。

 筆者は昨年12月、審査請求を行っていた市民団体に対して、この“爆弾情報”の内容を、審査会に提出する反論書にも盛り込むべきと助言した。その反論書が以下である。

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 この記載をするにあたって筆者は、RIAと南海電鉄も含めた関係4社の広報担当者に連絡をした。当該文書に社名が記載される旨を伝えたうえで、「もしこの内容が事実と異なるようであれば連絡してほしい」と伝えたが、現時点までどこからも反論はない。

 8月27日に出た審査会の答申に戻ろう。答申書には、南海電鉄の競争上の利益や応札企業等との信頼関係には言及しているものの、結局、市民団体が問題視している談合疑惑については一言も触れていない。

 市民団体の反論書の末尾にも書かれているように、もし和歌山市が官製談合の疑惑を晴らそうと思えば、南海電鉄から報告を受けたであろう落札調書の黒塗り部分を堂々と開示すればよいだけのことである。不正行為が行われていなければ、一瞬で疑惑は晴れたはずだ。だが、それを開示しない以上、官製談合疑惑は晴れないままだ。審査会は、ただ実施機関である市の言い分を鵜呑みにして「妥当である」としたにすぎない。

 この和歌山市が出した審査会の結果を、果たして専門家はどのようにみるのだろうか。

 東京・中野区などで情報公開・個人情報保護審査会の委員(過去に神奈川県平塚市では審査会会長)を務めた神奈川大学法学部の幸田雅治教授(行政法)は、和歌山市の対応を次のように批判する。

「まず、今回の市民団体による開示請求に対する和歌山市の非開示については、はなはだ不適切だと思います。開示請求があったら、市民が自治体の判断の公正性を的確に判断することができるように開示しなければなりません。企業秘密等で開示できないという場合ももちろんありえますが、それはかなり特殊なケースです。たとえば、製造ラインの組み立て方が独自ノウハウにあたるときなどです。これは市民が判断する判断材料とはあまり関係がないので、開示する必要がない。そうした特殊なケースを除いて、すべて開示するべきです」

 また、市民の不服審査請求に対して、異様に時間をかけている和歌山市の対応は「違法の可能性がある」と指摘する。

「不服審査請求から、実施機関が弁明書を出すまでに1年7カ月かかっているというのは、とんでもなく非常識です。審査請求があったら、弁明書は可能な限り速やかに出して審査会の審査を適正に行うというのが行政に求められている義務です。したがって、いくら条例で弁明書提出までの期限が定められていないとはいえ、審査対象がよっぽど膨大な枚数でもない限り、必要以上に引き延ばすということは、違法の可能性が高いといえます」

 審査会の委員として実務も数多くこなす幸田教授によれば、審査請求を受けた自治体は、その次に開催される審査会までに弁明書を提出し、特別な事情がない限り、そこから最長でも半年程度で答申を出すのが一般的だという。

 ところが今回のケースでは、2019年3月に市民団体が審査請求をしてから1年7カ月後に弁明書が出るまでに、和歌山市で情報公開審査会は少なくとも10回以上開催されていたことが判明。その間、本件は議題にすら上っていない。これでは「意図的に放置していたのではないか」と非難されても仕方がないだろう。

水道橋の配管崩落、一方で再開発には湯水のごとく税金投入

 そこで筆者は、本件の実施機関である和歌山市都市再生課の担当者に、改めてこの件を問い質した。

――19年3月に審査請求をしてから弁明書が出てくるまで1年7カ月もかかっているのは、ただ何もしないで放置していただけではないか。違法だという専門家もいるが。

都市再生 いや、放置していたというわけではない。

――どういう事情があったのか。

都市再生 それは、ここでは申し上げられない。

――放置していないのならば、その間に部内で検討や会議をしていたということになるので、その事情説明の証拠になる議事録やメモは残っているのか。

都市再生 それは調べてみないとわからない。

――審査請求をした市民団体が、弁明書の内容を検討した議事録やメモを開示請求したら、開示するのか。

都市再生 それは開示請求を受けてから詳しく検討する

――またそれについても、じっくり時間をかけて検討するのか?

都市再生 ……(ノーコメント)

 CCCが運営する、全国で6番目の“ツタヤ図書館”となった新和歌山市民図書館は、昨年6月にグランドオープンを迎え、今年9月には来館者が100万人を突破したと地元紙が報じている。

 だが、この事業には湯水のごとく公金が投入されていて、そのプロセスが不透明であることを報じるメディアはどこにもない。

 筆者は、独自に開示請求した公文書を基に、和歌山市が今回の再開発事業において、南海電鉄に支払った補助金を計算してみた。すると、総額で68億円にも上ることが判明した。国や県から南海電鉄に出る補助金(国32億円、県14億円の計画)も、なぜか和歌山市がその分を先に立て替えて払うという異例の措置をとっていたためだということが、のちに判明した。

 なお、和歌山市が完成後に南海から買い取った新図書館の建築費用30億円は、この68億円には含まれていないという。このプロジェクトに、いったいいくらの公金が使われたのか、総額すら詳細にわかっていない。それなのに、情報開示の黒塗りだけが第三者である審査会によって「妥当である」と判定されたのである。

 和歌山市では10月3日、紀の川にかかる水道橋の配管が突然崩落して、最大でおよそ市内6万戸が断水したと報じられている。駅前再開発には巨額の公金が使われる一方で、水道等のインフラ補修には金をかけずにおろそかになっているのではないか、市長は金の使い方は間違っている、との批判が絶えない。

 和歌山市民は、こんな和歌山市の行政を信頼できるのだろうか。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

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日向咲嗣ブログ・ほぼ月刊ツタヤ図書館  2021年8月27日金曜日 和歌山市が南海電鉄に払った5年間の補助金を集計(2)より

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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