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吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」

東京都医師会・尾﨑治夫会長、国のコロナ対策に不満…「役目を果たしていない」

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
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東京都医師会会長・尾﨑治夫医師

 1日当たりの新規感染者数が東京都で5000人、全国で2万人を超える日も続き“感染爆発”となった第5波が収束し、落ち着きつつある現在。沖縄県を除く全域で飲食店への営業時間短縮の要請が解除され、街は活気を取り戻している。その一方で第6波の襲来も懸念されており、引き続き感染対策を行うことは必須である。第5波までのコロナとの戦いから何を教訓とし、今後に備えるべきか。常に国民の先頭に立ち続けた東京都医師会の尾﨑治夫会長に話を聞いた。

 これまで医師会は「縁の下の力持ち」といった存在だったが、コロナ禍に医師会が国民を守るため尽力し、大きく注目を浴びた。なかでも尾﨑医師の発言は大きな影響力を放った。

「新型コロナウイルスの感染が広がり始めた当初、医師会は従来通りの活動をしていましたが、感染が拡大するにつれて国民へ強く伝えることが重要と考え、フェイスブックなどのSNSでメッセージを発信したところ、国民からの反響も大きく、マスコミにも多数、取り上げられました」

 第1波が広がる最中の昨年4月5日、尾﨑医師は自身のフェイスブックに「尾﨑会長より都民のみなさまへのお願い」と題したメッセージを投稿し、各々が6週間の自粛を徹底できれば、感染拡大は阻止できると強く訴えた。また、尾﨑医師はメッセージの中で「医師会独自の緊急事態宣言」を出すことも明らかにした。尾崎医師の本気のメッセージは多くの国民に届き、約3万8000件もシェアされた。その甲斐あって6週間後、第1波は見事に収束した。

 しかしながら、第1波でのステイホームの反動もあってか、6月には夜の街での感染が増え始め、瞬く間に第2波が拡大した。

「7月には『新型コロナウイルスに夏休みはない』と訴え、すぐに国会を召集して特措法を改正することなどを国へ求めました。しかし、実際に改正されたのは今年2月。医師会が必要だと訴えた時期と、国が動いた時期には半年のズレがあるわけです。これでは国が役目を果たしていない。そう感じることは、幾度となくありました」

 第2波は8月をピークに感染者は減少したが、500人前後を推移するにとどまり、いつ再拡大してもおかしくない状況だった。そして10月後半からジワジワと感染者が増え、第3波となった。

「10月1日から東京都でもGoToトラベルキャンペーンが始まりましたが、その数週間後ぐらいから感染が再び広がった印象がありました。そこで、11月20日にキャンペーンの中止を提言しました。しかし、キャンペーンが中止されたのは12月28日で、その間に感染者は増加しており、もっと迅速な対応が必要だったと思います」

 GoToキャンペーンが中止された時点で、すでに感染者は増加して第3波の中での年越しとなり、今年1月8日から1都8県に2度目となる緊急事態宣言が発令された。その後、かろうじて新規感染者が減少したのも束の間、3月下旬から再び、新規感染が増え始めた。

「政府が本格的に東京五輪の準備を進める中、4月13日に東京都医師会として緊急記者会見を行い、第4波に入っていることを断言しました。東京五輪・パラリンピック開催について、厳しい状況であることも強く述べました」

 第4波では、医療体制の不備が見え始め、大阪では自宅療養での死亡者が出るなど事態は深刻な状況となった。そして政府は4月25日、3回目となる緊急事態宣言を東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に発出した。

「3回目の緊急事態宣言は6月20日まで延長され、人流を抑制した効果はあったと思います。しかし、本来であれば東京五輪の開催へ向けて、もっと早い段階でワクチン接種を行うべきでした。少なくともあと2カ月は早くワクチン接種を行うべきだったと思います。これも政府の認識の甘さだと感じています」

 東京五輪開催によって感染が広がるのではないかとの不安を、多くの人が抱いていただろう。その不安が的中するように第5波が広がった。そして第5波では、感染力の強いデルタ株により、都内の新規感染者数は5000人を超える日もあった。

「変異株の出現によって、想像以上に新規感染者数が増加し、多くの地域で医療崩壊が起きました。まさに有事であり、国として有事に対応できる体制ができていなかったことは明らかです」

 第5波では、多くの病院で新型コロナウイルス感染者の受け入れができないほど感染者が増加し、東京都内では昼夜問わず救急車のサイレンが鳴り響いた。一時はロックダウンが必要ではないかといわれた第5波も現在は、落ち着きを見せている。最近では、東京での新規感染者数は連日50人を下回り、尾﨑医師もホッと胸を撫で下ろしている。

「本来の司令塔がいないということがすべての混乱の元だったと思います。しかし、日本の感染者数、死亡者数は、先進国のなかでは非常に少ない。これは、もともと日本人がマスクや手洗いなどの習慣があったこと、国民の感染症に対する意識の高さが功を奏したと思います。また、高齢者を敬う国民性があり、重症化リスクが高い高齢者を守る行動を取れた人が多かったこと。皆保険制度によって子供から高齢者まで医療へのアクセスが良いことが、そういった結果につながっていると思います」

有事への準備不足

「平時では諸外国に比べ、日本の医療体制は優れているといえますが、第4~5波で、有事に対する現在の日本の医療体制の不備が明らかになりました。それは国の責任でもあると思います」

 有事への備えができていないなかで新型コロナウイルスの感染拡大が起きたがゆえに、医療崩壊を招いた。

「2025年ごろには団塊の世代が全員75歳以上となり、その先、2040年までは超高齢社会が続きます。そこへ向けた地域医療構想のなか、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される“地域包括ケアシステム”というものを構築してきました。その地域包括ケアシステムにおいては、『急性期病院』は多く必要ないと考えており、回復期のリハビリ病院のような高齢者向けの病院を増やしていました。そこに新型コロナウイルスの感染拡大が起きたことが、医療崩壊を招いた一因であると思います」

 地域医療構想では、国は2025年までに高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの医療機能ごとに、将来の医療需要に対応できる病床を備え、機能分化と連携を実現する取り組みを進めていた。有事の際には、急性期病床を転換し使用することが望まれる。

「有事の際には感染症の蔓延などが起きる可能性があり、それらの病床を感染症病棟にいつでも転換できる仕組みを国が構築していませんでした。医師会だけの力で急性期病院をフルに動かせるような仕組みをつくることは難しいです。なぜなら、全国で8割、東京で9割の病院は民間病院であり、医師会は強制力を持ちません。医療崩壊に対しては医師会を責める声もありましたが、新興・再興感染症対策は国防ですから、責められるべきは国です」

 後藤茂之厚生労働相は10月18日、国立病院機構法などに基づき、全国の公的病院約200施設に対して病床確保を要求したことを明らかにした。これにより、全国の病床は2割増となる見込みだ。

「こういったことは、もっと早くできたはずです。昨年の宿泊療養のときも、東京都と我々が進めたいといっても、厚生労働省は1カ月もダメだといって開始が遅れました。第1波から振り返っても、我々医師会は現場でできる限りのことをしてきましたが、国の判断が遅いことが多かった。国は、もっとしっかりするべきです」

指定感染症か5類感染症か

 第5波が収束した現在、「コロナは指定感染症か、5類感染症相当か」という論議が持ち上がっている。

「たとえば、2類感染症のひとつである『結核』は、潜伏期間から発症までが半年~1年と長いため、感染者を隔離し、濃厚接触者を追って適切な対処を行い、感染を押さえ込むことも可能です。しかし、新型コロナウイルスは感染力が強く、感染が広がるのが早く、結核などとはまったく異なり、5類感染症として管理するのが難しいのは確かです」

 新型コロナワクチンの接種率が、1回接種76.1%、2回接種は68.6%(10月21日首相官邸発表)となり、治療薬も開発され、5類感染症相当に見直される可能性はあるのだろうか。

「第5波も収束し、そういった国民の期待というか希望があるようですが、実際のところは時期尚早だと思います。その理由は大きく2つあり、ひとつは死亡率です。インフルエンザの死亡率は0.1%ですが、新型コロナウイルスは、世界で2%、日本で1%です。死亡率が現在の10分の1になることが望まれます。

 もうひとつは、医療費の問題です。現在、治療費は公費であり個人での支払いは発生しませんが、保険診療で3割負担となれば、ほとんどは高額医療となってしまいます。指定感染症と5類感染症の間に、コロナのための分類があってもいいのかもしれません」

 さらに、治療薬が広がることも必要だという。

「5類相当となった場合には、重症化を防ぐ治療薬が必要です。現在、抗体カクテル療法が実用化されていますが、重症化リスクがある患者への投与のみです。5類相当にするには、PCR検査や抗原検査で陽性となった患者さんが、自分で服用できる飲み薬が普及していることが必要です」

イベルメクチン

 現在、複数の製薬会社で治療薬の開発が競って行われている。イベルメクチンもそのひとつであり、尾﨑医師は、その効果に注目している。

「すでに尼崎市の長尾和宏医師など、その効果を報告している医師が多くいます。現在、興和株式会社では、イベルメクチンの治験中です。イベルメクチンをめぐっては、さまざまな報道がありますが、副作用も少なく効果が期待できる薬だと思っています」

 2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した北里大学の大村智特別栄誉教授と米国Merck社の共同研究で創製された抗寄生虫薬であるイベルメクチンは、新型コロナ治療薬としてその効果が報告されている。一方で、個人輸入により購入して服用し、副作用が出たという報道もある。

個人輸入により購入した薬は、その信頼性も疑われますし、家畜用も出回っており、質の問題はもちろん、量も適切でなければ危険です。質の高い医療用のイベルメクチンは、副作用も少なく安全で、かつ効果が期待できますし、ほかの治療薬との併用も可能です。ほかの治療薬に比べて安価なことも優れた点です」

 興和株式会社は、イベルメクチンの原末を仕入れ、需要を満たすために、すでに製造に備えているという。イベルメクチンの治験が迅速に進むことを期待したい。

第6波への備え

 現在はワクチン接種も治療法も進みつつあり、これまでの新型コロナとの戦いとは大きく異なる。また、コロナ専門病院や公的病院での病床確保など、第6波への備えは万全に近づいている。

「ワクチンについては、12月頃から医療従事者からブースター接種が始まります。2回接種では、抗体価が低下し、ブレイクスルー感染も報告されていますので、3回目のブースター接種は必要です」

 飲食店では、通常営業が行われるようになり、ハロウィンや年末年始のイベントでの感染拡大が懸念されるが、尾﨑医師はリスク回避が大事だと話す。

「第5波までの経験から、マスクや消毒、3密回避などが習慣となり、日本人の国民性から考えると、今後も個人での感染対策をしてくださると信じています。しかし、イベントや飲食など、人が集まる際は、事前に抗原検査を行いリスクを最小限にして開催するなど、ガイドラインをつくることも必要だと考えています」

 新型コロナウイルスに我々が完全勝利する日が、いつ訪れるかはわからない。しかし、その日は確実に近づいていると感じる。

「新型コロナウイルスが終息したとしても、それで終わりではありません。コロナ後遺症を訴える人も多く、そのケアもあります。また、感染症についての教育も学校教育に取り入れていきます。今回のような事態に備え、使命感を持ったかかりつけ医の普及も課題です。医師会は、国民の健康を守るため、最善の努力を続けていきます」

「人生を支える医療を目指す」という理念を掲げる東京都医師会。尾﨑医師の言葉には、国民の健康を願う熱い思いが溢れていた。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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