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白井美由里「消費者行動のインサイト」

商品の効果持続時間が50%長いor53%長い、どちらか消費者から信用を得られる?

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部
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「Getty Images」より

 数字は様々な製品やサービスの説明に使われています。「果汁をふんだんに使用」などの文字情報よりも、数字を含む「果汁80%」のほうが伝えやすいですし、受け手も理解しやすくなります。数字は客観的ですが、表現の違いで受け手の感じ方に影響を与えることがあります。消費者行動研究では、そうした表現と消費者の判断の関係を分析しています。今回はそれらの中で、キリの良い数字と細かい数字を比較した研究を紹介したいと思います。

1年と365日の感じ方は異なる

 1年と365日はまったく同じ長さですが、365日のほうが詳しく、より正確に感じられる傾向にあります。この現象は、マーケティング研究者のザングとシュワルツ(2012)が発見したもので、「詳細効果(granularity effect)といいます【註1】。ザングらはこの効果を実証するために、自動車の修理にかかる時間を「30日」、あるいは「1カ月」として被験者に提示し、修理完了日が予定よりも早まると思う日数と遅延すると思う日数を回答してもらう実験を行いました。結果は、早期完了も遅延も予想日数は30日のほうが短くなりました。細かい数字である30日のほうがより正確に感じられ、予定日からのズレが小さくなったのです。正確な情報を出しているという印象を受け手に与えたいのであれば、細かい数字を用いたほうがよいということになります。

 ザングらは他にも実験を行っており、最先端技術を搭載した新車の発売時期を「2年以内」、または「104週間以内」とした記事を被験者に読んでもらい、発売時期が遅れると思う月数を回答してもらったところ、104週のほうが遅延は短く、予定通りに発売される可能性が高いと予想されたことを確認しています。さらに、GPSデバイスのバッテリー駆動時間を「2時間まで」、あるいは「120分まで」と提示し、実際の駆動時間を予想してもらう実験においても、120分のほうが提示時間に近く、駆動時間をより長く感じたことも明らかにしています。

ほぼ同じ大きさのキリの良い数字と細かい数字でも感じ方はかなり異なる

 数字にはよく使われるものとそうでないものがあり、よく使われる数字は鮮明に記憶され、頭に浮かびやすくなります。シンドラーとヤルチらマーケティング研究者によると、10や20などのキリの良い数字は、「10枚ぐらい」「20人ぐらい」のように、定かではない数量を表現するときによく使われるため、数の推定に使うものとして記憶されています【註2】。

 したがって、人は「部屋に100人いる」と聞くと、それはだいたいの数であって、実際は100人前後いると思い、「部屋に106人いる」と聞くと、しっかり数えたのだなと思う傾向にあるのです。本当に100人いることを伝えたいのであれば、「部屋にちょうど100人いる」「部屋にいるのはきっかり100人だ」のように、「ちょうど」や「きっかり」などの語彙を足さないと、概算ではないことが相手に伝わりにくいのです。

 このことからシンドラーらは、だいたいの数を表すのに使う100のようなキリの良い数字よりも、106のような細かい数字のほうが、消費者により客観的で事実に基づき正確であると受け取られると考えました。

 この考えを確認するために行った実験は次の通りです。デオドラント(制汗剤)の広告を作成し、他のブランドと比較したときの効果の持続時間が「47%長い」、「50%長い」、あるいは「53%長い」というメッセージを付けて被験者に提示し、そのメッセージに対する正確さ(正確である、科学的根拠に基づいている、詳しい、の3項目で測定)を評価してもらいました。その結果、正確さの評価は47%と53%では差がなく、かつそれらは50%よりも高くなりました。細かい数字のほうがキリの良い数字よりも、数字の信憑性が高く感じられることがわかります。

 同様の研究は、シェとクロンロッドらマーケティング研究者たちも行っています。エコカーの広告で、CO2排出量を「10%削減」、あるいは「10.2%削減」と表示した場合、広告に疑いがなければ、10.2%という細かい数字を提示したほうがその自動車メーカーをより有能に感じることを実証しています【註3】。

消費者が効果を予想する場合には、キリの良い数字のほうが効果的

 以上の研究は、細かい数字を用いたほうがキリの良い数字を用いるよりも望ましいということを示しています。しかし、キリの良い数字にも良い点があります。それは、製品のベネフィットがどれだけ持続するのかがはっきりしないときです。これを実証したのはペナ=マリンとバルガバです【註4】。

 ペナ=マリンらは、エナジードリンクのカフェイン含有量を「100mg」、あるいは「102mg」と表示し、被験者にカフェインのポジティブな効果(覚醒作用など)がどれだけ持続するかを予想してもらう実験を行いました。その結果、100というキリの良い数字で表示したほうが、ポジティブな効果がより長く続くと感じられました。「200mg」と「203mg」でも同じ結果が得られています。予想する持続時間が長くなるほど製品態度も向上することも確認しているので、持続時間と関係するベネフィットを示すときには、キリの良い数字のほうが望ましいということになります。

 なぜ細かい数字のほうが持続時間を短く感じるのでしょうか。ペナ=マリンらによると、それは、細かい数字はより具体的という印象を与えますが、同時に具体性なモノは時間が経つと変わりやすいと感じるからなのです。彼らは、キリの良い数字が「安定性」や「耐久性」と意味的に関連することも確認しています。つまり、キリの良い数字を見ると「安定性」が意識され、それが持続時間を長く感じさせるという仕組みなのです。

キリの良い数字を使うか、細かい数字を使うかの判断は重要

 以上の研究から、消費者に伝える情報に用いる数字については注意が必要といえます。意味的に同じであったり違いがわずかであったりしても、キリの良い数字と細かい数字では消費者に与える印象が異なります。消費者は、製品やサービスに関する情報に細かい数字を提示する企業に対しては、信頼できる情報を出している、知識が高い、能力が高いといったポジティブな印象を、キリの良い数字を提示する企業に対しては、意図的に曖昧にしている、約束を守れないといったネガティブな印象を持つ可能性があるのです【註2、註3】。

 ただし、エナジードリンクのように製品ベネフィットの持続時間が重視される製品においては、その根拠となる製品属性についてはキリの良い数字を示したほうが、その製品をより有用に感じさせる可能性が高まります。情報のタイプにも注意を払う必要があります。この現象は、マウスウォッシュの口臭を抑える効果、頭痛薬の痛みを抑える効果、除菌スプレーの除菌効果、クリーナーの防汚効果などについても当てはまると考えられます。

(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部)

【参考文献】

【註1】Schindler, R. M. and R. F. Yalch (2006), “It seems factual, but is it? Effects of using sharp versus round numbers in advertising claims,” Advances in Consumer Research, 33, pp.586-590.

【註2】Zhang, Y. C. and N. Schwarz (2012), “How and why 1 year differs from 365 days: A conversational logic analysis of inferences from the granularity of quantitative expressions,” Journal of Consumer Research, 39 (2), pp. 248-259.

【註3】Xie, G. and A. Kronrod (2012), “Is the devil in the details?” Journal of Advertising, 41 (4), pp. 248-259.

【註4】Pena-Marin, J. and R. Bhargave (2016), “Lasting performance: Round numbers activate associations of stability and increase perceived length of product benefits,” Journal of Consumer Psychology, 26 (3), pp. 410-416.

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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