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長谷十三「言わぬが花、をあえて言う。」

医療崩壊の元凶「コロナ=2類相当」を見直せない岸田首相と日本医師会の利害関係

文=長谷十三
医療崩壊の元凶「コロナ=2類相当」を見直せない岸田首相と日本医師会の利害関係の画像1
日本医師会のHPより

 新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の急激な感染者増を受けて、いよいよ「指定感染症2類相当の引き下げ」が必要だという声があがってきた。

 欧米に比べてケタ違いにコロナの感染者・重症者が少ない日本で、欧米ではほとんど聞かれることのない「医療崩壊」という現象が起きるのは、他国では自宅で寝ているだけの軽症者を大量に入院させていることに加えて、その患者を多くの個人経営病院で「設備と人員がない」と断っていることが大きい。

 この大混乱を招いている諸悪の根源が、新型コロナ感染症をSARSや鳥インフルエンザと同じ「指定感染症2類」相当の扱いにしていることだという指摘がある。「2類相当」という縛りがあるので、コロナの診療ができる医療機関は限定される。患者を受け入れる病院には補助金を出すという苦肉の策に出たが、これが「コロナ患者を受け入れます」と補助金をもらっておきながらも、「スタッフが足りない」などと言って誰も受け入れない「幽霊病床」という問題を招いた。これも根っこをたどれば、「2類相当」の弊害だ。

 また、「2類相当」のせいで、保健所職員がボロボロに痛めつけられた。このルールの下では、感染者は保健所がすべて把握して隔離などの指示、さらには条件を満たす医療機関への振り分けなどを行わなくてはいけない。当然、保健所は電話が鳴りっぱなしで、職員は朝から晩まで罵声を浴びせられる。

今が「5類」に引き下げるには格好のタイミング

 こういう「2類相当」由来の混乱を2年続けたことで、コロナ医療の現場はボロボロに疲弊した。そこで、さすがにワクチンと治療薬がそれなりに普及したら「季節性インフルエンザと同じ指定感染症5類相当の扱いにすべきだ」という意見が、医療界からも多く出ていた。

 そんなところにオミクロン株がやってきた。感染力は高いが重症化リスクは低いとされ、1日20万人の感染者が出ているイギリスなどは新たな規制もしていない。ワクチンを接種していれば季節性インフルエンザのようになっていく、という意見も多いのだ。

 それを示すように、日本でも感染者は爆発的に急増して17日には1日2万人を超えているが、重症者数は243人にとどまり、死者数も16日時点で4人(NHK調べ)と昨年12月とそれほど変わらない水準だ。しかし、「2類相当」という過剰な対応のせいで、医療現場には限界が近い。

 これを避けるにも、今が「5類」に引き下げるには格好のタイミングだ。日本維新の会代表の松井一郎大阪市長も協議すべきと主張している。しかし、それに強固に反対している人がいる。「聞く力」で支持率爆上がり中の岸田文雄首相だ。13日に報道陣から「2類相当」の見直しについて質問されて、このように返した。

「感染が急拡大しているなかで分類を変更することは現実的ではないのではないか」

「現実的ではない」のは岸田首相のほうだ。これから感染が急拡大するなかで「2類相当」を見直さないと、これまでの2年間と変わらず、保健所の電話やファックスがパンクして、一部の公立病院などに軽症・中等症の患者が押し寄せて、他の医療にも悪影響が出るのは目に見えている。

岸田首相が頑なに「2類相当」にこだわる理由

 では、これまでは「聞く力」を発揮して、「10万円給付」などの政策や方針を柔軟に変えてきた岸田首相が、なぜ「2類相当」に関しては、ガンコ親父のように聞く耳を持たないのか。その答えは今年早々、首相の地元である広島の医師会が公表した「2022年(令和4年)1月5日 広島県医師会速報(第2502号)」を読めばわかる。

「広島県医師会が強力にバックアップしてきた岸田文雄先生が 昨年10月4日、ついに悲願を達成し、第100代 総理大臣に就任されました」という書き出しに続いて、こんなことが書かれている。

<岸田総理は、衆議院厚生労働委員長や自民党政務調査会長などを歴任して社会保障政策に造詣が深く、医師会との良好な協力関係が期待できそうです>

<今般の全国の医師会の大きな関心事の一つは「2022年度診療報酬改定」です。政府は当初、財務省を中心にマイナス改定の姿勢でしたが、中川会長は全国の医療が壊れてしまう と危機感を募らせ、プラス改定を要請されました。全国の医療現場が直面する厳しい状況 を指摘する声が岸田総理の耳に届いたのか、 最終的に本体改定率はプラス0.43%とする方向で決着しました。まさに、最終決定権を握る 岸田総理の「聞く力」のおかげではないでしょうか>

 要するに、広島医師会が長くバックアップしてきた岸田氏が首相になってくれたお陰で、前政権が進めていた診療報酬マイナス改訂をひっくり返してくれたとベタ褒めなのだ。

 岸田首相と医師会の蜜月ぶりは、政治資金収支報告書からも見える。最新の2019年分を見てみれば、日本医師会のロビイング組織、日本医師連盟が2019年4月25日のパーティーで50万円、8月29日にも50万円、12月13日にも50万円、合計150万円のパーティー券を購入している。このような関係が19年以前から続いている。

「医師会との良好な協力関係」があることを踏まえれば、岸田首相が頑なに「2類相当」にこだわる理由が見えてくる。

日本医師会は経営者団体

 日本医師会を「医師の団体」と誤解している人も多いが、コロナ医療の現場で自分の命を削っている公立病院の勤務医のなかで医師会に入会しているのはわずか。日本医師会の令和2年度代議員370人のうち、勤務医はわずか48人(13%)となっており、開業医が圧倒的に多い。つまり、「経営者団体」なのだ。

 病院経営の観点では、コロナはいつまでも「2類相当」であることがありがたいことはいうまでもない。感染者をたくさん受け入れても病院はリスクがあるだけで、ちっとも儲からない。コロナ患者を門前払いにしつつ、診療も難しくない高齢者を大量に受け入れて、薬をたくさん出しながら、検査や入院を繰り返してもらうほうが病院は潤う。

 このように「2類相当」の継続を願う経営者の団体である日本医師会と「良好な協力関係」を築く岸田首相がどんな「コロナ対策」をするかは容易に想像できる。「今は感染拡大なので変更するのは難しい」などと煮えきらない態度をしながら、「2類相当」の引き下げをズルズルと先送りすることだ。

 夏の参院選で勝利して長期政権を狙う岸田首相にとっては、自民党最大の支持団体のひとつである日本医師会の機嫌をここで損ねるようなことはできないからだ。今回の第6波もこれまで同様、泣くのは現場の勤務医と看護師、そして自粛を求められる国民だ。2年経過しても結局、日本のコロナ医療は何も変わっていない。

(文=長谷十三)

長谷十三

長谷十三

フリーライター。政治・経済・企業・社会・メディアなど幅広い分野において取材・執筆活動を展開。

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