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電気料金、さらに高騰の懸念…ロシア、日本企業へ「サハリン2」撤退要求の衝撃

文=Business Journal編集部
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資源エネルギー庁のHPより

 日本の大手商社が出資する極東ロシアの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」について、ロシアのウォロジン下院議長は日本などの「非友好国」が権益も持っているのは望ましくないとし、ロシア国営ガスプロムなどに売却すべきだと主張した。

<下院のホームページによると、ウォロジン氏は日本、英国、オランダを名指したうえで、「サハリン2」で「巨大な利益を得ている」と批判した。ガスプロムや友好国の企業に株式を売却すべきだとも述べた>(5月25日付日本経済新聞電子版)

 ロシアは日米欧などの「非友好国」に対し、天然ガスを購入する際にルーブルでの支払いを求めるなど揺さぶりをかけてきたが、今回一歩踏み込んだ。「サハリン2」はロシア初のLNG(液化天然ガス)プロジェクトだ。ロシア国営ガスプロムが50%強(50%プラス1株)、英シェルが27.5%マイナス1株(約27.5%)、三井物産が12.5%、三菱商事が10%出資する。2009年にLNGの出荷を始めた。年1000万トンの生産量のうち約6割は日本向け。ロシアからLNG輸入量のほぼ全量にあたる。日本のLNGの全輸入量の約1割を占める。

「サハリン2」のLNGは日本の電力・ガス会社に長期契約で供給されており、コストは安定している。3日程度で日本の港に届く。中東産のLNGが運搬に2週間かかるのに比べると断然短い。これも大きなメリットだ。

 英シェルは「サハリン2」から撤退を表明し、中国企業に権益を売却する方向で交渉していると報じられたが、日本にとって「サハリン2」は「虎の子」の権益だ。ロシアは4月以降、東欧やドイツなどへの、パイプライン以外の天然ガスの供給を打ち切った。「サハリン2」でも急に輸出を止めると言い出す可能性はぬぐえない。

 日本政府は商社らとリスクを分析した。撤退なら代替分の多くをスポット市場で調達する必要があり、「2兆円近い追加コストが出る」(参画している大手商社のエネルギー担当役員)。当然、電力・ガス料金に跳ね返る。「サハリン2」から撤退すれば「権益を中国に取られる」(政府関係者)恐れが強い。

 日本はもともとLNGの輸入国だったが、2021年、中国が日本を抜いて輸入で第1位となった。発電用燃料として二酸化炭素の排出量が比較的少ないガスを増やし、石炭からの転換を進めているためだ。ロイター通信(5月26日)によるとシェルは「サハリン2」の権益について、インドの石油ガス公社(ONGC)の子会社や天然ガス供給大手ゲイルのコンソーシアム(企業連合)と売却交渉をしているという。

 インド政府は自国のエネルギー企業に欧州の石油メジャーからロシア資産(=権益)の購入を検討するよう要請している。インドはロシアに武器調達を依存するなど友好関係を築いている。「サハリン2」をめぐっては中国国有石油大手の中国海洋石油集団(CNOOC)が買収に関心を示している。「サハリン2」の権益は、英シェル・日本の商社から、インドと中国に移る可能性を内在しながら、嵐の前の静けさを保っている。

「サハリン1」には官民が出資

サハリン1」についても事情は同じだ。米エクソンモービルが撤退を表明している。原油輸入量の3.6%を占めるロシア産原油の約4割が「サハリン1」だ。サハリンの2つの事業(「サハリン1」「サハリン2」)は「短期的には安定供給優先、長期的には脱ロシア」(経産省幹部)の両睨みで臨む方針だ。

「サハリン1」は米エクソンモービルが30%の権益を持ち、SODECO(サハリン石油ガス開発)が同じく30%である。SODECOは経済産業省が50%出資、伊藤忠グループが16.29%、丸紅が12.35%%出資している。石油資源開発も15.28%、INPEX(旧国際石油開発帝石)が6.08%の資金を出している。

「サハリン1」は日本側の過半の株式を経産省が保有していることになるわけで、官民共同プロジェクトの色彩が濃い。結局、経産省がどうするかで決まる。「サハリン2」の三井物産、三菱商事と、「サハリン1」の伊藤忠などの立場は微妙に異なる。

 一方で、長期的な視点に立った撤退論もくすぶる。経済同友会の櫻田謙悟代表幹事は3月の会見で、「ロシアが国際法違反を繰り返しながら、何もなかったように取引をするのは考えられない」と述べた。国際協力銀行の前田匡史総裁(当時)も「日本だけが自国のエネルギー事情を言って、あたかも何もなかったように振る舞うのは違う。このまま同じように続けることはあり得ない」と、見直しは避けられないとの認識を示した。

三井物産が抱える「アークティック2」という爆弾

 三井物産は北極海に面したギダン半島の「アークティックLNGプロジェクト2」という爆弾を抱えている。ロシアの第2位のガス大手、ノバテクが北極圏ギダン半島に建設している年産2000万トンの巨大LNG計画で、LNG基地は2023年の稼働を目指している。「アークティック2」に三井物産は4500億円出資し、10%の権益を確保している。

 物産とともに参画を打診された三菱商事は「ロシアの新興企業のプロジェクトで危ない」(三菱商事の首脳)と判断して加わらなかった。先見の明があったことになる。物産が出資した4500億円のうち75%は経産省所管のJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が資金支援しており、物産の実質負担は1200億円程度にとどまるが、それでも巨大プロジェクトであることに変わりはない。

 ロシアに対する経済制裁や民間企業の撤退の影響は原油だけにとどまらない。「アークティックLNGプロジェクト2」のプラント建設を受注した仏テクニップエナジーズは4月、稼働時期の延期を示唆した。ドイツを拠点とするリンデンも液化技術を使った関連装置の輸出を停止した。

 同事業をもう少し詳しく見てみると、ロシアのガス大手、ノバテクが60%出資。仏トタルエナジーズが10%、三井物産と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が合計10%、中国勢が計20%を出資することになっている。

 三井物産は22年3月期にLNGなどで純資産の減額を806億円、減損損失を209億円計上した。「現時点では(ロシアから)撤退する考えはない」としながらも、決算上で計画の遅れに伴う損失を表面化させた格好だ。

株主総会では「サハリン」への言及少なく

 三菱商事などの株主総会で「サハリン」についてどういう説明があるのかという関心が集まったが、各社とも言葉少なだった。6月24日、伊藤忠商事の株主総会で石井敬太社長は、株主からの質問にこう答えた。「国家級プロジェクトとして日本政府を中心にコンソーシアムを作っている。政府の方針に基づいて行動、対応していく」。三菱商事、三井物産も事業を継続する方針は表明済み。三菱商事の株主総会ではサハリン事業について、特段の言及はなかった。

(文=Business Journal編集部)

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