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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

22年度、業績上方修正の業種予想…石油・石炭、電気・ガスは大幅増収

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

22年度、業績上方修正の業種予想…石油・石炭、電気・ガスは大幅増収の画像1

上方修正も増収減益計画は変わらず

 7月1日と4日に公表された6月短観の大企業調査は、5月下旬~6月下旬にかけて資本金10億円以上の大企業約1900社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。そこで本稿では、同調査を用いて、7月下旬から本格化する四半期決算発表で今年度業績計画の上方修正が見込まれる業種を予想してみたい。

 資料1は、6月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、22年度は下期にかけてプラス幅が縮小するものの、上期・下期とも上方修正となっている。

 一方、経常利益を見ると22年度上期は前回から上方修正となったものの、22年度下期は大幅下方修正になっている。このことから、企業は四半期決算発表で22年度の企業業績見通しを引き続き慎重に出してくることが予想される。

 つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は前年比で上方修正される一方、経常利益については引き続き減益計画になっているということである。特に、年度明け以降は電子部品デバイスのみならず、鉱工業全体の出荷在庫バランス(出荷前年比―在庫前年比)のマイナス幅が拡大しており、ロシアのウクライナ侵攻などで輸入原材料価格が高騰しているところに中国のロックダウンが重なったことから、景気循環的に厳しい状況にあることも慎重な収益計画の後ろ盾になっている可能性がある。

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売上高大幅上方修正の「石油・石炭」「その他輸送用機械」「電気・ガス」

 続いて、6月短観の売上高計画を基に、大幅上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。資料3は22年度の業種別売上高計画の前年比と修正率をまとめたものである。

 結果を見ると、22年度は「物品賃貸」と「小売」を除く全ての業種で増収計画となる中で、最大の上方修正率となっているのが製造業の「石油・石炭製品」で+17.1%である。それに続くのが「造船、重機、その他輸送機械」の同+12.7%、非製造業の「電気・ガス」で同+9.7%である。

 まず、「石油・石炭製品」や「電気・ガス」「鉄鋼」などについては、ロシアのウクライナ侵攻に伴う鉱物性燃料や金属の世界的な供給不足に伴う価格上昇や代替需要の増加が想定されている可能性が推察される。

 一方、「造船・重機、その他輸送用機械」や「生産用機械」などでは、中国ロックダウン解除などに伴う世界的な部品不足の緩和等により、供給の拡大を見込んでいることが推察される。従って、次の四半期決算における業績見通しでは、こうした業種に関連する企業について売上高計画がどの程度上方修正されるかが注目されよう。

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経常利益大幅上方修正期待は「運輸」「サービス」「生産用機械」

 続いて、6月短観の経常利益計画から大幅上方修正が期待される業種を見通してみよう(資料4)。結果を見ると、上方修正率が最も大きいのは新型コロナに対する国民の恐怖心低下や観光支援策再開等による経済正常化を期待する「運輸・郵便」「対個人サービス」や「宿泊・飲食サービス」となる。それに続くのが、中国のロックダウン解除に伴う供給増が期待される「生産用機械」や「繊維」となる。

 このように、次の四半期決算で経常利益見通しの上方修正が期待される業種としては、新型コロナに対する国民の恐怖心低下や観光支援策再開等よる経済正常化期待の恩恵を受けることが期待されるサービス関連産業に加えて、中国ロックダウンの解除の恩恵を受けやすい製造関連等が指摘できる。

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為替レートの変動で業績が修正される可能性も

 なお、6月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。資料5にて実際に今年度の想定為替レートを確認すると、大企業製造業における事業計画の前提となる想定為替レートはドル円で116.6円/ドル、ユーロ円で130.1円/ユーロとなっている。しかし、足元のドル円レートは130円台を大きく突破している。中でも、製造業で足元のドル円レートよりも特に円高で今期の為替レートを想定しているのが「宿泊・飲食サービス」の113.0円/ドル、「情報サービス」の114.9円/ドルとなっている。

 なお、輸入依存度の高い内需関連産業は円安でむしろ業績の下押し要因となる企業も含まれており注意が必要だが、特に輸出関連の製造業が116円/ドル台と円高気味の想定をしていることに注目すべきだろう。

 以上の結果を踏まえれば、今後はコロナの感染状況やロシアのウクライナ侵攻の動向、更には米国の景気後退懸念などに伴うリスクオフを通じて、各国中銀がこれまでよりも金融引き締めに後ろ向きな姿勢を示す等して為替レートの水準が円高方向に進まなければ、こうした今期の為替レートを円高方向に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることにも注目すべきだろう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

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永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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