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赤石晋一郎「ペンは書くほどに磨かれる」

東京五輪汚職、特捜部の狙いは自民党議員の逮捕か…高橋氏・AOKIルートは序章

文=赤石晋一郎/ジャーナリスト
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東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会のHPより

 8月17日、東京地検特捜部は、受託収賄の疑いで東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の元理事・高橋治之容疑者(78)を逮捕した。高橋氏は大会のスポンサー契約をめぐって紳士服大手AOKIホールディングスの前会長らから総額5100万円の賄賂を受け取っていたと特捜部は見ているという。高橋氏を受託収賄の疑いで、AOKI創業者の青木拡憲前会長ら3人は贈賄の疑いで逮捕された。

 にわかに緊迫してきた東京オリンピックをめぐる疑惑。このオリンピック汚職ともいえる事態をめぐり具体的な情報が浮上したのが7月20日頃だった。2017年秋以降、高橋氏は自身が代表を務めるコンサルティング会社「コモンズ」(東京)と大会スポンサーだったAOKIの間でコンサル契約を結び、AOKI側から金銭を受け取っていた疑いがあることを読売新聞などが報道。大会組織委の理事は「みなし公務員」とされており、職務に関する金品の受領を禁じられていた。こうした報道は特捜部の動きを察知した報道だったと思われる。

 すぐに事態は動く。7月26日には読売新聞が『五輪疑惑 刑事事件に発展 東京地検捜索 関係先 次々と』と報道。特捜部が同日、受託収賄容疑で組織委の高橋氏の自宅のほか、大手広告代理店・電通(東京)などの捜索に次々と入り、コモンズにも捜査が入ったことが明らかになった。

 高橋氏の疑惑は17年秋~21年の大会閉幕頃、コモンズを通じAOKI側から金銭を受領したというもの。高橋氏はこれとは別にAOKIから電通子会社を通じて計2億5000万円を受け取っていたという疑惑も浮上していた。

 高橋氏は電通の元専務であり、スポーツ界のフィクサーとして知られた人物。1944年生まれ。テレビ朝日取締役社長室長だった故高橋義治氏を父として生まれた。業界関係者のなかではバブル時代に名をはせたイ・アイ・イ・インターナショナル社長、高橋治則氏の兄としても知られていた。幼稚舎から中学、高校、大学と慶應育ち。法学部政治学科を卒業後、67年に電通入社、大阪の新聞雑誌局から万博後に開発事業局などを歴任し専務まで上り詰める。

 77年にペレ引退試合を担当したのを機に、アディダス元会長でスポーツ商業化の祖といわれるホルスト・ダスラー氏や、FIFA元会長のゼップ・ブラッター氏と親交を築いたといわれている。ちなみに今回の疑惑の舞台となったコモンズは、高橋氏が「たくさんの企業の顧問をする」という意味合いで名付けられたといわれており、その実態は“口利き会社”だと囁かれていた。

「外圧」と「国内疑惑」

 事件の全容を知るためには、大きく2つの流れを掴む必要がある。ひとつは「外圧」、もうひとつは「国内疑惑」の流れだ。

 大会招致をめぐっては、2016年に約2億3000万円のコンサルタント契約に関する買収疑惑が浮上し、フランス当局が捜査に乗り出していた。東京オリンピック招致委員会理事長だった日本オリンピック委員会(JOC)前会長の竹田恒和氏の名前が浮上し、19年1月には、フランス司法当局が竹田氏を贈賄の疑いで調べていることがわかっている。

 仏当局が描く構図は、招致委がシンガポールのコンサルティング会社ブラック・タイディングズ(BT)社に支払った約2億3000万円が、開催都市決定の投票権を持つ国際オリンピック委員会(IOC)側への贈賄に使われた疑いがあるというもの。さらにフランス当局は、国際捜査共助に基づき行った東京地検特捜部による竹田氏ら関係者の聴取について「限定的で欠陥が多い」と不満を持っていることが21年には明らかになっている。

 フランス当局の捜査に対して、JOCと竹田氏は疑惑を否定し徹底抗戦の構えを見せているが、フランス当局はいまだ捜査を続けているといわれている。なぜフランス当局が捜査に乗り出したのか。スポーツ紙記者がこう語る。

「1984年ロサンゼルス五輪以降、オリンピックの商業化の流れが決定的になり、同時に誘致合戦でも巨大な利権を確保するために金銭が飛び交うようになった。こうした流れはオリンピックを駄目にするものという危機感が、ヨーロッパ諸国ではあったとされ、2010年頃からオリンピック汚職に対する厳しい視線が注がれるようになったのです。そうしたなかで東京オリンピックの誘致活動がフランス当局に目を付けられたのです」

 20年にはロイター通信が、高橋治之氏が招致委から約9億円の資金を受け取ってロビー活動をしていたと報じた。東京オリンピック誘致をめぐる疑惑では、表の人物が竹田氏であり、その裏を仕切る人物が高橋氏であるという見方が広がっていた。高橋氏と竹田氏は慶應大学人脈でつながった昵懇の仲だった。

 海外当局の捜査や報道に対して東京地検も黙っていたわけではなく、国内の2ルートを追っていたとされている。

 その1つが「文春オンライン」が21年8月に報じた「ライザップルート」。内閣官房東京五輪・パラリンピック推進本部の平田竹男事務局長が、「RIZAP GOLF(ライザップゴルフ)」から計400万円以上のゴルフレッスンを無料で提供され、レッスンに公用車を使用していたという内容。平田事務局長は元通産省官僚でスポーツ分野にも精通しており、菅義偉元首相のブレーンの1人だった。ライザップは同推進本部が主導する認証事業「beyond2020マイベストプログラム」で第1弾認証事業に選出されており、利害関係があるとの疑惑が囁かれた。特捜部はライザップ、AOKIルートの2つを追っていたといわれており、そうしたなかでライザップルートが消え、AOKIルートが今回の捜査で浮上したようだ。

オリンピックと政治の闇に切り込めるか

 東京オリンピック疑惑は政治をも直撃した。8月10日に発足した岸田改造内閣。当初は9月だった予定を前倒しした理由は統一協会批判をかわすためといわれているが、その裏で永田町では8月9日頃からある情報が駆け巡っていた。岸田首相が内閣改造を急いだ最大の理由は、統一教会問題による支持率低下への対応ではなく、特捜部がオリンピック汚職で高橋治之氏周辺の自民党国会議員を逮捕しようとしている動きを察知したためだというのだ。怪文書ともいえるある情報はこう結論づけている。

「とにかく地検特捜部は電通という会社の膿を出させるために国会議員をやりたい」

 この情報を後押ししたのが、高橋氏の逮捕に執念を燃やしているのが東京地検ナンバー2の森本宏次席検事だという点だ。森本氏は剛腕で知られている検察庁の大物検事であり、特捜部長時代には日産のカルロス・ゴーン元会長、河井克行元法相と妻の案里氏らの事件を手掛け、政治に切り込む胆力がある人物との評判を持つ。

 東京オリンピックの政治的なキーマンが安倍晋三元首相と森喜朗氏であったことは間違いない。しかし、森氏は現職ではなく、安倍氏は不幸にも凶弾に倒れた。そこで高橋氏とつながる現職政治家がオリンピック汚職と何か関係があるのではないかと、実名まであげられて永田町ではちょっとした騒動になっているのだ。

 はたして特捜部は高橋氏と企業との単なる癒着問題に終わらず、オリンピックと政治の闇まで切り込むことができるのか、捜査の行方に注目が集まっている。

(文=赤石晋一郎/ジャーナリスト)

赤石晋一郎/ジャーナリスト

赤石晋一郎/ジャーナリスト

 南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。
 日韓関係、人物ルポ、政治・事件など幅広い分野の記事執筆を行う。著書に「韓国人韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」(小学館新書)、「完落ち 警視庁捜査一課『取調室』秘録」(文藝春秋)など。スクープの裏側を明かす「元文春記者チャンネル」YouTubeにて配信中

Note:赤石晋一郎

Twitter:@red0101a

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