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なぜ日本では核シェルターが普及しない?唯一の被爆国なのに保有率は驚異的な低さ

文=道明寺美清/ライター
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なぜ日本では核シェルターが普及しない?
左から石破茂氏、原田義昭氏、アンドリー・グレンコ氏、深月ユリア氏

 終戦から77年たち、戦後に生まれた人の人口が全体の8割を超えた現在の日本にとって、戦争は過去のものと考える人も少なくないだろう。しかし、日本は世界唯一の被爆国であり、周辺に各保有国が存在する現実を考えると、有事に備えるべきである。その一つとして注目されるのが、核シェルターである。8月21日、都内で開催された「ウクライナ戦争と核シェルターシンポジウム」を取材した。

 ジャーナリストの深月ユリア氏が司会を務めた「ウクライナ戦争と核シェルターシンポジウム」では、元防衛大臣の石破茂氏、元環境大臣の原田義昭氏、ウクライナの国際政治学者のアンドリー・グレンコ氏をパネラーに迎え、一般の参加者も集まり、活発な意見交換が行われた。世界では、いまだ戦争や内紛が起きている国があり、戦争は身近な恐怖である。

 海外諸国での核シェルターの普及率は、スイスとイスラエルで100%、ノルウェー98%、アメリカ82%、ロシア78%、イギリス67%である。日本は世界唯一の被爆国であるにもかかわらず、核シェルター保有率はわずか0.02%と圧倒的に低かったが、この数カ月で変化が起きているという。

「今年2月に勃発したウクライナ戦争で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が『核兵器の使用』を示唆したこともあり、核シェルターの需要が高まっているようです。核シェルターの販売数が10倍にもなったという会社もあります。しかしながら、これまでの販売数も年間で2~3機という低い数字ですので、核シェルターの普及を広めていく必要があると思います」(深月氏)

 現在、日本国内で販売される核シェルターは数百万〜1500万円であり、個人で購入できるのは、一部の富裕層と考えられる。一般家庭での普及を広めるには国の助成などが必要となるだろう。

「核シェルターは、 核のみならず地震・津波などの災害時にも有用なものです。国が核シェルターの普及に積極的になるべきですし、公共の核シェルターを各地域につくるべきだと考えています」(同)

地下鉄はシェルターにならない

 ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、ウクライナの首都キーウでロシア軍による爆撃から身を守るため地下鉄の駅に避難する市民の様子が報じられている。日本でも都市部には多くの地下鉄があり、核シェルターとしての転用に期待が高まるが、地下鉄を核シェルターとして利用するには、さまざまな装備が必要となるようだ。

「いざ爆撃されて地下鉄の駅に逃れても、水や食料もなく、トイレも医薬品もなく、発電機もない。換気装置が動いたままでは、生物化学兵器などが投下されれば皆、死んでしまいます。“地下鉄の駅があるから大丈夫”といった話にはならないのです。地下鉄の駅をシェルターにするためにはどういった設備が必要で、その工事にはどのくらいの期間がかかり、費用はいくらかといった論議が必要だということを10年言い続けていますが、国は絶対に出そうとしない。どうやって国民の命を守るかを考えるのが、政治家の役目だと私は思います」(石破氏)

 石破氏は、核シェルターの備えに消極的な国の対応に憤りと不信感をあらわにした。石破氏が指摘するように、地下鉄の駅を核シェルターとして利用する場合、放射能や煙から身を守る空気清浄機も必要となる。さらに、発電機をはじめ、食糧、水の備蓄、トイレなどの衛生管理、医薬品などの備えが必要となるため、現状での地下鉄の駅がそのまま核シェルターに利用できるわけではない。ウクライナ戦争が続く一方で、中国が台湾への圧力を強めて緊張が高まっており、台湾有事が起きれば、日本への影響も多大であることが想定できる。国は、核シェルターの普及を早急に進めるべきだろう。

「軍事バランスが崩れたときに、日本は非常に弱い。核なき世界は素晴らしいことであるが、本当に日本が核を持たないのであれば、ニュークリア・シェアリングで核を使うかどうかの決定権を持つべきだと考えます」(石破氏)

 ニュークリア・シェアリングとは「核共有」を意味し、核保有国が核兵器を同盟国(非核保有国)と共有する政策であり、東西冷戦時代に北大西洋条約機構(NATO)で旧ソ連の核兵器に対する抑止力として導入された。2022年時点で、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコがニュークリア・シェアリングを結んでいる。ウクライナ戦争勃発後、日本でもニュークリア・シェアリングについて論議されているが、今後も慎重にその必要性を検討すべきだろう。

ロシアの核兵器使用はあるのか?

 ウクライナでは戦争勃発から半年が過ぎ、現在も激しい攻防が続いているが、これまでもロシア・プーチン大統領は核兵器の使用をほのめかしている。日本のみならず国際社会全体で、ロシアが核兵器を使用する可能性について懸念が広がっているが、グレンコ氏は核使用の可能性は高いと話す。

「現段階では、プーチンは核兵器の使用を迷っている段階だと思います。しかし、もし、この戦争にロシアが敗北することがあれば、最後の手段として核兵器を使用する可能性はです。そして、プーチンが核を使うとすれば、1発では終わらないでしょう。戦争に負けそうとなったときに核兵器を1発や2発使用しても戦争の局面は変わらないため、何十発もの核兵器を使用する可能性もあります。そうなると世界の問題であり、そうなる前に世界はロシアの核攻撃に対してシミュレーションし、備えることが必要です」(グレンコ氏)

 ロシアが保有する核弾頭は5977個で米国を約550個上回り、世界最大の核兵器保有国である。核の恐怖はすぐ隣にあることを認知し、国が主体となって核シェルターの普及を進めていくべきだろう。

(文=道明寺美清/ライター)

道明寺美清/フリーライター

道明寺美清/フリーライター

薬剤師として26年間医療に関わった経験から医療ジャーナリスト、美容研究家としても活動。夕刊フジ、ビジネスジャーナル等で連載を持ち、ペンネーム / 道明寺美清でも多数執筆をこなす
道明寺美清オフィシャルブログ

Twitter:@eri_yoshizawa_

Instagram:@medical_journalist_erie

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