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ゆりやん脳損傷、ネトフリの危険撮影に医師「常軌を逸した所業」…無理なスケジュール

文=Business Journal編集部、協力=上昌広/血液内科医、医療ガバナンス研究所理事長
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ゆりやんレトリィバァのInstagramより

 元人気女子プロレスラー・ダンプ松本をモデルにするNetflix制作のドラマ『極悪女王』の撮影現場で、主演のお笑いタレント、ゆりやんレトリィバァが約100回にもおよび頭から落ちるシーンを撮り直し、脳を損傷して入院したと報じられている。27日付「文春オンライン」によれば、「ゆりやん」は役づくりのために体重を90kg以上に増量させていたという。

「ゆりやん」といえば2019年にはアメリカのオーディション番組『America’s Got Talent』に出演し、その“ぽっちゃりキャラ”を生かした強烈な芸で爆笑をかっさらうなど、自身の体型をネタに売れっ子芸人のポジションを獲得。だが、昨年には「太ってるのも飽きた」という理由で110kgだった体重を45kgも減量することに成功し、フィットネススポーツ誌「Woman’s SHAPE&Sports」の表紙を飾るなどして話題になった。

 31日付「FRIDAY DIGITAL」記事によれば、「ゆりやん」は65㎏まで落ちていた体重を役づくりのために93㎏まで増やしたといい、さらにクランクインの1カ月前になっても脚本が完成していなかったり、直前まで撮影スケジュールが決まらなかったりして、撮影における安全面への対策が不安視されていたという。

「『極悪女王』が何話まであるのかは分からないが、仮に全10話だとして、報道どおり撮影期間が7月から12月末までの6カ月だとすると、ドラマ撮影としては一般的といえる。脚本がクランクインの1カ月前になってもできていないというのも、あるといえばある話。だが、ただでさえドラマ撮影は連日にわたり早朝から深夜におよび、キャストやスタッフには重い負担がかかるのに加え、Netflix制作のドラマではふんだんに制作費が投入されることもあり撮影クルーは大所帯となり、スタッフも方々からの“寄せ集め”状態になりがちで、テレビの撮影現場とは何かと勝手が違い面も出てくる。『ゆりやん』も売れっ子なので他の仕事とのスケジュール調整もあるだろうから、その意味では、かなりスケジュールに無理が生じていたのは確かだろう。そうした色々な要因が重なり、結果として事故につながったのでは」(テレビ制作スタッフ)

過激なプロレスのシーンは撮りにくく

『極悪女王』はライオネス飛鳥役で剛力彩芽、長与千種役で唐田えりかが出演し、脚本とプロデュースを放送作家の鈴木おさむ氏、監督を白石和彌氏が務める。白石氏といえば、『凶悪』や『孤狼の血』などで見られるような過激な暴力描写に定評があるが、16年に出席した自身の作品『日本で一番悪い奴ら』のイベントで、綾野剛と矢吹春奈が事におよぶシーンについて「当初は台本になかった」ものの、現場で綾野から「監督、俺、したいっす」と提案を受けて演出を変更し、本番前に矢吹に対して「もしかしたら、先までいくかも」としか説明せずに撮影したと述懐。今年に入り映画界の性加害が相次ぎ発覚して問題視されるなか、この白石氏の行為がハラスメントに該当するのではと指摘されたことも記憶に新しい(白石氏は発言内容は事実ではなかったと説明)。

「白石和彌さんは、いわゆるパワハラ気質な監督ではないが、こだわりが強いので、100テイクかどうかは分からないが、欲しい絵が撮れるまで俳優に何度も撮り直しを求めるということはあるだろう。客観的に見れば『なぜ頭から落ちるような危険なシーンを何回も繰り返すのか』と思われるかもしれないが、現場ではスタッフもキャストも、とにかくより良いシーンを撮りたいと“入り込む”状態となってしまうので、正常な判断がしにくくなる。

 もちろん白石さんも『ゆりやんレトリィバァ』に何度も体が大丈夫かどうかを逐一確認しながらリテイクを重ねていたとは思うが、演者としては、いくら体が痛くても現場の空気的に『できません』とは言いづらいもの。主演女優という責任感を背負い、さらにお笑いという畑違いの世界から来ている『ゆりやん』であれば、なおさらだろう。

 撮影もかなり進んでいるということなので、今回の件を受けてさすがにお蔵入りということはないだろうが、今後は今まで以上に演者が怪我しないよう配慮しなければならず、遠慮が生じて過激なプロレスのシーンは撮りにくくなるのは否めない。プロレスものだけに、まさに見どころである格闘シーンで自粛を強いられるというのは、制作サイドとしては本当に悩ましいだろう」(映画制作スタッフ)

過剰な体重が衝突時の脳や頸部への負担を増加させる

 100回におよぶ頭からの落下行為について、プロレスラーのTAJIRIはTwitterに「プロ『だからこそ』こんな練習は絶対にやらないよ。少なくともオレの知る限りは」と投稿しているが、テレビ局関係者は、

「医療モノのドラマでは監修として医師が撮影現場に立ち会うが、『極悪女王』の現場にきちんと医師がついていたのかが気になる。あくまで“プロレスもの”なので、テレビの人間の感覚的には、医師を立ち会わせるというところまで配慮が回っていなかったとしても、おかしくはない」

という。医師で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏は次のように指摘する。

「プロレスは怪我のリスクが高い競技だ。三沢光晴選手をはじめ、鍛え抜かれたアスリートでさえ、これまでリング上の事故で命を落としている。まして、基本的なトレーニングを積んでいないゆりやんレトリィバァさんが、プロレス技をかけられれば、どのようなことが起こるか容易に想像がつく。

 今回、彼女が怪我を負ったことに関しては、急速な体重増加が影響していた可能性が高い。アスリートを対象に怪我と肥満の関係を調べた研究は多数存在する。例えば、1995年に米国のフロリダ州にある小児スポーツ医学センターの研究者は、高校生のサッカー選手を対象として、肥満と怪我の関係を調べ、90kg以上の肥満は怪我のリスクが2.5倍上昇すると報告している。ただ、これはトレーニングを積んだアスリートの話だ。

 一般人では、肥満が怪我をもたらすリスクはさらに高い。2014年、米アラバマ大学の研究チームが、自動車衝突における怪我と肥満の関係を調べたところ、肥満は自動車衝突の死亡リスクを1.6倍も高めたという。この研究は、怪我でなく、死亡のリスクを高めていることに注目すべきだ。過剰な体重が衝突時の脳や頸部への負担を増加させ、致命的な転帰をたどらせたのだろう。

 以上のような医学研究を知れば、今回の『ゆりやんレトリィバァ』さんへの対応は、常軌を逸した所業であることが分かる。企画・推進した人物は責任をとるべきである」

(文=Business Journal編集部、協力=上昌広/血液内科医、医療ガバナンス研究所理事長)

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