6月15~16日に開催された「ル・マン24時間レース」を制したのはトヨタ自動車だった。昨年の悲願達成に続く、2年連続の優勝である。
しかも、優勝した「♯8号(中嶋一貴/S・ブエミ/F・アロンソ組)」に続き、「♯7号(小林可夢偉/M・コンウェイ/J・ロペス組)」も2位を獲得した。トヨタとしては、投入した2台がワンツーフィニッシュ隊列でゴールするという、これ以上考えられない勝利を手にしたのである。
となれば、世間が沸き立つのも道理なのだが、どこか盛り上がりに欠けた。もちろんトヨタの優勝には一点の曇りもなく、他を寄せつけない堂々たる勝利だったが、誰もが祝福する勝ち方ではなかった。言ってみれば、“悲劇の勝利”だったのである。
ル・マン24時間レースは、世界耐久選手権全8戦(WEC)のひとつとして組み込まれている。だから、多くのドライバーはWECでのシリーズチャンピオンを目指しながら、ル・マン24時間レースを狙う。できれば、WECで年間王者になり、あわよくばル・マン24時間レースも制したいと考える。それがドライバー心理だ。
そんな状況で、トヨタの2人の日本人はル・マンを迎えた。中嶋がWEC世界選手権のポイントリーダーで最終戦のル・マン24時間レースにやってきていた。僚友・小林はWEC世界選手権ランキング2位である。
時にトヨタの参戦するLMP1クラスには、ワークス参戦チームはトヨタ1社だけであり、ハイブリッドを搭載するのもトヨタだけ。ポルシェやアウディが撤退した今となっては、資金力に長けたトヨタが圧倒的に有利な状況だ。ほかのマシンは資金力に劣るプライベーターである。興味の焦点は、トヨタが勝つか負けるかではなく、トヨタの「♯7」か「♯8」のどからが勝つかに注がれていたのだ。そこで世間は、こう希望した。
小林がル・マン24時間を制し、中嶋は2位でゴール。これによって、中嶋の世界選手権王者が決定する。一方、ル・マン24時間未勝利の小林は悲願を達成する。関係者全員が喜ぶ理想的な勝利のパターンは、「優勝・小林可夢偉、2位・中嶋一貴」だったのだ。
ちなみに、中嶋は昨年ル・マン24時間を制している。一方の小林は昨年のル・マン24時間予選で圧倒的な速さでポールポジションを獲得しておきながら、決勝では涙を飲んでいる。中嶋が人格者であることは論を待たないが、同情票は小林に集まっていた。