モスフードはハンバーガーをつくり置きせず、注文を受けてから調理する「アフターオーダー」が創業以来の営業方針。必然的に配膳まで時間がかかる。収益悪化で店員を減らした店では、さらに時間がかかるようになってしまった。
前出オーナーは「緑モスに改装したら売り上げが減って、店員を減らす羽目に。その結果、配膳までの時間がかかる、掃除が行き届かず店も汚れる、それでまた客が遠のく悪循環にはまった」と振り返る。もともと注文から配膳まで7分ほどかかっていたが、店員を減らした店ではこれが15分から20分になり、緑モスはもはやファストフード店ではなく「スローフード店」になっていた。
FC店離反が続出
商品開発も迷走した。緑モス改装に伴い、「付加価値の高いメニュー」として投入した1個1000円の高級ハンバーガー「匠味」。調理に手間がかかるため厨房が混乱、いずれの店も注文がピークとなる昼食時以外の限定販売にしたため、ほとんど売れなかった。
それに懲りた本部は、次に「低価格・高付加価値」を謳い文句にした500円前後のサイドメニュー「洋風ごはん」を投入。だが、ハンバーガーだけでもマクドナルドの9メニューに比べ21メニュー(当時)と数が多いモス。こちらも厨房が混乱。「洋風ごはん導入辞退」のFC店が続出した。
減り続ける客数に危機感を抱いたモスフードは、さらに「祖法に背く」愚挙も犯した。「値引きしない」という創業以来の営業方針に反し、「単品で50円、セットで100円値引き」のクーポン券を発行したのだ。それで客足はいったん戻ったが、クーポン券発行終了と共に客足がまた遠のいた。
どこまでも思い付きの販促策しか打ち出せない本部に見切りをつけ、モスフードとの契約を解消するFC店が続出。01年に1566店あったチェーン店は、09年に約1300店まで激減した。
V字回復のカギ
業績回復のきっかけは「真心と笑顔のサービス」という創業の原点回帰だった。場当たり的な販促策で疲弊した現場力を回復するため、同社は最初に覆面調査を実施した。本部社員総出で全国のチェーン店を客として回り、接客品質を徹底調査した。接客サービスが販促の基本だからだ。
同社の接客マニュアルは、チェーンストアとしては非常にシンプルで、店員の判断に任せる部分が多い。消費者個々の利用状況に合わせた、柔軟な接客をするためだ。しかし、マニュアルがシンプルということは、店員の接客がばらつくことでもある。この矛盾をいかに解決し、チェーン全体の接客品質を高めるかが覆面調査の目的だった。