アスクルは2008年5月期の経常利益98.1億円をピークに、19年5月期には45.2億円に低迷している。ヤフーはアスクルの株主総会2日前の7月31日、「上場企業のアスクルの経営の独立性を尊重することと、株主の議決権行使とは全く次元の異なる問題であり、岩田社長による主張は(中略)保身のために自身の社長続投を正当化しようとするものに他なりません」とする意見を公表している。
経営者にとって株主との友好な関係を築くことも重要な責務だ。かつて、米投資ファンド、サーベラスによる買収の脅威にさらされた西武ホールディングス(HD)は、サーベラスによる経営陣に対するネガティブ・キャンペーンの集中攻撃を受けた。経済誌や週刊誌はもとより、大手新聞までもがサーベラスの策略に乗り、西武HD経営陣の批判から誹謗中傷までを報道するなかで、西武HDの経営陣は「サーベラスとは友好な関係を維持しつつ、協議を続けている」と答え続け、サーベラスに対するコメントは一切せずに、株主との関係構築に配慮し続けた。
もしアスクル自らが、筆頭株主であるヤフーやその親会社のソフトバンク、SBGについてマスコミに対して“陰謀論”の類の話を流したとすれば、株主との良好な関係が構築できるはずはない。
経済産業省の外郭団体である独立行政法人経済産業研究所が15年にまとめた「社長交代と企業パフォーマンス:日米比較分析」では、「企業経営がパフォーマンス最大化ではなく、企業存続や資本を確保する目的で行われれば、投資リターンを求める株主の利益は損なわれる。更に、企業パフォーマンス最大化を優先しない企業経営は、資本や人材などの生産要素の非効率的な活用につながり、マクロの視点からも日本経済に負の効果をもたらす」としている。
今のアスクルが少数株主に対して実行すべき最重要課題は、株主との関係を悪化させることではなく、吉岡晃新社長の下で業績の回復を図り、経営基盤を安定させることだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)