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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

うますぎるハーゲンダッツ!材料はシンプルなのに、なぜ他社はマネできない?

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授

「ハーゲンダッツ・モーメント」――価値ある理念を貫く

 このように全社的に徹底した取り組みが実現している背景には、どのようなものがあるのでしょうか。筆者は「ハーゲンダッツ・モーメント」(至福の瞬間)に代表される理念に注目しています。

 ハーゲンダッツでは、「誰もがおいしいと感じることのできるアイスクリームは、本物の素材からしか生まれない」との認識が全社的レベルで浸透しており、栄養学的にも優れ、子供から大人まで安心して食することができる商品を提供するために、コストや生産性を考えれば合理的とはいえない部分があっても、徹底的にこだわっていくと宣言しています。こうした時間も手間もかかるアイスクリームづくりにより、ハーゲンダッツという商品にほかに代わるもののない絶対的な機能的価値を与えていると考えられます。

 このようなさまざまな取り組みは、ハーゲンダッツの核となる理念ともいえるハーゲンダッツ・モーメントを源泉としています。それは、食べた時にハーゲンダッツでしか味わえない至福の瞬間を届けることを意味しています。ハーゲンダッツ・モーメントを基礎として、商品企画から資材調達、生産、物流、販売、そして顧客の口で賞味されるまでビジネスプロセスが設計されています。とりわけアイスクリームにおいては、製品の特性上、常に安定した品質を顧客に届けるために、工場から出荷されたら終わりという管理ではなく、こうした顧客接点に至るまで、細心の注意を払う必要があるわけです。

 こうした価値ある理念の創造および具現化するための徹底した組織的取り組みは、アイスクリームという商品の枠を越え、多くの企業にとって参考になるのではないでしょうか。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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