24種類と6種類のジャム試食、多く売れるのはどっち?人はなぜそれを買うのか?
これら2パターンにおける「試食率」と「試食者の購買率」という結果を単純計算して、試食によって購買に至る割合を計算してみよう。品揃えを豊富にした24種類の試食コーナーにおける購買率は60%×3%で「通行人の1.8%」ということになる。逆に少ない6種類の品揃えでは、40%×30%で12%だ。
即ち購買につなげるために、豊富な品揃えをするよりも、少ない品揃えのほうがなんと6倍以上の効果をあげたことになるのだ。
実際の試食現場では24種類のジャムを目の前にした来店者たちの多くは、いくつものビンを手にとって眺めて検討したものの結局、元に戻して立ち去ったという。
買い手と売り手はすれ違っている
この実験からわかるように人は、あまりに選択肢が多すぎると、結局どれも選ぶことができなくなる。豊富な選択肢を目の前にしながら、何もしないということになる。売る側にとっては、困ったことだ。
選択肢を用意するには手間や時間がかかる。それにもかかわらずあえて選択の自由を提供し、好きな商品を選んで満足してもらうために行っているのだから、これらの努力が完全に裏目に出るわけだ。
しかし買い手は、意識的に決定を先送りしているわけではない。決定麻痺は無意識に起きるのである。決して売り手に無駄を生じさせようとしているわけではないのだ。つまり、売り手と買い手が、完全にすれ違っている状態なのだ。
このようなことが起きる原因は、買い手の心理に対して売り手が抱く誤解だ。それは「多くの選択肢を用意することは顧客のメリットである」という考え方だ。そこに誤りがあるのだ。
おそらく現代のように、あらゆる商品が市場に溢れる状態になる前には、買い手にとって選択できるのはありがたいことだったはずだ。自分の好きな色や形を選べる、またリーズナブルなタイプや高級なタイプから選択できる、などは単純に魅力だったのだ。その頃に通用した売り買いの常識は、今の時代では通じなくなりつつある。
ここで紹介した行動経済学には、新たな常識を示してくれる可能性がある。人間の不合理な選択や行動を解明することで、買い手の心理が見えてくるためだ。決定麻痺も、そのひとつである。
考えてみれば「買う」とは、これだけ商品が溢れているこの世の中で、たった一つの商品を選ぶという行動だ。理屈通りにはいかなくても無理はない。むしろ、どこかに不合理な要素がなければ起こり得ないものかもしれない。
そして、こうしている今、この瞬間にも、モノや情報は増え続けている。同時に買い手と売り手も、すれ違い続けている。不合理な人間の心理を知る必要性は高まる一方だ。
(文=橋本之克/アサツーディ・ケイ シニアプランニングディレクター)
『モノは感情に売れ!』 売ることは、最高に楽しいゲームだった。売れない人は「顧客の心理」を知らない。売れてる会社は感情に売る。行動経済学で解き明かす、一流企業のヒット戦略の裏側。 ・ナイキはあえて顧客にひと手間をかけさせる ・コカ・コーラは買う人と飲む人を狙い分ける ・ユニクロは値段のモノサシをすり込む ・エクセルシオールは自社ブランドをあえて使わない…etc 「秒速で買う」心理、「買わないことを損にする」方法から、「買いたい脳」の作り方まで、売るためのコツを紹介。シンクタンクと広告代理店で約600件の顧客獲得に携わってきたマーケティングプランナーが、行動経済学を使うとなぜ売れるのか、その効き目を解説する。 サラリーマンだって主婦だって、実は誰もが何かを売って生きている。ビジネスでも日常でも、心理がわかれば必ず売れる。全ての人を「売れる人」に変える一冊。