この数字は何を意味するのか。つまり、自動運転技術を磨くうえで、残念ながらというか、日本は最適な立地条件にあるということだ。
「自動運転が比較的容易にできる道路環境といえば、まず、アメリカのフリーウェイですね。日本の一般道が一番難しい。交通量が多いですし、道路に車両や人や自転車が混在していますからね」と、前出の日産の飯島氏もいう。
日本の複雑な道路事情が、自動運転技術を促進するとするならば、難易度の高い日本で自動運転技術を習熟させれば、世界のどこへいっても通用する高いレベルの自動運転技術を確立できることになる。
事実、そこに目をつけたのが、今回のモーターショーに出展したドイツの部品メーカー、コンチネンタルだ。コンチネンタル取締役のヘルムート・マッチ氏は、プレスブリーフィングの席上、日本で自動運転技術に力を入れる理由を次のように説明した。
「日本は、歩行者の数が多い。しかも、車道に歩行者や自転車が混在しています。それから、諸外国に比べて夜間の交通量も多い。加えて、日本での交通事故の死者は65歳以上が半数以上を占めています」
コンチネンタルは14年夏、高度自動運転技術を備えた実験車両が日本のナンバープレートを取得、同10月から公道での走行実験を開始した。「日本の公道における自動運転モードでの走行距離は、7000キロを超えました」と、マッチ氏は同席上、語った。
自動運転がもたらす大きな効果
自動運転の実現には、まださまざまなハードルがあるのは確かだ。例えば、自動運転車が事故を起こしたら、ドライバーとメーカーのどちらが責任をとるのか。また、現在の道路交通法や製造物責任法で対処できるのか。また、そもそも社会は自動運転をどこまで許容するのか。
しかし、自動運転が交通事故削減、交通渋滞緩和、環境負荷の軽減などにもたらす効果は小さくない。それに、日本が高齢社会に向かうなかで運転をあきらめざるを得なかった人が、自動運転車によって移動の自由を確保できるようになることは、自動車メーカーの大きな社会的使命といえる。
政府は20年の東京オリンピック・パラリンピックを目指して、17年までに公道での自動運転の実験が可能になるよう整備を進める方針を打ち出しており、自動運転をめぐる環境は揃ってきた。世界でも際立って急速に少子高齢化が進む日本は、かねてから“課題先進国”といわれているが、自動運転に関しても、まさしくフロントランナーとしての役割を担っているといえよう。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)