–企画自体の面白さもさることながら、他社とのコラボが目立っています。
中山 自分たちだけで完結するものではなく、他業界および他社とコラボするということに意味があります。例えば、アゲハは東京・新木場で開催されるクラブイベントという性質上、渋谷からシャトルバスに乗って行く人がほとんどでした。そのため、都心以外は千葉や茨城からの訪問者が多く、「都心西部エリアからの集客が弱い」というのがアゲハさんの課題でした。「ageHa TRAIN」は練馬駅から2日で約1000人を運んだわけで、いわゆるWin-Winのようなかたちになれたと思います。
また、通勤電車1編成を使ってダンス音楽の「EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)」を楽しむ試みは日本初だったのですが、こういった“トレンドに乗っている”取り組みをしていかないと業界内に刺激は生まれないし、ジリ貧になるだけでしょう。
実は住み心地のいい西武沿線
—西武鉄道は12年に創立100周年を迎えましたが、こういった節目も新たな動きのきっかけになったのでしょうか?
中山 13年3月から、初のテレビCMを放送しています。女優の吉高由里子さんを起用して「秩父さんぽ旅」をテーマにしていますが、それ以降、メインターゲットであるF1層(20~34歳の女性)の秩父訪問者が増えており、地元の旅館さんでは宿泊客数が150%増の月もあったとのお話しをうかがっています。また、地上波の情報番組やSNSで秩父が取り上げられる頻度も格段に増えてきました。
従来、鉄道会社はお客様のターゲットを絞るような施策に消極的だったのですが、CM効果でF1層に訴求できたことで、秩父という地域のイメージも少なからず変わったと思います。
そもそも、秩父は魅力的な場所で、箱根や日光のようなインパクトの大きい観光名所こそありませんが、行けば行くほど楽しみが見つかる土地です。秩父はかつてセメント産業が隆盛を極め、そこで働く人たちの“ソウルフード”だった、鮮度抜群のおいしい「豚ホルモン」が今も食べられます。
–もともと、西武沿線には秩父という自然に加え、プロ野球・埼玉西武ライオンズの本拠地である西武プリンスドーム、西武園ゆうえんちやとしまえんなどのレジャー施設もありますね。
中山 実は、背後に観光地(秩父・川越)を抱え、また横浜方面・豊洲方面と相互直通しているので、家族連れで住むには最適なエリアなんです。ただ、「西武鉄道=○○」といった“代名詞”がないように感じられます。
例えば、東急東横線や京王井の頭線、JR中央線沿線に住んでいる方々は「こんな暮らしをしたい」というビジョンがあり、その上で居住地を決めているような気がします。「住みたい街ランキング」などを見ても、西武沿線は上位に入っていません。そういった結果にも、もっと危機感を持たないといけないと思っています。
例えば、石神井公園という駅は、急行に乗れば池袋から10分で着きます。しかし、実際は「なんか遠そう」と“心理的距離感”を感じている人が多いのではないでしょうか。なじみを持ってもらうことで、そういった心の距離感を縮め、訪れる人を増やす。それが、さまざまな施策に共通する目的です。