シカゴ交響楽団員、年収1800万円でも不服?クラシックオーケストラの特殊なストライキ事情
オペラ劇場オーケストラのストライキで、伝説的なエピソードがあります。それは、イタリアのオペラの殿堂ミラノ・スカラ座で起こりました。理由は楽員の待遇改善、つまりは給与を上げろということですが、当時の音楽監督リッカルド・ムーティ氏は、空になったオーケストラピットにピアノを持ってきて、オーケストラ・パートをピアノで見事に弾きこなして上演を実現し、大絶賛を浴びました。そんなムーティ氏が現在、音楽監督をしているのは、世界三大オーケストラのひとつ、アメリカのシカゴ交響楽団です。そしてなんと今年、楽員により行われたストライキの際には、楽員側に立ったのです。
“一般楽員の基本給を毎年5%ずつ上げて、3年後に年収16万7000ドル(約1820万円)”という楽団の申し出をはねつけて、“毎年12.5%ずつ上げ、3年後に年収17万8000ドル(約1940万円)”という条件を楽団に訴え、楽員は2カ月間も楽器の代わりにプラカードを掲げたのですが、その金額の大きさに驚きます。ちなみに、シカゴ交響楽団のコンサートマスターの年収は51万459ドル(約5570万円)です。
アメリカのオーケストラが通常行うストライキは、ヨーロッパのオーケストラのストライキとは違い、経営が傾いた楽団が苦肉の策として“賃金カットをしたい”という申し出をした際に対抗して行うことが多いのですが、どちらにしても音楽ファンにとっても不幸な話です。
フィンランドの郵便局でストライキ決行中
今週、日本を除く欧米のマクドナルドの従業員によるストライキのニュースも報じられているように、欧米ではストライキはまだまだ盛んです。そんななか、同じ欧米でも僕の第二の音楽の故郷であり、2019年度世界幸福度ランキング第1位のフィンランドでは、労働争議などなく、現在の日本のようにストライキとは無縁な生活と思いきや、実は今、郵便局員によるストライキが行われています。2週間の予定ですが、12月8日までの延長もあり得ると報道されています。インターネットの時代とはいえ、やはり大きな物流に支障が出るわけで、産業への打撃も大きいですし、何よりも12月に入れば、欧米では郵便局がてんやわんやとなるクリスマスシーズン。通常は3~4日で届く郵便物が数週間かかることもよくあるこの時期にまでストライキを仄めかす労働組合との交渉は、山場を迎えているようです。
フィンランドは西側諸国の一員ですが、1991年までは西の国境線の向こうはソビエト連邦だったこともあり、社会主義の影響が強い国です。今年4月の総選挙では、フィンランド社会民主党が第一党に返り咲いたくらい、今もなお社会主義の地盤が強く、まだまだ労働組合も盛んです。ちなみに、僕は8年間芸術監督を務めていたオーケストラのコンサートホールは、100年前に設計された美しい歴史的建造物ですが、本来は社会民主党の建物だったそうです。
(文=篠崎靖男/指揮者)