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小林敬幸「ビジネスのホント」

美術館と金儲けを飛び出した現代アート、「誰でも楽しめる」化で地方芸術祭が活況

文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者
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 北川氏は、北アルプスの芸術祭にこれまでの芸術祭の成功で培ってきたアーティストやスポンサーとの関係という無形の資産を、出血大サービスで大量投入してようやく実現に持ち込んでいる。都会の画廊で、お金持ちに美術品を売っているほうが、ビジネスとしてはよほど効率的だろう。

 村上隆は『芸術起業論』のなかで、「芸術家が作品を売って生計を立てる。これは通常のビジネスです」「金銭を儲けるに足る物語がなければ、芸術作品は売れません」と、あっけらからんと明言する。そして、「スーパーフラット」というコンセプトで、世界の美術業界で名をなした。その名声を使って、村上隆の作品は、いまや印象派の絵などよりもよく売れる。ある画廊によると、ITベンチャーで成功した社長が、オタク文化のアニメキャラの村上隆作品を驚くほどの高額で買っていくという。ビジネスとしてみれば、村上隆のモデルのほうが、芸術祭よりよほど金儲けにうまくつながっている。

 芸術祭は、関係者全員が、義理、矜持、酔狂を持っていなければ実現することはできない。

興味深い作品

 北アルプス芸術祭で個人的に興味をもった作品を3つだけ紹介する。

信濃大町実景舎(作:目【め】)

 廃寺を改造した、ゆるやかな傾斜がついた白い空間を滑りそうになったり、かがんだり、はいつくばったりして進んでいくと、不思議な窓から信濃大町を一望できる。日本の現代芸術において、草間彌生が大御所、村上隆がリーダー格とすれば、新進気鋭の注目株は目【め】ではないだろうか。若手女性アーティスト荒神明香の奇妙奇天烈な妄想を、手練れの男性アーティスト2人が現実化していく。代表作「おじさんの顔が空に浮かぶ日」(宇都宮美術館プロジェクト)は、本当にたまげる。巨大なおじさんの顔が空に浮かんでいると、びっくりするだろうなあという荒神の妄想を実現した。

 越後妻有や瀬戸内の芸術祭では、公募により地元の作家に門戸を開いているものの、アートとしての質は妥協しない方針をとり、地元だからといって優遇はしていない。結果として、ほとんど地元の作家の出展はない。ところが、北アルプス芸術祭では、地元作家として知る人ぞ知る布施知子、公募に合格した青島左門が、実質国内メジャーデビューで出展し高評価を得ている。これをきっかけに、越後妻有、瀬戸内の芸術祭にも出展してブレイクすることが期待される。

花咲く星に(作:青島左門)
 
 美しい夜空、生花、LEDが組み合わさって幻想的な風景が現出する。作品の良い評判が広がり、地元でブームとなっている。私が行った20時くらいには、地元の方がたくさん子供連れで来ていて、駐車場も満杯だった。時折、ワイヤーで設置された星が揺れるが、それは闇にまぎれて作者が揺らしているとのこと。手づくり感満載だ。

無限折りによる枯山水 鷹狩(作:布施知子)

 海外ではたくさんの本を出しており有名だが、国内ではあまり知られていない、大町に住む折り紙作家。ダイナミックな折り紙に、ただただ驚く。

 番外であるが、日本酒のおいしい酒屋を見つけた。

横川商店

 地元のおいしい地酒を買いたくて、芸術作品を見る合間にも目を光らせていたが、なかなかみつからなかった。東京への帰り際の最後に、信濃大町駅前の商店街で、駅から徒歩10分のところに、素晴らしい酒屋さんをみつけた。試飲させていただいたお酒の解説がとてもわかりやすく、飲んだ実感にぴったり合致している。地元の地酒を買い、紙コップもつけていただき、帰りのバスの中でちょくっと飲んで、中央高速の渋滞をいい気分で寝て過ごした。これもまた喜ばしからずや。
(文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者)

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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