ところが、技術の検証や商品試験が十分でなかったのか、もしくは品質に対する過信に陥っていたのか、発売直後から発火事故が相次いだ。そして、焦げて黒く変色した「ノート7」の画像は、インターネットを通じて世界中に拡散した。
サムスン電子は同年9月、「一部の電池に異常がある」として、ほぼ全量にあたる250万台のリコールを表明。不具合品を新品に交換する措置をとった。しかしながら、10月4日、交換済みの「ノート7」もまた、航空機内で発火事故を起こした。サムスン電子はとうとう「ノート7」の生産、販売を全面停止した。
「ノート7」の度重なる発火事故のニュースを耳にするにつけ、私は今度こそサムスンは危機から逃れられないのではないかと思った。実際、16年第3四半期の世界市場におけるスマホのシェアは、従来通りアップルが91%と圧倒的トップの座にあった。これに対して、2位だったサムスン電子は発火事故の影響で、ついに上位5位から姿を消した。16年の第3四半期のスマホの利益はゼロに陥った。
三代目の逮捕
サムスンの試練は、その後も続いた。創業家三代目の李在鎔氏が逮捕されたのだ。同氏は17年2月17日、朴槿恵前韓国大統領側に約束分を含め433億ウォン(約43億円)の賄賂を渡したとして、検察に起訴された。黒い背広にコート姿の李在鎔氏が手錠をかけられたまま、ソウル拘置所に移送される姿を記憶している人もいるだろう。
サムスン電子の売上高は、韓国GDPの約20%に達する。そのサムスンの事実上のトップの逮捕は、韓国に少なからぬ衝撃を与えた。裁判が長期化すれば、韓国経済はなんらかの影響を避けられないだろう。
このまさかの事態に、サムスン社内にもさすがに衝撃が走った。李在鎔氏の立場はどうなるのか。グループの司令塔が不在のままで、経営は回るのか。サムスン社内の事情に詳しい関係者は、次のように語る。
「市民からいろいろと言われますからね、社員のモチベーションも落ちていますよね」
二代目会長の李健煕氏が14年5月に急性心筋梗塞で倒れてから、すでに3年がたつ。韓国の文化では、たとえ病床にあろうとも、親が生きているうちは子が親をさしおいて会長につくことは考えられないという。
「韓国では、親が亡くなったあと、3年で喪が明けます。そう考えると、そろそろ三代目が会長になっても、誰も何も言わないのではないかと思います」(消息筋)