しかし、本稿では、東芝メモリの買収候補先に最後まで残っていたにもかかわらず、いつの間にか脇役となり、買収に失敗し、忘れ去られていった台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)を取り上げたい。
7月頃に時間を巻き戻すと、東芝メモリの買収候補先は、SK Hynix陣営、WD陣営、ホンハイ陣営の3つに絞られていた(表1)。
SK Hynixの陣営には独禁法という障害がある上に、WDが同業他社の介入に猛反対しており、「東芝メモリ売却差し止め」の裁判を立て続けに起こすなどの問題があった。
WDの陣営に売却すれば訴訟リスクはなくなるが、SK Hynixと同様に独禁法の審査という障害がある上に、東芝の経営陣はWDを嫌悪していた。
一方、ホンハイには独禁法の障害はないが、経済産業省が技術流出を懸念して外為法違反を適用し、「何がなんでもホンハイには買わせない」と拒否されていた問題があった。
筆者は、この3陣営のなかで(ホンハイが買収することが良いか悪いかは別として)ホンハイ陣営が圧倒的に有利な立場にいると思っていた。巧妙に戦略を立てて実行すれば、外為法違反という障害を回避して、買収を成功させることができると考えていた。
ところが、ホンハイ陣営は有利に立つどころか、脇役に追いやられ、結果的に買収に失敗した。筆者にいわせれば、圧倒的に有利である立場を利することができず、戦略立案に失敗して経産省にダメ出しを食らい、シャープ買収のときの意趣返しをされたのである。
以下では、なぜ筆者が、ホンハイが圧倒的に有利だと思っていたのか、ホンハイの前に立ちはだかっていた障害はどのような戦略なら打破できたのかを論じたい。そして、最後に、ホンハイが買収したほうが良かったか否かについて意見を述べたい。
ホンハイが解決すべきだった課題とは
ホンハイが東芝メモリの買収を成功させるために、解決しなければならなかった問題を整理してみよう。
まず、経産省が突きつけている外為法違反を回避しなければならない。次に、東芝とWDの訴訟をやめさせなければならない。そして、東芝の取締役会に「ホンハイに売却させる」ことを認めさせなければならない。
どれもこれも相当難しそうな問題であるが、筆者はすべて解決できると考えていた。その詳細を以下に論じよう。