その提案とは、前述したマンスリーマンション紹介サイト「LIFULL HOME’S マンスリー」だ。同サイトでは、1カ月以上の短期賃貸物件を1万件以上紹介している。長期出張のビジネスパーソンや受験生などの需要に応えるほか、「上限180日」に備えて民泊以外の活用法を促すのが狙いだ。
所有物件を民泊とマンスリーの両方で運用して、安定的に収益を上げる。オーナーにとっては、確かに魅力的な提案ではないだろうか。
楽天LIFULL STAYが狙う、地方の空き家再生計画
楽天LIFULL STAYは設立から短期間で欧米、中国、台湾の民泊事業会社との提携に成功している。また、太田氏の前職は楽天トラベルチャイナ最高経営責任者(CEO)だ。グローバルな視野を培っていることが、上々の滑り出しに結びついているのだろうか。
「相手企業との話し合いはスムーズに進みました。今後は各国企業との関係をより深化させていきます。各国とも、日本の民泊マーケットを大変重視しています。欧米は民泊が文化としてすでに受け入れられており、心理的障壁がありません。
政府は、20年の東京オリンピック・パラリンピックの時点で訪日外国人観光客4000万人を目標にしていますが、この増加に寄与するのが民泊です。民泊は、決して既存のホテルなどの宿泊施設と競合するものではありません。訪日外国人観光客をより多く受け入れるためのツールなのです」(同)
今、民泊は東京や大阪などの都心部や観光地が中心だが、今後は地方にも普及することが予想される。近年、人口減少および既存住宅流通シェアの低さによる空き家の増加が大きな社会問題となっている。不動産は首都圏などの価格が下がらない地域であれば問題ないが、地方の場合は“不良債権”になることもある。そのため「田舎の家を相続したくない」という声が続出しており、不良債権化した不動産は“負動産”とも呼ばれる。
地方公共団体は「空き家バンク」などで空き家活用を図っているが、要望が少ないのが現実だ。このままいけば、地方公共団体はさらなる人口減少に見舞われる可能性がある。その救世主となり得るのが民泊事業だ。
「日本の自然というのは良い観光コンテンツであり、農業・漁業体験のできる民泊は、それほど多くの投資をせずに人を呼ぶことができます。キャンプ場の需要も多く、建築基準法などを満たすホテルのような立派な施設でなくても、空き家を民泊のツールとして活用することで、より多くの人を招くことができないかと考えています。その結果、雇用も生まれて町おこしにもつながります。
そうなれば空き家は再生し、“負動産”から集客資産になる可能性を秘めています。行政を巻き込むことも必要なので、社内に地域創生担当を置いて、さまざまな地域の行政やオーナーと話し合っています。
最終的には、民泊事業の物件を都心部と地方で半々にする。そして、民泊は地方創生に関しても計り知れないポテンシャルを秘めているということを、みなさんに知っていただき、日本の活性化におおいに役立てたいと考えています」(同)
民泊は訪日外国人向けの観光ビジネスのみならず、新たな事業創出や町おこしなど、実に多くの可能性を秘めている事業だ。そのトップランナーである楽天LIFULL STAYの動向に、今後も注目したい。
(文=長井雄一朗/ライター)