策士・SBI北尾吉孝社長、ネット金融界の覇者へ…そのすさまじい成長

SBIホールディングス・北尾吉孝社長(写真:つのだよしお/アフロ)

 メガバンクの苦境、フィンテックの進化、仮想通貨の登場など、金融界は大変革期を迎えた。そんな新時代に突入したネット金融界の“台風の目”となっているのがSBIホールディングスの北尾吉孝社長だ。

 SBI傘下のSBIバーチャル・カレンシーズは6月4日、仮想通貨の現物取引サービス「VCTRADE」を開始した。

 当初は、代表的な仮想通貨のひとつであるリップルを扱い、その後、ビットコイン、ビットコインキャッシュに広げる予定。まず口座を開設済みの2万人強の顧客を対象にサービスを始め、7月から一般向けに口座開設を受け付ける。

 1月にコインチェックによる580億円分の仮想通貨の流出事件が起きて以来、新たに交換事業を始めるのはSBIグループが初めてだ。

 仮想通貨の国内交換事業は現在、15社程度が手がけている。顧客同士の売買をつけあわせる「仲介」と、会社が自ら仕入れた在庫を販売する「販売」の2つの業務がある。そのうち、SBIは「販売」に参入した。

 かねて北尾氏は、仮想通貨の交換手数料を下げ「スプレッド革命を起こそうと思う」と述べ、仮想通貨事業でNo.1を目指す方針を明らかにしている。通貨を売る時の値段と買う時の値段の利ザヤをスプレッドという。

 交換会社の主な収益源は販売だ。現在、1回の取引額に対してのスプレッドは、3~5%前後かかる。手数料が1%未満の外国為替証拠金(FX)取引などと比べて高すぎるとの声がある。SBIは早期に業界最低水準に引き下げる計画だ。

 ネット証券のマネックスグループは、仮想通貨の流出事故を起こしたコインチェックを買収して仮想通貨の交換事業に参入した。SBIとのガチンコ勝負になる。

 SBIのコア事業であるネット証券では、SBI証券と楽天証券の手数料値下げ競争が有名だ。この競争に勝ち抜いたSBI証券がネット証券最大手に躍進した。

 ネット証券の手数料値下げ競争で勝利したSBIは、仮想通貨の交換手数料を業界最低水準に引き下げて仮想通貨業界でもNo.1を狙う。

地銀のプラットフォーマーになる

 フィンテックが金融地図を塗り替えつつある。フィンテックとは、「finance(金融)」と「technology(技術)」を組み合せた造語で、スマートフォンのインフラやビックデータ、人工知能(AI)など最新技術を駆使した金融サービスを指す。

 金融新時代を迎えたなかで北尾氏の狙いは、SBIが先端技術の塊のITを使った金融サービスでプラットフォーマーになることだ。プラットフォーマーとは、第三者がビジネスや情報配信などを行う基盤(=プラットフォーム)として利用できる製品やサービス、システムなどを提供・運営する事業者を指す。

 SBIの金融サービス事業は、ネット証券のSBI証券、ネット銀行の住信SBIネット銀行、そしてSBI損保を核とした保険関連事業の3つの分野で構成されている。出資しているフィンテックベンチャーや地域金融機関を巻き込みながら、「ひとつの生態系」(北尾氏)をつくるのが狙いだ。

 この“金融生態系”に加えて、仮想通貨、モバイルファイナンスという2つの生態系をつくり上げ、これら3つを接続させることでプラットフォーマーになるという構想だ。

 SBIの2018年3月期決算(国際会計基準)は、売上高に当たる売上収益は前期比28.7%増の3370億円、当期利益は同97.7%増の559億円で、いずれも過去最高だった。証券業は景気変動が業績に与える影響が大きい。景気が良い局面では売り上げ・利益とも上振れしやすいが、それにしてもSBIはすさまじい成長を続けている。金融サービス事業の売上収益は同20.7%増の2172億円で、これもまた過去最高である。

 プラットフォーマーの成功の秘訣は、市場占有率にある。

 コア事業であるSBI証券の実績を見てみよう。口座数(426万口)、預かり資産残高(12.9兆円)、営業利益(535億円)。二番手の楽天証券は口座数(261万口)、預かり資産残高(5.0兆円)、営業利益(206億円)。圧倒的な差をつけ、盤石の地位を確立している。

住信SBIネット銀行の預金残高は4兆4252億円で、大和ネクスト銀行の3兆4060億円を引き離してネット専業銀行のトップだ。

 保険事業は比較的新しいビジネスで、SBIインシュアランス・グループはSBI損保、SBI生命など5社で成り立っており、保険契約件数は174万件。前年の163万件から6.7%増えた。

 SBIは2つの新たな生態系をつくり上げるに当たって、戦略ドライバーとなる2つのファンドを立ち上げた。

 ひとつは人工知能(AI)やブロックチェーンを主な投資対象とする「SBI AI & Blockchain ファンド」(SBI A&Bファンド)。ビットコインなどの仮想通貨に使われる暗号技術「ブロックチェーン」を武器にする米国の有力ベンチャー、リップルやR3にいち早く出資し、連携した。

 もうひとつが地域金融機関を対象にした「SBI地域銀行価値創造ファンド」だ。専門家のいる適格機関投資家を勧誘対象にした私募の投資信託。100億円規模でスタートを切り、将来は1000億円規模のファンドを見込む。SBIグループが出資するフィンテックベンチャーの技術を、ファンドが出資した地銀に導入して企業価値を向上させる。

 仮想通貨交換事業への進出は、北尾氏がぶち上げた“地方銀行プラットフォーマー構想”の重要なパーツなのである。

 北尾氏の野望はとどまることをしらない。果たして、プラットフォーマーの覇者になることができるのだろうか。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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