メジャーリーガーから注文殺到!「Made in 埼玉」の小さな野球用具メーカーの秘密
ただし、いつも企業側から働きかけているわけでもない。取材すると、大学教員から「研究してみたい」という話があり、連携につながったケースもある。
筆者は数年前、疲労回復を促す「リカバリーウェア」を開発するメーカーを取材した。その際も、国内外の「大学との連携」や、自治体も加えた「産学公連携」を強調していた。自治体が加わる場合は、助成金を活用することもある。言うまでもないが、研究機関での検証などには活動資金も必要だ。各社それぞれの手法でエビデンスに取り組んでいる。
だが、こうした連携が成長するほど、ベルガードにとって「諸刃の剣」となりかねない。
「ベルガードは、丁寧な防具やスポーツ用具づくりに定評があったメーカーですが、最近の活動はどうでしょう。健康機能性商品は一歩間違えると、世の中の反発も大きい。従来型の商品の信頼性にも影響しかねません」(出版社の編集長)
「企画製造」をどう考えるか
経営の視点で考えると、筆者はベルガードが次のステージに入り、今後はどちらにアクセルを踏み込むかの「岐路」に立ったように思う。新会社設立後、順調に成長して注目度が増し、他社からの提携・連携の引き合いが増したからこその「岐路」だ。
もちろん、企業は時代とともに変身しなければならない。だが今回は、小さな会社が、ヒト・モノ・カネ・情報という「限られた経営資源」を見据えた変化となる。現在のベルガードは、業績が拡大しても人員は増やしておらず、埼玉県越谷市の本社もそのままだ。
筆者が最初に永井氏を取材したのは10年以上前、前身企業の社員時代だ。交わした名刺にあった「企画製造」という肩書に興味を持った。大手スポーツメーカーの分業制ではなく、川上から川下を一気通貫する小規模メーカーの心意気と受け取った。
この言葉に従えば、防具やグローブは「企画製造」だが、コラボ商品はそこまでいかない。
ベルガードは有名選手の専属契約も行わず、無償の用具提供のみを行う。気に入った選手が、自らのブログやインスタグラムなどで発信して世の中の注目度を高めた。そうした身の丈に合ったマーケティング、熟練職人の用具製作主体の事業を今後も続けていくのか。
「あくまでも当社は、『Made in Saitamaの防具メーカー』です。初心を見失わず、これまでどおり、丁寧なものづくりを心がけ、少しずつ前進できればと思います」(永井氏)
急成長を続けてきた用具メーカーの「次の一手」も注目して、折に触れて報じたい。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)