世界で唯一無二の「マツダのクルマ」を生む、データの限界を突き破る開発手法の全貌
「ボディのたたずまいをつくるという仕事は、いかに優れたデザイナーでも限界がある。2次元の絵の中でそれを表現するのは難しい。だから、クレイモデラーの仕事をフロントローディングというかたちでデザイン開発の先頭に持ってきた。これは、うまい料理をつくるための仕込みのようなものですね」
日本料理は、下ごしらえがすべてといっても過言ではない。丁寧に出汁を取り、魚の下処理をし、正しく野菜を切る。その一つひとつが料理の味を決める。クレイモデルも同じだ。仕込みがきちんとできていなければ、美しいかたちはつくれない。
「それは、造形の内から湧き上がってくるエネルギーとそれを外から収めていくようなせめぎあいでした。ギリギリのところでバランスをとる作業といってよかった」
それを解析してフォルムに置き換えていく。デザイン上の骨格をしっかりと定めて、そこに必要な“筋肉”を盛り付けていかなければならない。
「問題は、プロダクションです。実際にデザイナーがいくらコンマ何ミリをつきつめていったとしても、プロダクションができなければ意味がない。プロダクションになっても、ちゃんと狙い通りのフォルムになっているか。これは、なかなかデータではチェックできない。人の審美眼がものをいう世界ですね」
その微妙な調整作業を、呉羽は与えられた譜面に基づき、一定の持ち駒を使って、連続して王手をかける“詰将棋”のようだと語る。
「クルマをつくるには、生産要件のほか、法令の要件もあります。それらを単純に当てはめてみると、シミュレーションではボンネットやバンパーから飛び出した部分ができてしまう。そういったものを削りながら、面をつくっていく。まるで、“詰将棋”のようなものです」
数値では語れない感性の世界を表現するため、クレイモデラーの削る動きをモーション・キャプチャーを使ってデータをとり、面を削っていくこともある。
「このカーブをつくるためには、どんな体重移動が求められるか。それを解析しながら削っていきます。そんなことをやっている会社はほかにないと思いますよ」
前に触れたように、マツダのモデラーは30人に満たない。少数精鋭である。
「数が少ないからこそ、ひとりであらゆる領域をカバーしなければいけない。逆に、いろいろな仕事をすることで、自分の仕事の領域に深さや奥行きが出ますし、全体をコントロールできるようにもなっていくんですね」